TWICEモモの熱狂的ファンになったきっかけは前髪とiPhone11 K-POPファンダムの特異性

TWICEモモの熱狂的ファンになったきっかけは前髪とiPhone11 K-POPファンダムの特異性

ファンが贈った“ファンライス”(画像はWikipediaより)

 先月、興味深い経緯でK-POPガールズグループ・TWICEのファンとなったあるひとりの男性が、米「TIME」誌の記事 『K-POPグループTWICEについて知っておくべきこと』に取り上げられた。

 彼の名前はジャック・ファン、米オレゴン州に住む42歳で、「DigitalTrends」「MoneyCrashers」といった大手ウェブメディア企業のCEOを務めている。

 ファン氏がTWICEファンとしての人生を歩み始めることとなったのは、今年9月10日(米現地時間)のある現象がきっかけだった。

 9月10日といえば、二つのトピックが世界を席巻した日である。ひとつは、iPhone11のリリースの発表。そしてもうひとつは、TWICEの新曲『Feel Special』発売前予告映像(ティーザー)で、メンバー・モモの前髪が消え去ったことが明らかになったことだ。

 2015年のデビュー以前から、モモの額は前髪によって隠されていた。世の中には、前髪にこだわりを持つ人たちが存在する。たとえばaikoの曲『シャッター』では<切りすぎた前髪 右手で押さえて少し背を向けて歩いた 嫌われたくないから>という歌詞が登場するし、元モーニング娘。の田中れいなはよく“前髪のコンディションがその日の機嫌を左右する”といった旨の発言をしている。

 果たしてモモが自身の前髪にどのような思いを抱いているかは分からないが、とにかくモモが4年前のデビュー時からキープし続けていた前髪のスタイルを変え、額を出したのは、さぞかし勇気のいることだったろう。この勇気ある決断に、そして待望されたモモの“おでこ解禁”に、世界中のTWICEファンが歓喜の声を上げたのだった。

 このことによって、9月10日のTwitterでは、<#MOMO>というワードが世界規模でトレンド入りを果たしていた。



 ファン氏の話に戻る。9月10日、iPhone11のリリースに関するニュースをチェックしようとTwitterを開いたファン氏は驚き、思わずこうツイートした。

<#Apple Eventが今、行なわれているというのに、#MOMOが世界でトレンドになっている。What is MOMO?!?(MOMOって何?!?)>

 ファン氏の驚きに対して、米コラムニストのジェフ・ベンジャミン氏がいち早く反応。<まず、彼女がモモです>と、モモのGIF画像つきでリプライしている。

 後日、米「AGEIST」誌の記事にて、ファン氏は当時を振り返ってこう語っている。

<TWICEが誰なのか、モモが誰なのか、そして彼女のおでこがなぜAppleよりも大きなニュースになっているのか、その理由を私に知らせるべく熱狂的なファン達からメッセージの洪水が続きました>

 そして、こう続ける。

<私はこの反応を驚くべきものだと思い、次のようにツイートしました。“#MOMOというハッシュタグは、K-POPの子のおでこが出ているということでApple Eventよりも上位にトレンド入りしているのですか?”>
<I’m so confused…(とても戸惑っています…)>

 しかし、この戸惑いこそが、ファン氏が見知らぬ文化の扉を開けるきっかけとなった。それからのファン氏は、まさに乾いたスポンジのごとくTWICEの情報を吸収していく。

 ファン氏はTWICEの新曲『Feel Special』を自らピアノでカバーした動画をアップし、韓国の人気バラエティ番組『?? ???(週間アイドル)』を観て爆笑し、ファンアート(ファンがアーティストを模して描いた2次創作イラストなど)を募集して一冊の本にまとめ、所属事務所に送った。

 そして、あの<What is MOMO?!?>ツイートからわずか1カ月と10日で韓国へと渡り、ファンたちと交流して、TWICEデビュー記念のファンミーティングイベントへの参加を果たしたのだった。

https://twitter.com/JackPhan/status/1185577436748140545

※左側の男性がジャック・ファン氏

 ファン氏はいったい何段飛ばしでオタクの階段を駆け上がっていくのだろう。早くも来年10月20日(TWICEのデビュー記念日)のスケジュールを空けるべく、調整に入っているという。

 そもそも、ファン氏はなぜTWICEへとのめり込んでいったのか。それは彼がTwitterのフォロワー122万人を抱える著名人であるために、たった一言<What is MOMO?!?>と呟くだけで多くの情報を収集することが出来たから、という理由も考えられる。

 しかし例えファン氏のような著名人でなくとも、また彼のように韓国語を母語としない者にとっても、K-POPはファンダム(ファンによって形成される文化やその世界)が築いたデータベースによって、情報収集が容易なフィールドとなっているのだ。

 熱狂的なK-POPファンは、情報の共有性や即時性を特徴とするRT(リツイート)機能を持つTwitterを活用し、アーティストの空港や会場の出入り待ち、コンサートの動画や写真を共有することで、韓国語を理解しない他言語圏の人たちにも視覚情報として行き届かせるという流れが出来上がっている。

 また、熱狂的なK-POPファンは、スクリーンショットで保存したキャプチャ画像やファンアートなどをアップする際に、各々の母国語以外の言語で説明を加えたり、韓国語の雑誌インタビューやテレビ番組、生配信動画などの翻訳を積極的に行なったりすることも多い。そのために、例えばファン氏がTwitterの検索窓に韓国語の「?? ????」とは打ち込まず、英語で「MOMO TWICE」と検索しても、ファンの膨大なツイートがデータベースとなっており、情報を収集することが可能であったのだ。またこれは、ファン氏がTWICEにのめり込むきっかけとなったキーワード<#MOMO>が、韓国だけでなく世界規模のトレンドワードになり得た理由でもあるだろう。

 ただし、こうしたファンによるデータベースの一環を担っているアーティストの出入り待ち、コンサートの動画や写真の撮影は、公式には禁止事項だ。一方で、これらの行為によってアーティストの情報が共有されていくことを運営側や公演主側が逆手に取って利用しているように見えるケースも多くあり、こうしたねじれ現象もK-POPマーケティングの大きな特徴であり、同時に問題点であるとの見解もある。

 ファン氏はK-POPファンダムについて、起業家の視点からこう分析している。

<起業家である私は、20年以上にもわたり、個人的なつながりや人々の好きなものに対する熱意を調査することを通じて、顧客を引きつけるビジネスの構築を行なってきました。そして、ONCE(TWICEファンの総称)が持つ情熱は特別なものでした。(略) 私はそのポジティブなエネルギーに夢中になり、主に10代の若者で構成されるファンダムへ即座につながることが出来ました>

? ファン氏の言う通り、K-POPファンダムが持つ熱量の大きさは特異なものである。たとえば“推し”のデビューや誕生日を祝うために有志が募金を呼びかけて記念広告を駅構内やバス停などに設置したりする。また、“ファンライス”と呼ばれる独特の文化は、“推し”に米袋を贈ることで敬意や支援の意を示すものだ。さらにその後、ファンライスは“推し”の名義で慈善団体に寄付される。こうしたファンカルチャーは、他の文化圏にいる者にとっては驚くべきエネルギーを秘めたものとして映るだろう。

 この特異なエネルギーこそが、外部からファンダムへのアクセスを容易させ、ファンの輪を世界規模で拡げている一因であるともいえる。

 続けて、ファン氏はこう語る。

<ほとんどの人は、K-POPはミレニアル世代やY世代、Z世代の現象であり、キャッチーな曲と高度にシンクロされたダンスを楽しむティーン向けのものだと思っています。しかし、私は(ファンダムを知って)すぐに、世界中にあらゆる年齢、性別、考え方のファンがいることが分かりました>
<特定の(世代の)ジャンルの音楽を聴いたり映画を観て育っても、文化は永遠に続いていくものです。その文化があなたに繋がり、あなたを幸せにするなら、何もあなたを妨げるものはありません。私たちは幸せになるのに“年を取りすぎている”ことはないのです。私の“青春の泉”は一日の終わりに私を笑顔にし、幸せにし、“Feel Special”にしてくれます>

 驚くべきことに、ファン氏は今、韓国語学習に熱中しているという。カラオケで韓国語曲を歌うことを目下の目標としているというファン氏にとって、新たな文化を通じて多くの思いがけない出会いや学びにインスパイアを得る体験こそが、“青春の泉”といえるのではないだろうか。

 しかし先述の通り、K-POPのファンダムは、公演中やアーティストの出退勤の動画・写真を撮影する迷惑行為(オフ時などのプライベートを撮影するまでにエスカレートするケースも多い)などの多くの問題点を抱えているということも、残念ながら念頭に置かなければならない。現時点において世界中で多くのファンを擁するK-POPカルチャーは、ポジティブな独自性と共に再考すべき課題が表裏一体となって存在している。ファンダムの持つ熱量が新たなファンを生むといったファン氏のような例は、そのポジティブな側面がもららしたものだったといえるだろう。

 ファン氏が新たに出会った文化に対する姿勢を表した下記のツイートを参考にして、その“青春の泉”が絶えぬよう、これからもファンダム自身がK-POPへの愛と自己批判精神を持って善処していくことを願う。

<Still leaning.Always be learning.(まだ学びの途中です。いつだって学びの途中なのです)>

関連記事(外部サイト)