榎本温子&桃井はるこ。コロナ禍にDIYで「アニラジ」を作る
2022年10月26日 19時00分WANI BOOKS NewsCrunch
新型コロナウイルスによって、エンタメ業界は大きな変革の時を迎えた。そのような激動の時期に、声優の榎本温子さんと、声優で歌手そして作詞作曲家でもある桃井はるこさんは、YouTubeにアニラジテイストな番組「榎本桃井のエモエモ90 ‘s(以下 エモエモ90’s)」を作りあげた。
2020年9月から毎週日曜日の午後21時頃から交代で、それぞれのYouTubeチャンネルで放送を続けている。配信環境は自分たちで用意して、スポンサーに頼らずに独自の収益体制をDIYで構築。時には業界人を番組に招くことも。なぜYouTubeに独自で番組を展開したのか? これまでの軌跡、そして今後の展望を聞いた。
■ブルーオーシャンを探して「アニラジ」テイスト
――本日はよろしくお願いします。はじめにエモエモ90'sの番組の成り立ち、コンセプトを簡単に教えてください。
榎本温子(以下、榎本) 私がモモーイちゃん(桃井)に2020年の9月にYouTubeでのコラボをお願いしたのがキッカケです。最初のコラボに手応えを感じて、毎週日曜日にエモエモ90’sとして定期放送していくようになりました。
桃井はるこ(以下、桃井) あっちゃん(榎本) からオファーの連絡をもらったのが2年前か!
榎本 モモーイちゃんは柔軟に動ける人でPCも強いから(笑)。今は声優さんでYouTubeをされている方が増えてきましたが、2020年当時はあまりいなくて。番組のコンセプトはモモーイちゃんが提案してくれました。「アニラジ(アニメ関連のラジオ)テイストでいこう」って。
桃井 「お互いが喋りやすくて、誰もやってないテーマは何かな……」って考えたら、アニラジが思い浮かびました。私たちは、これまでたくさんアニラジもやってきましたしね。あっちゃんとだと安心して雑談ができるので本当に助かってます。
――エモエモ90'sという番組名はどのような経緯で決まりましたか?
榎本 おたっきぃ佐々木さん(ラジオディレクター)が、番組中にチャット欄で提案してくれて決まりました。
桃井 すごいよね。だって、榎本の「え」と桃井の「も」でエモだし。90年代の「エモ」いことを喋るし、いろいろな意味が掛かっている。さすが、アニラジの歴史を作ってきた男だよね。エモエモ90'sのために、プロ仕様ジングルまでプレゼントしてくれたし。
■過去を掘り起こすことで元気になれる
――配信は基本的にTV電話を活用した非対面ですよね。
榎本 そうですね。番組開始してから対面で収録したのは1年後でしたね。直近で会ったのは、モモーイちゃんの7月のライブにゲストで出演したときですね。12月17日にモモーイちゃんのライブにゲストで呼んでもらってるから、また会えるね。
桃井 12月17日に渋谷のVeats Shibuyaで開催しますので、興味のある方はぜひ(笑)。

▲2022年7月に開催された桃井さんのライブに出演された榎本さん
――対面じゃないのに淀みなく話すことができるのはすごいですよね。エモエモ90’sはコロナ禍の時代に誕生しましたよね。お二人を取り巻く環境は変わりましたか?
桃井 変わりました。当時、決まっていた活動も延期されてしまいましたからね……他にも発表はしてなかったけど、スケジュールが押さえられていた全てがキャンセルになりました。
榎本 スケジュールがどんどんキャンセルになっていって……。コロナ禍が始まったばかりの頃は、社会の全てが止まってしまって、先行きが不透明なときに未来のことを考えるのは憂鬱でした。
――専門家ですら、わからないことばかりでしたし。
榎本 死の恐怖が隣にあったというか、家を出ないという選択をするしかなかった。
――生活に制限がかかり、仕事ができなくなり……あの時期は皆が大変でしたよね。ステイホーム期間の、人が誰もいない渋谷の街は絶望的でした。
桃井 仮面ライダー龍騎のミラーワールドみたいでしたね。
榎本 エモエモ90'sでは、コロナ禍だからこそ未来じゃなく過去に注目しようと思いました。希望が見えない状況で未来を語るのはナンセンスでしたし。輝いていた90年代のアニメなどの文化を改めて振り返ることで、まだ語られてないステキなことを山ほど発見できて元気づけられました。
桃井 「改めて知る」ってことが何度もあったよね。過去から新しいものを発見すると、すごく元気が出ます。心が畑だとすると耕されていくみたいな感覚があって。
榎本 私はエモエモ90'sをやっているおかげで、Withコロナの社会を元気に生きていけていると思います。何気ない雑談ってすごく元気が出るし、対面できなくてもたくさんのリスナーさんたちとつながっている感覚になるし。リスナーさんたちも元気が出てるのがわかります。
桃井 人間って食べて寝てるってだけじゃ生きていけないんですよ。やっぱり「◯◯があるから頑張ろう!」みたいな生き甲斐が必要です。自分を応援してくれているみんなの楽しみになるようなことをしたいと思ったとき、タイミング良くあっちゃんが声かけてくれたんです。
■意外な著名人が遊びに来ることも
――いろいろな著名人がエモエモ90’sにふらっと遊びに来ますよね。2021年の夏頃には、東京ヤクルトスワローズで活躍しているホセ・オスナ選手が、番組を聞いてたこともありましたよね。
桃井 去年はまだまだ制限があったから、プロ野球選手も時間に余裕があったんでしょうね。エモエモ90'sは、YouTubeでの生放送と同時並行でTwitterのスペースでも配信していますが、そちらを聞いてくれてました。
榎本 私たち日本語でしか喋ってないのに、オスナ選手が「いいね」とか「ハート」とかくれたよね(笑)。
――去年はプロ野球選手の家族も来日できない状況でした。
桃井 コロナ禍だったからこそ実現した出会いですよね。コロナは大変ですけど、そのなかで見つけた良いことの一つですね。私、そのあとでご本人からバットを頂ける機会に恵まれました。

▲桃井さんがホセ・オスナ選手から頂いたバット。なんとサイン入り!
榎本 他にも業界人がふらっと遊びにきてくれますよ! 直近では9月25日に「新世紀エヴァンゲリオン」をはじめとした数々の作品に出演された、声優の宮村優子さんに番組にゲスト出演いただきました。
【神回】ゲストは俺たちのレジェンド宮村優子さん!!!あんたエモぉ!?【榎本温子/桃井はるこ】( https://www.youtube.com/watch?v=I27rkqlj4TI )
■セルフで始まった番組作り、今ではVTuberに!
――普通のラジオだとスタッフが機材の準備をしてくれるけど、二人はセルフでやらなきゃいけないじゃないですか。
榎本 配信ソフトの更新ひとつで設定の全てが変わってしまいます(苦笑)。
桃井 ネット回線のトラブルもあったなぁ……。音声は問題なく流れていても、映像がカクカクになったりとか。最近ではトラブルの傾向と解消方法も学習できました。
――たしか桃井さん、エモエモ90’sのために光回線を変更してませんでしたか?
桃井 変えました! 回線だけじゃなくてルーターも交換したから今は速いですよ!「これは大穴だろう!」と思う回線に変えました。近所で使ってるのは私だけだな。
榎本 YouTubeにハマりすぎて、あんまり投資しすぎないようにしてます(笑)。
桃井 私もマイクやエコー掛けられる機材が欲しくなっちゃったり(笑)。あっちゃんはVTuberの身体を手に入れたからな。

▲VTuberの身体を手に入れた榎本さん
榎本 番組の名付け親のおたっきぃ佐々木さんが、やり方を教えてくれました。VTuberの身体は、現代の着せ替え人形で楽しいですよ。今はモモーイちゃんが実写、私がVTuberの身体っていうパターンが定着してますが、未来感があっていいんですよね。もちろん特番のときとか、実写で出る機会もありますよ。
――未来型アニラジじゃないですか。
桃井 VTuberの身体がどんどん改良されて、表情豊かになっていってるから。違和感なくなってくるんだよね。目の前にいる感覚で喋ってるもん。
――配信するための部屋は、どのように確保されましたか?
桃井 私は屋根裏部屋でやってるんですけど、ここは本当は寝室でした。

▲桃井さんの配信環境。もともと寝室だったがバリバリのYouTuber仕様だ
――今はどちらで就寝されていますか?
桃井 リビングです。
一同:爆笑(笑)。
榎本 私も寝室の一角に配信スペースを作りました。スタジオで使うガチの照明入れて。
――なんと、二人とも寝室を犠牲にしていたとは…!

▲榎本さんの配信環境。寝室の一角に本気仕様の配信スペースが作られた

▲榎本さんが配信時に使用するスタジオで使われているプロ仕様の照明
■スポンサーが存在しないから自由に話せる
桃井 番組を2年続けていて、長所だと思うのが機動力と、取り扱える話題の広さですね。エモエモ90'sはアニメ以外にも野球、競馬、パチンコ、さまざまな話題が出てくる番組です。スポンサーがいる番組だったら難しいだろうけど。
――スポンサーが付く番組だと、トークテーマに制限がかかりますよね。
桃井 スポンサーから「ゲームの宣伝のラジオ」とかテーマが与えられていると、趣旨から外れた雑談部分は、放送時に使われないことは多々あります。そこの雑談部分が本当はすごく面白かったりするのに(笑)。エモエモ90’sではカットしないで済むよね。
――AIに絵を描いてもらうミッドジャーニーを試すのも、スポンサーがついてたら制約があって実現できなかったでしょうね。

▲実際にエモエモ90'sの番組内でミッドジャーニーに描いてもらった絵
榎本 他にもスケジュールが詰まっているとき、気軽に番組を休めるのもいいと思う。
――スポンサーが付いている番組だと気軽に休めませんよね。エモエモ90'sはグッズを展開して、YouTube以外からの収益体制を確立していますしね。
榎本 オリジナルグッズを手軽に作成・販売ができるSUZURI(スズリ)さんを活用して展開しています。在庫リスクを抱えなくていいので助かります。サンプルで何個か作りましたが、印刷もすごく綺麗でした。
――SUZURIは、どちらが見つけられたんですか?
榎本 私です。グッズを作る方法を調べていたとき、YouTuberの方々がSUZURIさんを使っていたので知りました。
――デザインは桃井さんでしたよね。
桃井 エモエモ90’sのサムネイルを毎週作っていたので、その流れで。それをみんなが買ってくれて、「可愛い」って言ってくれて楽しくなりました(笑)。
■可視化されたリスナー同士のつながり
――エモエモ90’sでは、番組の切り抜きを許可してYouTubeに投稿することを許可していますよね
榎本 切り抜きを許可できたのはすごいと思う。今はもう切り抜きをうまく使う時代だと思うし。
――たしかにファンが作った切り抜きから、もともとの配信者を知るケースが増えましたよね。
榎本 声優さんは事務所との兼ね合いもあって、なかなか切り抜きを許可できる人は出てきにくいと思うけど。
桃井 最初は「できるの?」と思いました。動画から切り抜くためには技術も必要だし、何よりも熱意が求められるじゃないですか。放送時間も長いから、切り抜く場所を探すのも大変だし。だけど、実際にリスナーさんが作ってくれた切り抜きを見てみたら、完成度が高くて驚きました! ちゃんとオープニングやエンディングがついていたり! 秀逸なタイトルをつけてくれていたり驚いてます。
――リスナーさんたちの熱意がすごいですよね。
榎本 「ここが好きだったんだ」とか「こんなテロップしてくれるんだ」っていう、愛にあふれた作品ですよね。私たち自身も切り抜きを許可したことで、新たな発見がありました。
――潜在的にリスナーさんたちもYouTubeに動画を投稿してみたかったのかも?
榎本 私たちが素材を提供することができて、ニーズが合致したのかもしれません。切り抜きを見ていると、90年代に自分の好きな曲をカセットテープに入れているのに近い感覚を感じています。
桃井 切り抜き以外にも、リスナーさんたちの交流もすごいよね。エモエモ90’sの2周年を記念してリスナーさんたちが競馬の冠レースをしてくれましたし。横のつながりだよね。
榎本 90年代は、ラジオを聞いてるだけでリスナーさんたちがつながっているように感じました。エモエモ90’sでは、リスナーさんたちでクラブ活動したり、横のつながりの可視化ができていると思います。
――インターネットで人と人がつながりやすくなった好例ですね。
■番組の象徴として誕生した「流星モノローグ」
――2022年4月12日に歌唱を榎本さん、作詞/作曲を桃井さんで「流星モノローグ」を発表されましたよね。
【オリジナル曲】流星モノローグ/榎本温子【声優】( https://www.youtube.com/watch?v=Trq2Pu-sXhU )
榎本 キッカケは2月に配信していたとき、モモーイちゃんの屋根裏部屋の天窓に、雪が積もったことだったよね。そこから発展していって、相談したら「わたし作るよ」って快諾してくれて! もし曲を作ってもらうなら、モモーイちゃんにお願いしたかったから(笑)。
桃井 良い曲になったと思います。頭の歌詞が「君と僕は大人になるまで出会えなかった幼馴染だから」なんですよ。これは、コロナ禍で未来の展望が不鮮明のなか、エモエモ90’sで過去のことを話していくなかで、たくさんのリスナーさんたちと出会って「いろいろな背景の人が、同じようなものを見てたんだな」って感じて。
榎本 歌詞に想いを全部乗せてくれて、本当に良い曲になったし。
桃井 あっちゃんがマネーはあとでなんとかするって、たくましいですし(笑)。
榎本 聴いてもらえるだけでうれしいし、YouTubeからの広告収益で還元していく体制も構築できますしね。何かの記念のときにサブスクで配信したり、高音質のハイレゾで発売してもいいかなと思っています。関係各所との話し合いも済ませましたし、JASRACも通してますし、原盤権も保有しているのでいろいろと展開できます。
――編曲をお願いする方はすぐに決まりましたか? 仮歌、デモ音源を聴いて、これは渡辺チェルさん(作曲家/編曲家。代表曲「目指せポケモンマスター」)だと思って。
桃井 渡辺チェルさんと仕事でニアミスしてたから縁を感じました。例えば、アニメ「SHIROBAKO」のEDテーマを私が作りましたが、渡辺チェルさんが劇中曲を作っていたり。
榎本 一発OKな仕上がりでした。RECの際も渡辺チェルさんのスタジオを使わせていただけて助かりました。ミキシングも若い子にやってもらって、良いシナジーが生まれたと思います。
【超貴重】「流星モノローグ」レコーディング密着( https://www.youtube.com/watch?v=U3ysaNU7qkE )
――これまでのお二人の人生で、出会ってきた人脈を余すことなく活用されてますよね。
桃井 たしかに。みんなが快く協力してくださったり、応援してくださるから。
――二人の最初のエモエモ90'sのノリに、プロの作曲家も巻き込んじゃいましたね。発表はYouTubeでの公開でしたよね。
榎本 YouTubeで待機しながら公開を待つ……「これも一つのリリースなんだな」って思いました。せっかく新曲を発表したからラジオ局巡りをして宣伝しました。YouTubeで発表したけど、地上波のラジオで流れてる、面白い現象ですよね。
桃井 すごくインディーズ(笑)。
――コロナ禍前までとは違う新しい流れですよね。じゃあ、次はクラウドファンディングでアルバム作りましょうよ!
桃井 エモエモレコーズ爆誕か?
一同 爆笑。

▲今度は12月17日に渋谷のVeats Shibuyaで共演する予定
■次の目標はリアルイベント
――お話を聞かせていただいて思ったのですが、お二人とも個人の配信者並みのフットワークの軽さですよね。
榎本 半分ユーザーなんだと思います。私もモモーイちゃんも。すごくインターネットが好きですし。
桃井 私の場合は事務所の理解があるね。「ずっとインターネットをフィールドにやってきた人だから」と言ってもらえてます。だからね、あっちゃんとの活動のこともね、応援してくれてるから。
――事務所の理解は大切ですよね。最後にエモエモ90'sの今後の展望を教えてください。
榎本 やっぱり、公会堂でのリアルイベントを目標にしてます。
桃井 そのくらいまで頑張れたらいいなと思っていて。
――本日はありがとうございました。
■プロフィール
榎本 温子(えのもと・あつこ)
■プロフィール
桃井 はるこ(ももい・はるこ)
「元祖アキバ系女王」の異名を持つ。高校在学中にインターネットに掲載していた日記が雑誌編集長の目に留まり雑誌に連載開始。2000年には「Mail Me」でシンガーソングライターデビュー。アイドルやアーティストへ楽曲提供も。声優としての出演作は「STEINS;GATE」(フェイリス・ニャンニャン役)、「テイルズ・オブ・ジ・アビス」(アニス・タトリン役)、「ポケットモンスター ピカピカ星空キャンプ」(ソーナノ役)ほか多数。Twitter: @momoiktkr 、YouTube: 屋根裏の桃井はるこ【Real Momoi Haruko】
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