小沢仁志「“俺は向いているのか、やれるのか?”と自問しながら続けてきた」
2023年01月05日 17時00分WANI BOOKS NewsCrunch
映画『SCORE』(1995)は業界で話題になり評価されたものの、興行成績は振るわなかったという苦い経験を経て、劇場公開する主演映画は撮っていなかったのだが、その記録がついに破られた。“還暦記念”アクション主演映画『BAD CITY』である。
OZAWAとしてオリジナル脚本・製作総指揮を手がけたばかりでなく、企画段階から携わって、撮影コーディネートまでこなした。メインとなる劇場は因縁の新宿ピカデリー。

▲新作映画『BAD CITY』では主演から裏方まで手掛けた
■失敗を乗り越えた数が多い奴が最後は勝つ。俺はめげない
「絶対にあのときの悔しい思いを晴らしてやる」と意気軒昂だ。「映画『SCORE』の苦しさがあったから、今がある。うまくいかなくてよかった。あのまま、うまくいっていたら、この内にあるグツグツしたものがなくて、俺は消えていたかもしれない。人生って面白いよね。何がどう転ぶかわからない。失敗を乗り越えた数が多い奴が最後は勝つ。俺はめげないよ」
『BAD CITY』では100人以上相手に、CGなし、スタントなしのアクションを見せている。
「『SCORE』みたいな奇跡を作り上げるエネルギーは、まだ残っているのか。体力的にアクションはもう無理なのか。チャレンジしてみよう。そう思っていたのに、まだまだやれるって気づいた。
撮影のために特別に何かやったことはほとんどないけど、もう何十年も喧嘩してないから、殴るリアリティのために、1年間、人の形のサンドバッグをぶん殴ってた。これが大事。撮影後、マウントを取って殴っている自分の後ろ姿の映像を見て、確信した。格闘家のようだったね(笑)。役者が現場で『こういう段取りです』って教わって、その通りやっているだけではリアリティなんて出ないからね」

▲『BAD CITY』では100人以上相手にCG、スタントなしのアクションに挑んだ
ちなみに体は普段から鍛えているが、それは決して、仕事のためではないと断言する。
「うら若い乙女と歩いていて、パトロンや父親に間違えられないために腹が出ないように鍛えてる。動機が不純なほど長続きするのよ。作品のためだったら、撮影が終わった途端、元に戻っちゃう。誰が車にはねられたり、高いところから飛ぶために、重いベンチプレスをあげる?」
ただ、仕事でやることは体が勝手に覚えているそう。
「俺はベロベロに酔っ払って2階から落ちても、受身をとって普通に立ち上がるらしいからね。自分は酔っていてよく覚えてないけど、みんながそう証言する。カーブを曲がってきたタクシーにはねられたときも、朝起きたら体が痛くて。ヤマ(山口祥行)が『兄ぃ、昨日タクシーにはねられてましたよ。でも、タクシーの上に立ってたから大丈夫かなと思って』って(笑)」
長い付き合いのある山口祥行は『BAD CITY』にも宿敵役で出演。絆がさらに深まったのかと思えば、今回の小沢の本気モードが彼には少々、トラウマになったらしい。
「ヤマとの対決が最終日の中洲ロケだったんだけど、俺はその前日から『お前、明日、ぶっ殺すからな。殺される覚悟で来いよ。それがイヤなら殺しに来い』ってアクションを超えた気持ちでいるわけ。ヤマとのアクションには、殺陣が決まってないフリーの部分があって、ヤマは『俺を殺す気か! 誰か止めてくれ。この巨大なマントヒヒを』って(笑)。
やらなきゃ、やられる。ヤマとは長いけど、あんな顔は見たことがない。『映画を見ると具合が悪くなるから、もう見たくない』って。二度と俺とアクションはやりたくないらしいよ」

▲日々鍛えているから、多少のアクシデントは何でもない!
劇中で小沢は、そのスピード感から、若手でさえ躊躇するTAK∴とも渡り合っている。
「キャストたちが俺のノリに共鳴してくれて、その響きがスタッフも含め全体に広がっていった。俺一人ではできないこと。でも、みんなにまず火をつけるのは俺だから。そういうときの俺はアドレナリンが相当に出てる。どんなアクションをやっても全く疲れないし、全然、眠くならない」
尋常ではない体力は、昔からだそう。
「昔、海外ロケで5日間中、3日間徹夜してたら、向こうのスタッフが『もう無理』って言い出したことがあった。でも、俺は寝たら止まっちゃうから、そのままさらに2日間、寝ずにドッカンドッカンやって。クランクアップしたときは本当にそのまま、『あしたのジョー』みたいな形で寝てた(笑)。自分で言うのもなんだけど、スイッチ入ったときの俺はヤバい。そのことしか考えてない。とにかくブルドーザーのように前に突き進むのみ」
■17歳から還暦までずっと不摂生。体がこれに慣れている
マントヒヒのブルドーザーが大暴れする怪作。主題歌はクレイジーケンバンドの『コワモテ』。小沢が敬愛する横山剣が書き下ろした。
「YouTubeでのサプライズ対談で会ったときに、『いつか俺が主演する映画に主題歌を書き下ろしてもらうのが夢です。そのときはお願いします』って頼んでたから、真っ先に連絡した。
そしたら『光栄です。作らせてもらいます。台本、送ってください』って即答してくれて。出来上がってみたら、タイトルがど真ん中のストライク(笑)。剣さんらしいセンス。イメージしてくれたのがすごくうれしくて。俺がもし死んだら、お別れ会とかやんなくていいけど、この曲は流してほしい」

▲主題歌はクレイジーケンバンドの横山剣がこのために書き下ろした『コワモテ』
50歳には死んでいると思っていた人生。60歳でも夢は続く。
「17歳から還暦までずっと不摂生なわけ。体がこれに慣れてるんだよ。50代後半とかになると、みんな酒を控えようとかタバコをやめようとか、健康意識が上がるじゃない? たちまち病気になるからね。俺はずっとこのまんまで、どっかでパターンって死ぬのが、ぽくていい。
昔は何も考えてなくて、現場で死ぬのが一番だと思ってたけど、これから先、役者をやってるかもわからない。最終目標は考古学者。『ONE PIECE』の(シルバーズ・)レイリーみたいに長髪、白髪でメガネかけて、前をはだけたら腹筋がちゃんと割れていて、酒瓶持って船の舳先に立っているような男が理想だね(笑)」
他人の目からは天性のように見える俳優業。だが、「ずっとやってきたけど、ぶっちゃけ、いい思いよりも苦しい思いのほうが強い。苦しい思いがあるからここまでやって来られた」と振り返る。
「辞めたいと思ったことはないけど、20歳ぐらいのときから、5年区切りで、“俺は向いてんだろうか。やれるんだろうか”って判断をして、その度に“もう5年やろう”と決めてきた。
ちょうど25歳のとき、初めてそう思った。あのときはもう、『ビー・バップ(・ハイスクール)』シリーズも4(『ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎音頭』)ぐらいだったはず。日活ロマンポルノが終わりで、最後のロマンポルノの『ラスト・キャバレー』という往年のポルノ女優勢揃いの映画と二本立てで、ベッドシーンもあるけど、アクションテイストのにっかつの映画『BU・RA・Iの女』の主演が決まってた。
その作品で、監督に『台本には台詞が多いけど、(高倉)健さんのように極力喋らないでどこまでもたせられるか、この先、役者で勝負できるか試してみたいんです』って、お願いしてみたら、『面白いじゃん!』って、当時の日活の監督は乗ってくれるのよ。
出来上がって、『どうだった? お前、いいよ。頑張れよ』って言ってくれて。『そうか、行けるか。とりあえず、30までやろう』って決めて、そこから5年ごとに考えて。でも、50歳からは考えてないね。だって、俺、50まで生きるつもりなかったから。だから、もう考えない」

▲最終目標は『ONE PIECE』のシルバーズ・レイリーのような風貌の考古学者
■今はこれまで拒否していたことも受け入れて挑戦中
今ではユーチューバーの肩書きも加わっている。
「昔だったら、『そんな面倒くさいこと、どうでもいい』と絶対に思ったはず。だけど、50は超えたから、残りで何ができるかわかんない。だったら、今まで拒否してたことも、楽しめるものだけ受け入れてみようと考えを変えた。やりたいことはやるけど、やりたくないことはやらないよ」

▲現在はYouTubeやSNSの更新に前向きに取り組んでいる
YouTubeチャンネル『笑う小沢と怒れる仁志』では、猫カフェに行ったり、亀田大毅とスパーリング対決したり、さまざまな企画があるなか、お気に入りは「町中華」シリーズ。
「大好きな町中華を応援して、なんとか盛り上げたい。ってまあ、お酒飲んで、うまい中華を食って、ダラダラ喋ってるだけだけど。面白かったのが、(本宮)泰風と思い出横丁の店「岐阜屋」に行ったら、いかつい大将がめっちゃいい笑顔なわけ。でもその店、無愛想で有名らしいんだよ。俺と泰風の前ではそうはいかなかったのか(笑)」
さすが「顔面凶器」の面目躍如である。そのインパクトは海を越える。やはり、俳優は天職だとしか思えない。
「『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』(2018)のオーディションに行ったとき、通訳さんがチェン・カイコーに『この人は日本では“顔面凶器”って呼ばれています』って言おうとして、『He is Japanese face of weapon.』って言ってたからね。weaponって兵器じゃん。オーディションは落ちたけど、チェン・カイコー、めっちゃ笑ってたよ(笑)」

▲身振り手振りを交えながら、人生の土壇場エピソードを話してくださった
幾多あまたの修羅場をかいくぐり還暦を迎えた小沢仁志。50歳まで生きると思わなかった | 俺のクランチ | WANI BOOKS NewsCrunch(ニュースクランチ)( https://wanibooks-newscrunch.com/articles/-/3838 )
■プロフィール
小沢 仁志(おざわ・ひとし)
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〈髙山 亜紀〉
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