「カートが死んでかわいそうだから推したのに!」永野の理不尽な怒り

お笑いとロック――遠いようで実はとても近い両者の共通点を、今、最もヴィヴィッドに感じさせてくれる男が永野。昨年上梓した初の著書『僕はロックなんか聴いてきた』(リットーミュージック刊)をもとに、彼の真剣で、潔癖で、真面目で、繊細な音楽偏愛を解き明かします。U2からニルヴァーナに推し変した永野青年。しかしU2が与えた影響は大きく、小さな運動をよく行っていたという……。

■正義の怒りに血が騒いでしまう

――U2からニルヴァーナに“推し変”したとお聞きしましたが、U2からニルヴァーナにいくのもまた真面目な人のルートと言う気がします。

永野 そうですね。真面目です。真面目なのに変なところがあるけど、チャラさみたいなのはなかったですね。それも兄の影響で、洗脳されてたんです。ブルース・リーもそうだし、小学生のときは部屋に勝手にレッド・ツェッペリンのポスター貼られたんですよ。イヤだったんですけど、しょうがない。でも、そういうところで『タクシードライバー』みたいな映画も知るようになるわけだし。

――結果的には“いい洗脳”をされましたよね。ブルース・リーは90年代にビースティー・ボーイズが再評価して、当時のアメリカの若者にも注目されるようになりますし。

永野 そう! 僕、“ブルース・リー狩り”みたいなのしましたよ。あの頃、服屋務めのやつらが急にブルース・リーとか言い出したんですよ。「え、おまえジャッキー・チェンって言ってたじゃん!」って。

当時、三茶の貧乏なアパートに住んでたんですけど、そこの近くのビデオ屋でブルース・リーの映画が急に借りられるようになったんで、俺、毎週自分で金出して借りて、ブルース・リーの映画を他の人が借りられないようにしてたもん(笑)。ブルース・リーを見せないという運動をしてました。

――小さなレジスタンス(笑)。

永野 そうなんですよ、だからレイジ(・アゲインスト・ザ・マシーン:※)とかに共鳴するんです。運動家として。運動家が好きなのは完全にU2の影響です。パンクスの怒りよりも、正義の怒りを先に体験しちゃったんで、それがロックだと思い込んでる節があるんですよね。

普通は、大人になって「そういう青い時期もありました」って言ったりするんだけど、俺は未だに根付いてるから、こんな歳になってもアタリ・ティーンエイジ・ライオット(※)の映像とか見ると、血が騒いじゃうんですよ(笑)。

(※)レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン……アメリカ・ロサンゼルスのミクスチャー・ロック・バンド。政治的メッセージの強い音楽で知られ、実際に政治活動もしている。2011年に活動休止。2021年、再結成ツアーを行なう予定だったがコロナの影響で延期された。

(※)アタリ・ティーンエイジ・ライオット……ドイツのデジタル・ハードコア・バンド。過激な反体制主義で知られ、99年のコソボ空爆反対集会では逮捕されたりもしている。

永野 でも、チャラいロック聴いてた人のほうが丸みを帯びて、いい感じの大人になっていくんですよね。それ見ると、「なんで俺はこんな目に遭うんだろう?」って思ってます。昔悪かった人が落ち着いたときに褒められやすいってあるじゃないですか。「若いとき、いろいろ遊んじゃってね」とか言ったりして。でも、俺は始まりが硬派だから、ずっとそれでいないといけない。そんなわけでニルヴァーナも深刻に捉えすぎちゃってね。

『永野CHANNEL』でフー・ファイターズについて語った回があるんですけど、あれも喋ってるうちに、だんだんムカついてきてね。デイヴ・グロールに「俺はおまえのこと、カートが死んでかわいそうだと思って、フー・ファイターズのアルバムを周りに勧めたんだ」って。「こっちはおまえが自力でそんないくと思ってねえし」みたいな(笑)。

――勝手に応援したのに怒らないでください(笑)。しかも『フー・ファイターズ』(95年)は実際いいアルバムだし。

永野 いいアルバムだけど! 「おまえがかわいそうだから俺が広めてやったのに」って感情ですよ。それなのに4枚目の『ワン・バイ・ワン』(02年)では、ハートのジャケットで「幸せになりましたー」みたいな。それはないんじゃないか、筋通せよ!って。

最近の若いやつは「フー・ファイターズ、純粋に音として好きです」みたいなこと言うけど、いやいや、その背後にあるものを知ってから言ってくれる?って思って、それを広める運動をしてます(笑)。音だけで好きになんないからこっちは。背後にある、いろんなもの込みで応援してたんですよ。

――この本を読むと永野さん、すべてのアーティストにそういう理不尽な絡み方をしてるじゃないですか(笑)。一つ一つに真剣すぎるというか。潔癖だし、真面目だし、繊細だし。こんなこと言われるのはイヤかもしれませんけど。

永野 そうですか? そういえば僕、プロディジー(※)のリアム・ハウレットが好きなんですけど、彼がチルアウト(※)のときにマッシヴ・アタックの『メザニーン』(98年)を聴くって言ってたんです。それで聴くんだけど、僕の日常は売れてないから、まずワーッとテンションが上がることがないわけですよ。いつも鬱屈としてるから。そんな状況で『メザニーン』聴いても癒されることはないわけです。だけどこれは“癒されるための音楽”だと思ってるから、すげえ苦痛なのにずっと聴いてた(笑)。

(※)プロディジー……イギリスのエレクトロ・ロック・バンド。97年の『ザ・ファット・オブ・ザ・ランド』は世界で1000万枚以上を売り上げる大ヒットになった。

(※)チルアウト……クラブで遊んだあと、心身を落ち着かせること。チルアウトするときに聴く、ゆったりした音楽のジャンルのことも指す。

――ハハハハハ。ね、素直なんですよ(笑)、永野さんは。

永野 変に素直だから聴くんだけど、いま考えたらそれはドラッグとかやってるやつが家帰って聴くやつで、日々やることもなくて昼ぐらいに起きるやつが聴いてもしょうがない。「鬱になるわ!」と思ってね。それなのに当時、周りには「『メザニーン』、すげえいいんだよ」って言ってました(笑)。

■オアシスを推すやつが嫌いだからブラーを応援した

――我慢して聴いたり、我慢して好きになろうとしたものが多いですよね。ブラー(※)も全然好きじゃないのに応援してたって本に書いてありましたし。

永野 そう! 無理やりね。僕ね、ずっとバカにしてるやつがいたんです。そいつはすごい頭がいいやつで、大学行って、野球とかもやってるようなやつ。でも、「TRAIN-TRAIN」とか聴いて心底盛り上がってるんで、なんてこいつは文化的にはレベル低いんだろうって思ってて。

僕はそいつに、いつも「ニルヴァーナとか聴いたほうがいいよ」って言ってたんですよ。そしたら悔しかったのか、オアシスの1枚目(※)かなんかのライヴの映像を見せてきて、そいつが「俺が見つけてきた」みたいな顔して紹介しだしたんですよ。そいつが推薦してきたっていうのもイヤだったんだけど、歌がすっげえ退屈で。「みんなの歌」みたいな感じじゃないですか。カートみたいな悲しみとかもないし、歪んだギターとかでもないし、ギターもダサいんですよね。

(※)ブラー……英国のロック・バンド。90年代前半のブリット・ポップ・ブームのときにはオアシスと人気を二分した。

(※)オアシスの1枚目……94年発売の『オアシス(Difinitely Maybe)』のこと。「史上最高のデビュー・アルバムの一つ」とも言われている。

――カートのギターの持ち方に比べるとポジション(※)が高いですしね。

永野 そう! こっちはシド・ヴィシャス見てるからね。ベースのポジションが床スレスレ(笑)。普通はそっちがかっこいいだろって。KORNのフィールディーとか。その点オアシスは泥棒みたいな顔のやつが、ドリカムみてえなポジションで弾いてる。なんだこれって思って嫌いになって。「モーニング・グローリー」とかもさ。

(※)ポジション……ギターやベースを抱える位置。胸の位置が弾きやすいのだが、腰より低いところで、ダルそうに持つのがカッコいいとされていた時代があった。

――めちゃくちゃいい曲じゃないですか。

永野 うん、まあ、曲はいいんですけどね。オアシスってすごく太いこと言うじゃないですか。そのくせ真面目な音楽で、ビッグマウスと音楽がともなってないじゃんって。あと、貧乏な家庭のやつが成り上がって有名になるみたいな流れも、ありきたりすぎて嫌いでしたね。とりあえずオアシス好きって言ってりゃOK!みたいなやつも多すぎた。だから僕はブラーに肩入れしてたんです。

――音楽性とは全然関係ないところで(笑)。

永野 レディオヘッドも同じ感じですね。「パラノイド・アンドロイド」とか僕、大好きなんですけど、みんな『キッドA』(00年:※)から好きになるのは絶対ウソじゃん!と思って。それなのに誰もが『キッドA』が最高だ!って言うでしょ? 去年、YouTubeの番組のディレクターさんに『キッドA』借りて聴いたら、ホント予想通りの音だったんですよ。「あー、はいはい」みたいな。でも最近のトム・ヨークの姿見たらボロボロになってて、それ見たらなんか好きになりました(笑)。こいつ本物だったんだ、みたいな。

(※)『キッドA』……レディオヘッド4枚目のアルバム。実験的なサウンドで「2000年以降のロックを大きく変えた金字塔的作品」と言われる。

――音楽、ホント関係ない(笑)。でも、永野さんの聴き方って、ある意味優しいんですよね。曲をピンポイントで評価するんじゃなくて、そのアーティストの人生とか顔つきとか思想とかも含めてトータルで見てるから。理不尽に嫌われてる人はたまったもんじゃないけど(笑)。

永野 確かに「なんか違うな」と思ってからも、U2は『POP』(97年)まで好きでしたし。98年の『ポップマートツアー』は僕、見逃してるんです。その頃、ホリプロに所属してたんですけど、事務所のどうでもいいネタ見せライブがあって、そっちに行っちゃってね。今でも後悔してるんです。

で、そのあとの『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド』(00年)が出た時の『CROSSBEAT』が「U2が戻ってきた!」みたいな書き方をしてたんだけど、聴いてみたら「“戻ってきた”は違くね? 柔らかいロックになってるな」と感じたんですよ。自分にとってのU2は『WAR(闘)』みたいな闘うロックだったんで、『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド』で、もうU2は“あがり”かなと自分の中で思ったんです。

伝説のフジロックに参加してた永野「レッチリが見れたら死んでもいい」 | WANI BOOKS NewsCrunch(ニュースクランチ)( https://wanibooks-newscrunch.com/articles/-/2977 )

『僕はロックなんか聴いてきた〜ゴッホより普通にニルヴァーナが好き!』
発売:リットーミュージック
定価:¥1,760(税込)

関連記事(外部サイト)