小室哲哉につんく♂や長尾大、J-POPバブルで輝いた作曲家の「波乱万丈」

出版サイン会での小室哲哉('09年9月)

 Jポップの歴史を彩った作曲家が、覚醒剤取締法違反で逮捕された。男女混成ユニット『Do As Infinity』で活躍した■長尾大だ。この名前に馴染みがなくても「D・A・I」というクレジットに見覚えがある人は多いはず。浜崎あゆみの出世作『Boys & Girls』や代表作『SEASONS』の作曲も手がけた実力者である。

 それゆえ、逮捕後には自身のフェイスブックでこんな謝罪コメントを記した。

「■本件により、ファンの皆様の思い出に泥を塗ってしまったことが 何よりも心苦しく、申し訳ない気持ちでいっぱいです」

 実際、逮捕後の報道では、今も毎年、数千万円の印税収入があり、それをクスリ購入の資金に充てていたとも。ミリオンセラーが当たり前だったJ-POPバブルの恩恵を台なしにしてしまったといえる。

■懐かしい名曲たちの作曲家

 ところで、彼と縁の深い浜崎は今年、自伝的小説『■M 愛すべき人がいて』のドラマ化で再注目された。若き日の彼女を演じた■安斉かれんはその後『■僕らは強くなれる。』で歌手としてもブレイク。作曲は■五十嵐充だ。こちらは■Every Little Thing(ELT)の元・メンバー兼プロデューサーで『■出逢った頃のように』などの作詞作曲でも知られる。

 そんな話から、かつてのJ-POPシーンを思い出す人もいることだろう。'90年代から2000年代初めにかけて、■男性作曲家がアイドルやグラドル出身の歌姫をプロデュースし、ブレイクさせることが流行した。

 浜崎や■持田香織(ELT)もそうだし、■篠原涼子や■安室奈美恵、■華原朋美と■小室哲哉のケースもまたしかり。ZARDの■坂井泉水と■長戸大幸及びビーイング系作曲家のケースもそれだ。

 また、音大生だった■akkoに惚れ込んだ■小林武史が作ったのがマイラバこと■My Little Lover。音大生といえば、■川本真琴もデビューは■岡村靖幸のプロデュースだった。

 当時は「プロデューサーの時代」などとも呼ばれたものだが、その流行はやがて怪物的なアイドルグループも産み出すことに。■つんく♂が手がけた■モーニング娘。である。

 とまあ、ここまで見てきて、登場人物たちがみな、いろいろあったことにしみじみしてしまう。個人的には、狩野英孝の二股騒動で川本が話題になったことがいちばん意外だったが、かつての人気プロデューサーたちの失速ぶりにも驚かされる。

 小室や岡村は詐欺やクスリで逮捕されたし、小林は不倫で世間を騒がせた。また、つんく♂はガンを患い、声を失ってしまう。こうした悲劇の連鎖は、いったいなぜ起きたのか。

 ひとついえるのは、J-POPバブルの反動だろう。当時は音楽的才能あふれる男たちが大金も美女も手に入れられた時代だった。

 つんく♂は2000年に出した『LOVE論』(新潮社)のあとがきにこんなことを書いている。

■《ここまで読んでくれた人は、俺がどんなに女好きで、女の子のことばかり考えてるか、もう十分に分かってもらえただろう。それ以上に、俺を表現する音楽という場所に対しての情熱も伝わっただろうか》

 そんな男が、色とりどりの女の子を集めたグループを作り、国民的ヒット曲を連発したのだ。これほど幸せなことはないだろう。

 また、小室は'09年に出した『罪と音楽』(幻冬舎)のなかで、失速後も贅沢をやめなかった理由をこう語っている。

■《どれだけの借金があっても、一回のチャンス、一曲のヒットをものにすれば、すべて挽回できるという思い上がりがあった》

 さすがは芸能人の枠を超え、長者番付日本4位まで登りつめた男だ。

 しかし、■大きすぎる成功はそれ自体が心身をむしばむ。そのぶん、落ちていくことの不安にもさいなまれるし、贅沢かつ多忙な生活は不摂生につながるからだ。

 とはいえ、その危ういバランスこそがあの時代の魅力だった。たとえば今、秋元康が構築しているシステムにはそれが希薄だ。彼が若いころにプロデュースした『おニャン子クラブ』では、そのメンバーと結婚するといった色っぽいこともしたが、現在、手がけているグループのメンバーたちとの関係はあくまで、富も名声も十分に得た大先生と、娘どころか孫みたいな教え子にすぎない。

 そんな秋元が今回、乃木坂46の新曲を小室に依頼した。小室にとっては、引退状態からの復帰作だ。秋元にしてみれば、自分とは違う天国と地獄を経験した小室によってグループに刺激がもたらされることを期待したのかもしれない。

 人間の欲が振り切ったところで生まれる音楽には、独特の色気がある。そして、J-POPバブルの寵児たちの凋落は、そんな時代が過去になったことを痛感させる。それゆえ、当時のヒット曲がいっそう懐かしく、愛しくも感じられるのだろう。

PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。

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