自分は女じゃないかも…。俳優・中山咲月がカミングアウトした理由

ミステリアスでジェンダーレスな雰囲気で人気の俳優・モデルの中山咲月さん。9月に発売する初のフォトエッセイ『無性愛』では、ご自身が無性愛者であり、トランスジェンターでもあると告白しています。出版を記念して特別に語っていただきました! 告白に至った経緯や抱えてきた思いとは?

■トランスジェンダーだと気づいたときはショックでした

――これまで「ジェンダーレス」といった言葉で語られることの多かった中山さんですが、今回の『無性愛』では「中性的じゃたりない。男になります」と、ご自身がトランスジェンダーであると告白しています。この告白に至ったきっかけがあれば、お教えいただけますか?

中山 『彼らが本気で編むときは、』という、生田斗真さんが主演されている映画を見たんですが、それがトランスジェンダーの話で。カミングアウトすることの難しさを題材にしている映画だったのですが、それを見たあと、丸1日苦しんだんです。なぜ苦しんでいるのか理由もわからないまま、本当にモヤモヤした気持ちでずっと過ごしていたんですが……。いろいろ考えた結果「共感できる部分がすごく多い」「自分はトランスジェンダーなのかもしれない」と思ったんですよね。

トランスジェンダーだと認識するきっかけって、恋愛であることが多いらしいんですよ。同性のことを好きになった結果、自分はもしかしたら今とは違う性なのかもしれない、と気づく。ただ、自分の場合、無性愛者なのでそういった経験がなくて、きっかけが全然訪れなかったんですよね。でも、その映画がきっかけで、自分のことがまた新たにわかりました。

――いわゆる性自認にはいろんなパターンがありますよね。例えば女であるという自認、男であるという自認、さらに、男性とも女性とも言えないXジェンダーや、まだ性自認が定まっていないクエスチョニングなどもあると思うのですが、中山さんの「自分は男なんだ」という感覚は、どういったときにわかったのでしょうか?

中山 それはもう、日常生活のなかに散りばめられていますね。もう日々日々、毎日1回は、自分は女じゃないと思っていました。本当に些細なことを例に挙げると、自分には弟がいるんですけど、弟が声変わりしたときに「自分は弟より年上なのに、なんで声変わりしないんだろう」と一時期、病んでしまったりだとか。

あとは、お仕事とかで男性俳優さんに囲まれたときに「自分だけ身長小さいな」「ガタイも良くないな」と感じたり。ファッションも、女性らしい服を着るときは、違和感がすごいんですよね。着たくないなと思ってしまう。すべて、周りからしたら「女だから当たり前だろう」って感じなんですけど、自分は自分のことを女だと思えないので、苦しい、生きづらい、と感じてしまう。

――自認している性が男性だからこそ、女性として扱われるたびに違和感があったということなんですね。でも、ご自身がトランスジェンダーだと正式に気づかれたのは、最近の出来事ではありますよね。それまでは、そういう扱いをされる度に感じる違和感を、どうやって受け入れてきたのでしょうか?

中山 やっぱり、現実逃避はしていましたよね。仕事とかで女性扱いを受けたときは……正直に言ってしまうと、仕事がつらくて。極論言うと、生きているのもつらくて。なんでこんなにつらいんだろうって、その理由もわからなかったんです。でも、トランスジェンダーだと認識したあと、長い付き合いの友達に「自分は女じゃないかもしれない」とカミングアウトしたら「知ってた」って言われて。自分より先に知ってくれていて、なおかつ自分のことを女性として扱っていなかったんです。親友が自分のことを、女性ではなく人間として扱ってくれていた環境があったから、気持ちの逃げ道になっていたんだなって思いますね。

――自分が無性愛者であることがわかったときは、わからない感情に名前がついた安心感があったとおっしゃっていましたが、自分がトランスジェンダーだとわかったときも、安心感があったんでしょうか?

中山 いや、それが、どちらかというと、ショックだったんですよね。その映画を見るまでは気づいてなかったのですが、たぶん……気づきたくなくて、自分自身をごまかし続けていたんだろうなっていうのはすごくあって。「普通」への憧れみたいものが、やっぱりあるので。当たり前にみんなと恋愛の話や恋愛ができて、生まれた性別のままで生きていけるって、今より全然苦しまなくて済むんだろうなっていう思いがあったんです。だからこそ、トランスジェンダーだと気づいたときは、またひとつ、普通から離れてしまったというショックがあって、つらかったです。

――自分の中でも、気づかないようにしていた部分だからこそ、受け入れるのはつらかったんですね……。それでも公表しようと思われたのは、なぜなのでしょうか?

中山 公表しないことを選ぶということは、この先も女として扱われ続けるということになりますよね。これまでは自分をごまかし続けてなんとかなっていましたが、自分が男だとはっきり認識したあとは、その扱いを我慢することはさらにつらくなると思ったんです。実際、自分がトランスジェンダーだと自覚したあとに、いくつか仕事をしたんですが、明らかにつらさの重みが違ったんですよね。「ボーイッシュな女性ですが」のようなことを言われたときに「あれ。つらいな、前以上に苦しいな」って。「これ言わないとダメになるな」って思いましたね。

――今回、トランスジェンダー(自分は男性)であることを発表してから、何か気持ちに変化などはありましたか?

中山 はい。やはり、生きやすくなりましたね。苦しんでいた気持ちが、発表することによってすごく軽くなりました。これまでもファンの方々には多少伝えてはきましたが、こうして書籍で発表することで、ファンの人だけじゃなく、自分のことをまだ知らない人にも届けられたら、さらに生きやすくなるんじゃないかなって思っていますね。

――中山さんは、無性愛者かつトランスジェンダーであるということで、いわゆるセクシャルマイノリティの一員であると思うのですが、同じように、なにかしらのセクシャルマイノリティで悩んだり苦しんだりしている人が、残念ながらまだ多くいると思います。そんな人たちに、中山さんからかけてあげたいメッセージがあれば、ぜひお願いします。

中山 こういうお話になると「セクシャルマイノリティの人に向けて」っていう話になりがちですよね。もちろん、その方達にも伝えたいことではあるんですが、極論を言えば、セクシャルマイノリティでなくても、人間なら誰しも、なにかしら悩みを抱えていると思うんです。男性だからこうしろ、女性だからこうしろ、という世間からの理不尽な扱いであったり、自分は他の人とは違うかもしれないという違和感であったり。その悩みの重さは、自分たちと変わらない。いわゆる「普通」と言われる人たちも、生きていくうえで悩み苦しんでいると思うんですよね。

今回、本を出させてもらったときに、セクシャルマイノリティじゃない人にも届けられたらいいなって思ったんです。自分はテレビや舞台に出るという、いわゆる表に出る仕事をしているので、外から見ていると、笑顔で楽しそうだなって、ちょっと遠く感じると思うんですよ。でも、芸能の仕事をしている人も同じ人間で、みんなと同じように悩みを抱えていて、苦しみながらも一生懸命生きているんだということが伝わればいいなって。

がんばっている姿は見せないほうが素敵だっていう人もいるけど、自分は、格好悪くて惨めに見えても、もがき苦しんでもがんばっている姿を、みんなに見て欲しい。そうすることで、みんなも嫌なことや大変なことを乗り越えていけたら……。そう思ってこの本を作りました。本を読んだ人に、そう感じていただけたらうれしいですね。

■好きなように生きる「ならず者」への憧れ

――ここで話題を変えまして、フォトエッセイのビジュアルについてお聞きします。学生服に身を包んだ少年、うるわしきバーレスクのトップスター、憂いのある文豪など、まるで小説を読むような、溜息がでるほど美しい写真の数々ですね……。これらのなかで、中山さんが特に気に入っている写真は、どれですか?

中山 今回の取材の前に、改めて本を見返したのですが、一番好きなのは、このシーンですね。バーレスクの用心棒をしている「ならず者」という設定で。自分の今の心情に一番近いものが、これなんですよ。これはキネマ倶楽部で撮影したんですけど、同じ場所で撮影した別の写真もあります。そちらはスーツを着て表舞台で笑っている自分、みんなにキラキラを見せるための自分だけど、この写真の「ならず者」は、ありのまま、素のままで生きている。お金もあまりない設定だけど、きっと、こっちのほうが生き生きしていると思ったんですよね。幸せかどうかはわからないけど、でも自分の好きなように生きている。自分で演じているんですけど、憧れというか、こうなっていきたいなって思える写真です。

▲中山さんお気に入りのシーン

――撮影で、これは苦労した! というシーンはありますか。

苦労したシーンはやっぱりここですね。海!! 本当に寒かった……(笑)。自分よりもカメラマンさんのほうが大変だったとは思いますが、4月のまだ寒い海の中に入って、しかもけっこう深い所まで行って、波も強かったので……もう寒くて、どんな気持ちだったか、あまり思い出せないくらいです(笑)。

――『ヴェニスに死す』の主人公をオマージュしたシーンもとても素敵でした! 永遠に歳を取らない美少年という感じがして……心を掴まれました。

中山 ありがとうございます。生まれたときから男性として育っている男性は、力強い感じになるんですけど、女性に生まれて男性になっていくっていうのは、やはり限界があって、力強くならない、男らしい顔つきにならなかったりするんですよね。それはハンデでもあるけど、逆に捉えたら、永遠に少年でいられるとも言えるなって思って。それは自分の個性であり魅力になるのかもしれないと思いますね。

▲フォトエッセイ『無性愛』は9月17日発売!

――最後に、今後の「中山咲月」の活動として「こんなことをやっていきたい!」といった展望をお聞かせください。

中山 この本を出させてもらって、いろいろ考えたんですけど……。自分が最終的に目指す目標というか、こういう世界になって欲しいなと思うのは「女性だったけど男性になった俳優が、男性役をやります」じゃなくて「トランスジェンダーが男性役をやることも当たり前」になったらいいなって思います。特別なことじゃなくて、ちゃんと男性と並んで競い合っても大丈夫な世界になっていけたらいいなと。もちろん、トランスジェンダーじゃない男性が、女性の役をやってもいいと思うんですよ。男性が、女性がっていう分け方じゃなくて、性に囚われず、その役に合う人間という視点で決まるような世界になればいいなと思いますし、自分もそういう活動をしていきたいなと思います。

――中山さんがご活躍されて、トランスジェンダーということが話題にならないぐらい当たり前に男性の役をやっていくことで、そういった世界に向かう道標になっていける気がしますね! このたびは、貴重なお話をありがとうございました。フォトエッセイ『無性愛』が、多くの人の手元に届くことを祈りつつ、中山さんの今後のご活躍を、よりいっそう楽しみにしています。

『仮面ライダーゼロワン』亡役の中山咲月が無性愛者であることを公表 | WANI BOOKS NewsCrunch(ニュースクランチ)( https://wanibooks-newscrunch.com/articles/-/2301 )

■プロフィール

中山 咲月(なかやま・さつき)

1998年9月17日生まれ、東京都出身。モデル・俳優。13歳でモデルデビュー、雑誌や広告で活躍。俳優として初出演した「中学聖日記」のジェンダーレスな役が話題に。2020年には「仮面ライダー ゼロワン」亡役に抜擢。2021年、日本の結婚観に一石を投じたオンライン演劇『スーパーフラットライフ』に出演し話題となった。

〈大久保 亜季乃〉

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