ぼる塾・酒寄「田辺さんを取られたような気持ちになってました」

「ぼる塾」の酒寄希望(さかよりのぞみ)が、2月27日(月)にエッセイ第2弾『酒寄さんのぼる塾生活』(ヨシモトブックス)を発売した。

2012年に結成された田辺智加とのコンビ「猫塾」のメンバーとして活動していた酒寄。その後、2019年から産休・育休を取得することになったことをきっかけに、「猫塾」と後輩コンビ「しんぼる」(あんり、きりやはるか)が合流して誕生したのが、ぼる塾だ。

3人の相方「田辺さん」「あんりちゃん」「はるちゃん」との日常を綴った1作目『酒寄さんのぼる塾日記』は、結成まもなくお茶の間の人気者になっていくぼる塾“4人目のメンバー”としての葛藤、それでも変わらない3人との友情が、人々の笑いと共感を誘った。

前作発売から1年あまりが経ち、いよいよ発売される待望の2作目。そこに込められた思いや、最近の彼女たちに起こった“変化”についてインタビューした。

▲きりやはるか撮影/本書の「はるちゃんアルバム」より

■前作よりも深い話が増えた『ぼる塾生活』

――前作『ぼる塾日記』は、多くの方々から愛される一冊になりました。反響も大きかったと思いますが、どんな声が特に印象に残っていますか。

酒寄希望(以下、酒寄) 出産前と変わらず声をかけてくれる3人に、育休中の私が救われたというエピソードを書いた本だったので、子育て中の友人に気を遣って距離を取っていた読者の方が「ぼる塾の関係性を見て、自分たちも今までどおりの友情でいいんだと、また連絡を取るようになりました」と言ってくださったのがうれしかったですね。

もうすぐお子さんが生まれる妊婦さんからの「これからが不安だったけど、励まされた」という声や、子育てをしている方からの「息抜きになった」という声もありがたかったです。

それから「母から薦められました」「夫と一緒に読んでいます」と、ご家族で楽しんでくださっている方々もいたのが印象的でした。私自身、子どもの頃にさくらももこ先生の作品について、親と話して盛り上がっていたりしていたので、自分の本も家族とのコミュニケーションに使っていただける一冊になったことが感慨深いです。 

――『ぼる塾日記』と『ぼる塾生活』、書き手として実感している違いはありますか。

酒寄 笑えるエピソードをたくさん盛り込んであるのは、どちらも共通しているところですが、2作目には真面目な話も多いように思います。というのも、1作目を書いているときは私自身も気づけていなかった3人の思いやりに、最近ようやく気づけたところがあって。自分でも「今さら?」って思いますけど(笑)。

なんというか……『ドラえもん』の映画版って、原作とはまた違った魅力があるじゃないですか。いつもは弱気なのび太が映画版では頼もしかったり、ジャイアンが実はすごく優しかったり。そういう感じで、ぼる塾にもテレビでは見えていないけれど、文章では表現することができる良さがあるんですよね。なので、普段とは違う角度から見たぼる塾を、私なりにお伝えできたらと思って書いていました。

――そうした心境の移ろいとともに、ぼる塾としての活動にも変化が起こりましたね。昨年11月からは、神保町よしもと漫才劇場のライブに酒寄さんが復帰、4人でネタを披露するようになって。

酒寄 それまでも、ぼる塾主催ライブでは4人でネタをやる機会もあったのですが、そのたびに「やっぱり舞台に立つの、好きだな」と感じていたんです。そのことを3人に伝えたところ、「私たちも4人でネタをやりたい」と返してくれたんですね。

――公式発表の「今後のライブに関して、都合により3人(はるか・あんり・田辺)での出演の場合もございます」という但し書きからも、“ぼる塾らしい姿勢”が伝わってきました。

酒寄 3人が「お子さんもまだ小さいから、完全に復帰して全てのお仕事をやるのではなく、今できることをやりましょう」と言ってくれたんです。でも、私としては「都合がつくときだけ活動に参加して、周りの人を戸惑わせてしまうかも。本当にいいのかな」という葛藤もありました。

でも、そんなときに田辺さんからかけられた「メンバー全員が揃わなくても活動をしているアイドルグループもあるじゃない。歌番組はあの子、バラエティ番組はこの子って役割分担して、必ずしも全部の現場に皆が揃わなくてもグループは成立してるでしょ。なんでそれを、ぼる塾がやっちゃいけないの?」という言葉に、「確かにそうかもな」って納得したんですよね。

――相方の言葉で、気が楽になったんですね。

酒寄 そうですね。「一緒に仕事してる私たちがいいって言ってるんだから、それでいいのよ」と、安心させてくれました。

▲きりやはるか撮影/本書の「はるちゃんアルバム」より

■失敗しても3人はとにかく褒めてくれる

――しかし、復帰一発目のライブでは、思うようにネタができず落ち込んでしまったそうで……。そのときのエピソードが『ぼる塾生活』に詳しく書かれていますね。

酒寄 そうなんです。私自身、せっかく復帰するなら「3人よりも4人のほうが面白い」と思われなきゃいけない、そうならないと終わるって、変に気合が入っていたところがあって。お休みしていたとはいえ、芸歴的にはあんりちゃん、はるちゃんよりも長いわけだし、先輩としてうまくやらないとっていうプレッシャーも大きかったんです。本当に、いま考えると恥ずかしい話なんですけど(笑)。

でも、いざ神保町劇場の舞台に立ってみると、全くと言っていいほど役に立たないし、自分が思っていたよりも遥かに下手になっていました。単独ライブのときは、ぼる塾ファンっていう絶対的な味方だけが目の前にいるとわかっていたから伸び伸びできていただけであって、初見のお客さんがいると私ってこんなに何もできないんだって、強く実感したんですよ。

そのうえ、私のせいで他の3人のテンポも普段より悪くなってしまって……「何を勘違いしていたんだろう」って情けなくなってしまったんですよね。舞台からはけたあと、思わず泣いてしまって。

でも3人は、まず「4人でできたことが本当にうれしい」ということを、とにかく伝えてくれました。それから「酒寄さんだけじゃなく、私たちも“4人のぼる塾”のスタート地点に立ったんだ」と言ってくれたんです。それを聞いてハッとしたんですよね。私はてっきり、だいぶ前を走っている3人に追いつかないといけないって思い込んでいたんです。でもそうか、この人たちは私の隣にいてくれているんだと。

しかも「酒寄さんが私たちよりも遅れているように感じて焦っているのであれば、私たちを利用してほしい。酒寄さんが休んでいるあいだに私たちは力をつけてきたから、そのぶん頼りになるはず」って。

――すごくカッコいいですね。

酒寄 すみません、私が言うと仰々しく聞こえてしまうかもしれないんですけど……。そういうことを3人は、クッキーとか食べながら、さり気なく言うんです(笑)。

▲きりやはるか撮影/本書の「はるちゃんアルバム」より

――酒寄さんが劇場に復帰されたことについては、ぼる塾のYouTubeチャンネルにアップされた動画で、田辺さんとあんりさんもお話されていました。お二人によれば「酒寄さんが劇場に復帰してよかった」「3人で活動していたときより、ネタの改善点を指摘するほうも、されるほうも気が楽になった」と。

酒寄 恥ずかしいです(笑)。とにかく皆、褒めてくれるんですよ。自分としては何気なくしていたことを、ちゃんと言葉にして感謝してくれるというか。そういうことに、すごく救われます。

――ぼる塾の皆さんって、いつも互いへの感謝や愛情をストレートに伝えていますよね。

酒寄 できないことを指摘するのって、簡単だと思うんですよ。でも、できることを言葉にするのって、その人自身をちゃんと見ていないとできないことだと思うので、難しいんですよね。

私は、自分のできないことばかり見つけてしまうので、そのなかで「酒寄さんはこういうところができていますよ」って教えてくれる人たちがそばにいてくれて、とてもありがたいです。

■しんぼるへの嫉妬…その間違いに気づく

――酒寄さんが劇場に復帰されたことをはじめ、ぼる塾に起こった変化は、今作『ぼる塾生活』の内容にも表れているように思います。特に、あんりさん、はるかさんのお二人に対する気持ちが、前作よりもオープンに綴られているような気がしました。

酒寄 大の大人が恥ずかしいんですけど、実は最近まで、しんぼるの二人(あんり・きりやはるか)に田辺さんを取られちゃったような気持ちがあったんです。でも二人は「私たちは、田辺さんと酒寄さんの相方だ」と思って優しく歩み寄り続けてくれていたことにようやく気づけて……「私は何をやっていたんだ」と。

――お二人の気持ちは田辺さんに対してだけではなく、自分にも向けられていたんだ、と。それに気づいたのは、どのタイミングだったのですか。

酒寄 一緒に過ごす時間が長くなっていって、最初は遠慮がちだったはるちゃんがふざけるようになってくれて、それに対して私も普通にツッコめるようになっていって……そうやって徐々に、という感じですね。前は、はるちゃんのボケにどう返していいのか戸惑っていたときもあったのですが、私のリアクションに関係なく、はるちゃんが「私は気にせずいきますよ!」ってガンガンぶつかってくれるようになったことが大きかったです。

あんりちゃんとは、ぼる塾の結成当初から一緒にネタ作りをしてきたので、そのなかで信頼関係ができていったと思います。私はネタ作りのとき、相手に自分の脳みそを全部見せているような気持ちで臨んでいるので、あんりちゃんが「それってこういうことですよね?」ってすぐに意図を汲み取ってくれたりして、どんどんと心を通わせるようになっていきました。

――最近では、はるかさんがネタ作りに携わるようになったんですよね。

酒寄 はい。あんりちゃんと私、はるちゃんと私という体制で作るようになりました。あんりちゃんとはるちゃんは、それぞれネタ作りのやり方が全然違うんです。あんりちゃんとは「こういうボケを展開したい」「じゃあ、こうやって進めていこう」という感じで話し合っているんですけど、はるちゃんの場合は「まず、私たち4人がペンションに集められるんです! それから、どうなると思いますか?」と急に聞かれるんですね(笑)。

なので、あんりちゃんとは一緒に肉付けをしていく感覚なんですけど、はるちゃんとは「じゃあ、そのペンションに集められた人たちの職業は何かな?」とインタビューしながら、情報を整理していく方法を取っています。

▲きりやはるか撮影/本書の「はるちゃんアルバム」より

――誰と一緒に作るかで、酒寄さんの役割が変わってくる。

酒寄 はい。それがすごく面白くて、楽しいですね。私はネタ作りが大好きなので、はるちゃんがネタ作りに関わってくれるようになったことで、さらに仲良くなれた気がしてうれしいです。

――年齢を重ねるにつれて、“変わること”に恐怖心を募らせる人って少なくないのではないかと思うのですが、ぼる塾の皆さんは変化を恐れるどころか、それを迎え入れてパワーアップしているところが魅力的だなと感じます。

酒寄 私自身はもともと、変化することをすごく怖がるタイプなんです。でも、田辺さんって27歳で突然ギャルデビューして、37歳には“スイーツ女王”になって「常に今が一番楽しい。私はこれからも変わり続けるよ」と言っているんですよ。

そういう人を間近で見ていると、変化することが怖くなくなってくるし、むしろ前向きに捉えられるようになってきて。なので、皆さんにも「あの人たちって、なんだかんだあっても楽しそうだから、私も大丈夫かも」と思ってもらえるような、そんなぼる塾であり続けたいですね。

■プロフィール

酒寄 希望(さかより・のぞみ)

1988年生まれ、東京都出身。吉本興業所属の女性お笑いカルテット、ぼる塾のツッコミ担当。2019年2月に産休・育休を取得し、2019年12月に酒寄が所属する「猫塾」と後輩コンビの「しんぼる」が合流。「ぼる塾のブレイン」として3人の相方から慕われている。Twitter: @no_zombie 、note: https://note.com/anhatasa/

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