薬物事犯の芸能人に相次いだ“リンチ報道”、なぜいけないか考えてほしい

薬物事犯の芸能人に相次いだ“リンチ報道”、なぜいけないか考えてほしい

Getty Imagesより

 2019年は芸能人などの著名人による薬物報道が相次いだ年だった。主だったものを挙げるだけでも、3月のピエール瀧を皮切りに、田口淳之介(元KAT-TUN)、田代まさし、JESSE(RIZE)、KenKen(RIZE、Dragon Ashなど)、國母和宏(スノーボード選手)、沢尻エリカなど、枚挙に暇がない。

 インターネットを中心に、こういった著名人逮捕を扱うメディア(特にテレビのワイドショー)の姿勢は議論となった。顕著だったのがピエール瀧に関する報道である。

ピエール瀧へのバッシング

 ピエール瀧は逮捕当時、『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK)や『アナと雪の女王2』の日本語吹き替え(オラフ役)など大きな仕事を抱えていたことから、損害賠償や違約金を推測して面白おかしく扱う情報番組が続出。なかには、その額を100億円と報道するものまであった。

 また、ピエール瀧自身の人間性そのものを全否定するような報道も散見された。

 たとえば、3月16日放送の『ウェークアップ!ぷらす』(日本テレビ系)では、ピエール瀧を扱うコーナーの冒頭から司会の辛坊治郎が<裏切りは長年にわたっていたようです>と言い放つ。

 番組では、ピエール瀧が20代から継続して薬物を使用していたと供述していることを受けてジャーナリストの田崎史郎が<2、3年前にちょっとした調子にたまたまやってこうなったのかなと思ってたんですけど、もう20代からやってるってあれでしょ。だから、悪らつ性っていうか、非常に悪い印象を持ちますよね>などと述べた。さらに辛坊は、これから放送・公開される予定だったピエール瀧出演作品をリスト化したパネルを指しながら、こんな一言でコーナーを締めくくった。

<直接こういう状況下にいる人物に、こういうものが公開されることで経済的利益がもたらされることに関して違和感をもたれる人も多いかもしれない>

 海外では俳優やミュージシャンが薬物使用で逮捕されても制作が終了している作品がお蔵入りになることはまずなく、日本の芸能界における過剰反応に対する疑問の声が少なくないのだが、そういった状況に対する考察などはついぞ見られなかった。

バッシング報道がもたらす社会的影響

 薬物で逮捕された芸能人を過剰にバッシングしたり、興味本位でプライベートを暴く報道は、その芸能人個人にとどまらず、社会全体に悪影響をおよぼす。

 精神科医の松本俊彦氏(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長)はWEZZYのインタビュー取材でこのように語っている。

<報道は薬物使用者に対してかなり批判的で、人格否定のような発言も見受けられました。それらの発言は、当事者である薬物依存症の患者さんたちの希望を奪ってしまうという問題があります。
 薬物を使用している人たちは、本当は助けてもらいたいのです。でも、「自分は犯罪者だし、治療を受ける資格はないんじゃないか」と思い込んでおり、なかなか治療に踏み出せない現状があります。もともとのそうした状況に加えて、テレビで薬物を使用した芸能人がバッシングに晒されているのを見ると、「やっぱり薬物に手を出した自分はダメ人間なんだ」「社会には自分の戻れる場所がないのではないか」と絶望し、ますます治療から遠ざかってしまうこともあるのです>



 薬物事犯に関する報道には他にも留意すべき点が多くある。

 たとえば、イメージ映像として「注射器」「白い粉」が画面に映ることがしばしばあるが、こういった演出は、薬物依存の治療をしている人の欲求を刺激し、再使用に誘導してしまう恐れがある。

 そういった状況を避けるため、評論家の荻上チキ氏を中心に、松本俊彦氏、上岡陽江氏(ダルク女性ハウス代表)、田中紀子氏(ギャンブル依存症問題を考える会代表)といった専門家が集まって、「薬物報道ガイドライン」というものが発表されている。

 2017年につくられたこのガイドラインでは、薬物に関する報道を行ううえでメディアが「避けるべきこと」と「望ましいこと」が具体的に言及されている。

<薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと>
<「白い粉」や「注射器」といったイメージカットを用いないこと>
<「人間やめますか」のように、依存症患者の人格を否定するような表現は用いないこと>
<逮捕された著名人が薬物依存に陥った理由を憶測し、転落や堕落の結果薬物を使用したという取り上げ方をしないこと>
<「がっかりした」「反省してほしい」といった街録・関係者談話などを使わないこと>

沢尻エリカへのバッシングも何も変わらなかった

 ピエール瀧に関するテレビの報道には、インターネットを中心に批判の声が多く起こった。

 ネットニュース記事ではWEZZYも含め、「薬物報道ガイドライン」を用いながらそういったメディア状況の問題点を指摘するものが目立つようになっているが、その後もテレビの報道姿勢はなかなか変わらない。

 11月には沢尻エリカが逮捕された。彼女に対しても「薬物報道ガイドライン」に照らし合わせれば問題ある報道が少なからずあった。

 その一例が18日放送の『スッキリ』(日本テレビ系)である。この日の放送ではMCの極楽とんぼ・加藤浩次が沢尻の行動を厳しく批判。

<沢尻容疑者はやんちゃなイメージで、いろいろあって、そして落ち着いて仕事頑張ろうとしているふうに世の中には見えていたと思うんだけど、やんちゃな部分を隠して、それは夜クラブなどに行って薬などをやっている。でも仕事のときになったらいい顔しておくって、二面性になっていただけな気もしてしまう>
<自分で自分のキャリアをどんどん傷つけて、もう1回やり直す、1から頑張る、またこういうことをやってしまう。繰り返してしまう状況。過去を振り返るとわかるね>

 同番組では、コメンテーターの橋本五郎氏が<(薬物を)やらざるを得ない状況、仕事に行き詰まるとか、いろんなことがあったのか、きっかけは何だったのか>と、沢尻が薬物に手を出した動機について語る場面があったのだが、その際、加藤は<仕事に行き詰まっている人はいっぱいいますよ><遊び半分でやったのが続いているだけ>と断罪。

 さらに、<細かい理由を周りが考える必要はない。10代20代のころに遊び半分でやっていたことの延長じゃないですか>と、事情もよく知らぬまま「自堕落な生活がもたらした結果」と、憶測含みの持論を展開してしまっていた。

 2020年以降も芸能人やアスリートなどの著名人が薬物で逮捕されることはあるだろう。せめて、薬物依存に陥った理由の憶測や、依存症患者を転落や堕落のイメージのみで捉えることはやめてほしい。テレビが現状の報道姿勢でいいのかどうか、考え直すときはとっくに訪れているはずだ。

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