キンコン西野亮廣の『プペル』鑑賞会に潜入! 目撃した“ファンとの異様な交流”

西野亮廣

 映画『えんとつ町のプペル』が公開されてからというもの、何かと連日ネットが炎上している。その黒煙に飲まれているのが原作・製作総指揮・脚本を務めるキングコング西野亮廣だ。

 とりわけネットで物議をかもしているのが、ヒット中の同作を支えているという『オンラインサロン』メンバーとの“関係性”。「まるでマルチ商法」「宗教みたい」「教祖と信者」といった言われようをしているのである──。

 サロンメンバーが回数を競い合うように映画を鑑賞する様子(「今日で3プペ目です!」といったように)や、映画を広めるためにメンバーの若者が失業保険を使って「台本とチケット80セットを販売できる権利」を購入したものの、全く売れていないなどといった現状がネット上で顕在化するようになったことからざわつき始めることに。

 また、「西野と一緒にプペルを語りあいながらZOOM飲み会をできる権利」「東京タワーで行われた個展の撤収作業ができる権利(西野不在)」を5万円で販売していたことも掘り起こされた結果、“教祖と信者”と形容されるようになってしまった。

■“教祖”がやってくる「スクリーン7」へ

 しかし、西野はサロンメンバーにこういった権利について「買え」と強制しているわけでもないし、そもそも騙しとっているわけではない。集めた支援金は、作品づくりやその広告宣伝費などに回す=夢を叶えるために使っているのだ。すでにサロンメンバーは、かねてから西野が公言している「ディズニーを倒す」というストーリーを共に追う“当事者”のひとり。アンチによる叩きも“挑戦の前に立ちはだかる障害”として、彼らの物語の一部となり、結束を強める材料になっているのだろう。

 それにしても、果たして“教祖と信者”的な関係性など本当に存在するのだろうか──。そしてレビューサイトで評価が真っ二つに割れる『プペル』は一体どんな作品なのか。気になった私は映画『えんとつ町のプペル』を観にいくことにした。選んだのは2月6日、15時20分にTOHOシネマズ六本木で上映される回。なぜなら、西野が事前に「僕と一緒に劇場で観ましょう」とYouTubeで呼びかけていた回だったから。

 都内で3番目の大きさを誇るという512席もある「スクリーン7」はすでに満席状態。

西野が座ったのはF-3番席。左手の通路は封鎖されていたという

 絵本原作のストーリーにも関わらず客層はほとんどが大人。男女比は半々くらいで、カップルが多い印象だ。なかにはプペルのロゴが入ったマスクをした人や、絵本の主人公・ルビッチのコスプレをした少年を連れた親も。

 本編が始まるちょうど1分前、西野はひとりでやってきた。通路を横切って入り口から離れたF-3の座席に着く。何人かは彼がやってきたのに気づいたようだが、特にざわめく様子はない。まもなく劇場の照明が落とされ、本編がはじまった。

──100分後。館内が明るくなるその瞬間、びっくりして声をあげそうになった。タイミングを合わせたかごとく、いっせいに万雷の拍手が轟いたからだ。「パチパチパチ」を超えた「ヴァチヴァチヴァチ」くらいな勢いの。

 割れんばかりの賞賛のなか、すっと立ち上がった西野は四方にお辞儀を繰り返しながらスクリーン中央の通路を横断する。一歩ごとに、手を叩く音はひときわ強さを増して響き渡る。出口付近でピタッと止まると、マスクをとって深々とお辞儀。そのまま一言も発することなく、映画館をあとにした。本当に「一緒に観る」だけでなんの交流もないんだな。ファンからすれば同じ空気を吸いながら鑑賞できるだけで嬉しいということか。ふと最後列をみやると、スタンディングの状態ながらも妙に落ち着きのある拍手をしていた一団がおり、「これは10プペ超えのサロンメンバー幹部か……」などと勝手な想像がふくらむ。

 握手やサインを求めて近づくこともできない。スマホのカメラを向けるようなミーハー客もいない。ただ観客たちの視線は、西野の一挙手一投足を追いかけ、無言で全力の拍手を贈っている。コロナ禍におけるマナーを徹底していて、素晴らしい行いなわけだが、その礼賛の雰囲気が、“教祖と信者”を感じさせるような空間を演出していたような……。

 というのも、“スタンディングオベーションをするほど面白かったか?”と思ってしまったからだ。映像は素晴らしいが肝心のストーリーがアレ……? といった感じで。失礼かもしれないが、西野本人も「ちゃんと作品を観た上で好き嫌いをいうのはOK」と言っていたので許してほしい。

■めまいがするほどのナルシスト

 ネタバレになるので具体的なことが書けないかわりに、過去に対談で彼が発言していたことを引用したい。すでに『プペル』の脚本が完成していたという2015年のことである。

■《映画はあんまり見ないんですよ。本もあんまり読まない。皆さんの想像以上に僕、自分のことが好きでね。めまいがするほどナルシストなんです。本当そうなんです。映画観に行く時間と自分がモノを創りたいという欲を天秤にかけたときにですね、やっぱ家でこうやっている(書くジェスチャー)のほうが楽しいんですよね》(『岡田斗司夫 YouTubeチャンネル』)

 そういう人が作った映画なんだろうな、というのが個人的な感想である。素人が口を挟むなとお叱りを受けそうだが、脚本家としてストーリーを作る以上は、なるべく多くの作品に触れておいたほうがいいのではと思った次第。

 ネットで“信者がまたプペってる”と揶揄されてしまうのも、作品のクオリティと無関係とは言い切れないだろう。現に『鬼滅の刃』ファンたちによる「今日も無限列車に乗車しちゃいました〜」のツイートに対し、信者とする声は聞かれないわけで。同じアニメ映画ながら、“子どもウケ”の数が圧倒的に違うのも両作を隔てるポイントかも。

人々の日常に溶け込む『プペル』の広告(新宿ビックロ前)

 2016年に出版された絵本『えんとつ町のプペル』は絵本作家やCGアーティスト作家など35人を集めて共同製作された。映画版も一流クリエイターが集まる『スタジオ4℃』がアニメーションを制作している。西野は「キャラクターは描けないけど建物を描くのは得意な人もいる」という考えのもと、異なるスキルを持ったプロたちを適材適所に振り分けていったという。

■《映画だったら、監督さんや照明さん、美術さんとかがそれぞれいて、一つの作品を作りますよね。だって、そのほうがいいものができるから。監督さんがメイクをするよりも、プロのメイクさんに頼んだほうが、映画は絶対にいいものになる。(中略)空のプロフェッショナル、森のプロフェッショナル、建物のプロフェッショナル、と集まって一つのものを作りたい、と思いました》(『いちあっぷ』2016年11月15日配信)

 その理屈でいえば、脚本のプロフェッショナルも集めたほうがより良い作品が生まれるのではないだろうか。彼が打倒を目指すディズニーの『スタジオピクサー』最新作『ソウルフル・ワールド』の脚本も3人の名前がクレジットされている。オンラインサロンでエンタメを研究している彼が、そのことを知らないわけがないはず。それでも、脚本を手がけるのは西野亮廣ひとりなのである。そこにこだわるのは、本業はオンラインサロン経営者でなく、あくまでアーティストなのだという矜持のあらわれか。それとも、「夢を持てば笑われ、叩かれた。それでも挑戦をやめなかった」西野の半生がモロに投影された作風の『プペル』においては、“ひとりで書き上げる”ほうが教典となりうると考えたか──。

■《僕、絵本を書くって言った時に、結構バッシングがあったんですよ。なんで芸人なのに絵本書くんだって。ひな壇に出ないって決めた時にもバッシングがあった。その時に、学校だとか会社とかで、意思表明をしたら軽い村八分に遭っている人たちがバッと集まってきたんです。それで「この人たちを徹底的に応援しよう」って思った。(中略)だからその人たちのことは常に考えているよ》(別冊カドカワ2017年11月)

 結局、答えは彼本人にしかわからないのだが。 

 西野が劇場を後にしたあと、ぞろぞろと映画館を後にする客たちのなかに、この日彼が一緒に鑑賞する回だと知らなかった女性二人組が何やら話しているのが聞こえた。年は20代半ばくらいであろうか。

■「びっくりした。最初、なんで拍手してるのか全くわからなかった」

■「ね。……毎回いるのかな?」

 そう、彼はこの「一緒に鑑賞」する営業活動を全国で行なっており、もう少しで100劇場になるのだという。…… もうすぐ100プペである。そのことを彼女たちに教えてあげたい。

 普段から西野は「睡眠時間は2時間」とアピールしている男だ。この映画を観るのに費やした10000分の間に、一度も居眠りをしていなかったら本物である。

〈皿乃まる美・コラムニスト〉

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