ノブコブ徳井がたどり着いた境地「35歳までに自分の居場所を見つける」

平成ノブシコブシの徳井健太による連載をまとめた書籍『敗北からの芸人論』(新潮社)。芸人について独自の目線で、愛情たっぷりにしたためたこの本を書くきっかけになったのは、以前コラムを書いていた東野幸治からの指名だったそう。徳井が胸に秘めていた長年の悩みを解決し、この本を書く指針となった東野のある言葉とは……。

▲俺のクランチ 第15回(後編)−徳井健太−

■自分たちと似ていると思う意外なコンビの名前

『敗北からの芸人論』には徳井が東野幸治から言われた「喫茶店のマスターみたいになったらええんちゃうの?」というアドバイスが、指針となる象徴的な言葉として出てくる。自分には影響力がない、だから才能のある若手や先輩がいても、その人たちを押し上げることができない、と悩む徳井。

東野は「その人たちにおいしいコーヒーを出して、悩みを聞いてあげて、テレビで相方の吉村がその芸人を紹介して、その結果売れても嫉妬せず、またコーヒーカップを磨きながら次の客を待ったらええやん」と諭す。この本で徳井がやっていることは、まさにそれだと感じる。

「この連載も東野さんが指名してくれたからですし、本当35歳くらいまで自発的に何かをしたことがなかったんですよね。『ピカルの定理』が終わって、そこから小籔さんとか千鳥さんとか、お世話になった人が僕のこと番組に呼んでくれて“徳井の好きなようにやっていいよ”って言ってくれたときに、初めて責任感が芽生えて。だから僕の中では35歳が芸歴1年目の感覚なんです」

今は「僕を薦めてくれた人がいるなら、その人のために頑張る、その筋は通す」という想いで仕事をしているという徳井。では、現在の若手を見て、昔の自分みたいだな、と思う芸人はいるのか? という問いを投げかけると、徳井はある名を口にした。

「オズワルドの畠中ですかね、一番近いのは。この本でも書き下ろしたくらい、ずっと好きなコンビで、ノブシコブシと比べたらオズワルドのほうが結果残してるけど、似てるなって思うことが多いかも。それぞれ違う正義を持つ2人が「M-1」でつながってる。僕らと決定的に違うのは、畠中を中心に2人でネタ書いてるところだけど、あれで伊藤がネタ書いてたら、うちらと同じでめちゃくちゃ仲悪くなってると思う(笑)」

オズワルドのように、まだ参加できる資格のあるコンビにとって、M-1という賞レースは大きいものなのだろう。では、平成ノブシコブシはM-1の出場資格が失われたとき、どう思ったのかを改めて聞いた。

「M-1決勝に固執してたくらいの頃が一番仲悪かったから、素直に終わってよかったな、って。そのまま行ってたら解散しかなかったと思います。吉村はキングコングみたいなスピード感のあるネタを持ってきて、でもオレは次長課長さんみたいなネタをやりたかったんですよね。吉村には、今のうちから袖に芸人が集まるネタをやっておけば、このさき誰かが仕事振ってくれるから、って主張したけど、全く相容れなかったから。だから今みたいにM-1が芸歴15年目まで、とかだったらヤバかったですね」

■35歳までに自分のいるべき場所を決めれたら儲けもの

この本の「おわりに」という章には、徳井の芸人に対する想いが集約されている。『敗北からの芸人論』というタイトルは改めて衝撃的だが、志半ばで解散した芸人、辞めていった芸人に対する想いも、そこには記されている。

「自分からやりたい、ってこともなければ、自分から辞めたいって言ったことも殆どないんですよね、これまでの人生で。だから辞めていく先輩とか後輩に対しては、自分の無力さを強く感じます。僕自身が「辞めろ」「打ち切り」って言われない限りは、ずっとやっちゃうから」

「いつまでも辞めない、そんな自分じゃダメだな、と40歳過ぎて思うようになりました」と徳井は笑った。その真意がわからず「なんでですか? 後輩に道を譲る、みたいなことですか?」と聞いた。

「いや、単純に自分から始めたり辞めたりできる人間になろう、って思って。これまでレギュラー番組でも内容に1度も意見を言ったことはなかったけど、『ゴッドタン』の〈腐り芸人セラピー〉とか、この本を出したのもあってか、スタッフさんから“どう思います?”って聞かれることが増えたから、思ったことは言おうと決めました。その結果、誰かに嫌われても仕方ないや、って」

インタビューをしていて意外だったのは、ノブシコブシを解散することと、芸人を辞めることが徳井の中でイコールだったことだ。“だって、自分のこと面白いと思ってないし、前にも出たくないし”と徳井は話していた。

「テレビのスタッフから、明らかに「じゃないほう」みたいな扱いをされて、ふて腐れたこともあったし、吉村ともずっと仲が悪かった。でも吉村にいらないって言われたらそこでおしまい。未練はないと思ってやってました」

近年は就職活動だったり、せっかく就職してもブラックな環境に悩む人も少なくない。自分で何も決めず流されて、ここ最近になって責任が芽生えたと話す徳井は、こんな日本の状況をどう思うのか。

「前に小籔さんと話したときに、ニュースで選挙権を18歳まで下げるかどうか、みたいな議論がされてて。僕が何も考えずに“18なんて、まだ子どもじゃないですか”って言ったら、小籔さんが“でも今の30歳より今の18歳のほうが勉強してんで。逆に30歳過ぎても子どもみたいなヤツはたくさんおるやん”って言われて。

なるほど、確かに僕も人の心がわかったり、わかろうとし始めたの30歳過ぎてからだな、って。大学卒業して3年働いても25歳とかでしょ? あと10年あるじゃん、くらいに考えて、35歳までに自分のやりたいこと、自分の居場所を見つけられたら儲けもの、って思ってほしいですね」

この本が出たことによって、書き物の仕事が増えるんじゃないですか? と聞くと、バツが悪そうに笑った。

「これだけ他の芸人についての文章書いたら、じゃあお前はどうなんだ、何かやりたいことないのかって言われるだろうし、それをこれからは受け止めていかないといけないんだけど……(笑)。

……やっぱり小説を書いたほうがいいんだろうな、とは思いますね。前に一回書いたことがあって、そのときに文藝春秋の偉い人が付きっきりで僕に小説の書き方を教えてくれたんです。“ひとつの文章の中に同じ漢字を使わないほうがいい”とか“コンビニでパンを買った、よりも、セブンイレブンでクリームパンを買った、のほうが伝わる”とか。

それを踏まえて書いてみたんですけど、小説って自分をさらけ出して向き合う作業だから、書いたあとに『ダウンタウンDX』みたいなバラエティに出ると精神状態が保てないって気付いて(笑)。この本も自分としては小説を書くつもりで書いたんで、これから仕事の量と相談して、新しい分野にも挑戦できたらいいなと思います」

「相方に抱いた殺意が良い方向に」平成ノブシコブシ・徳井健太の転機 | 俺のクランチ | WANI BOOKS NewsCrunch(ニュースクランチ)( https://wanibooks-newscrunch.com/articles/-/3065 )

■プロフィール

徳井 健太(とくい・けんた)

1980年北海道出身。2000年、東京NSCの同期・吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」を結成。テレビ番組『ピカルの定理』などを中心に活躍し、最近では芸人やお笑い番組を愛情たっぷりに「考察」することでも注目を集めている。趣味は麻雀、競艇など。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル 『徳井の考察』 も開設している。Twitter: @nagomigozen

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