実力派コント師・ゾフィー「何かに執着してる人を探しているのかもしれない」

実力派コント師・ゾフィー「何かに執着してる人を探しているのかもしれない」

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『キングオブコント』で二度ファイナリストになるなど、実力派コント師として知られるゾフィー。現在発売中のDVD『ゾフィー傑作選ライブZOBEST』には、10回目の単独ライブを記念して開催された初の全国ツアーの様子が収められている。全10本を通して描かれては、何かしらに執着している人。ストイックさや狂気性をはらんだコントの数々には人間の泥くさい、けれども愛すべきおかしみを感じられる。

※本記事は『+act.(プラスアクト)2023年8月号』(ワニブックス:刊)より、一部を抜粋編集したものです。

■初の全国ツアーを経て感じたこと

――DVD化はいつ決められたんですか?

上田航平(以下、上田) 全国ツアーをやらせてもらうっていうタイミングで、事務所におねだりしたんですよ。言ってもねぇ? サンドウィッチマンの事務所ですから、基本なんでもお金で解決できるっていうか!

サイトウナオキ(以下、サイトウ) できないできない。赤字にするわけにはいかないから。

上田 (笑)。まぁ、僕らはお笑いのDVDをずっと見てた世代なんで、自分たちのDVDが出せるなんてうれしいですよ。レンタルショップのお笑いコーナーにあったDVD、全部借りてなかった? 借りては返してまた借りて……を繰り返してたなぁ!( 隣で聞いていたマネージャーが突然笑い出す)……え?

――マネージャーさんが、上田さんがかかり過ぎてる(前のめりになり過ぎてる)って。さっきテンション上げて撮影に臨んでくださいましたけど、確かにそのテンションのままお話しされてますよね(笑)。

上田 (さらに声を張り上げて)DVDがねぇ!

サイトウ だって、ありがたいもんね? わざわざ俺らを載せてくれるなんて。

上田 ありがたい! こんなに特集してもらえるのにローテンションでやりたくないもん!

――(笑)。これまでの傑作選だそうですが、わりと攻めたコントが多いですよね。

上田 そうですね。ただ作った当時、そんな思いは全くなくて。10年くらい前は、こういうめちゃくちゃなネタって結構あった気がするんですけど。

サイトウ 蓋を開けてみたらテレビでできないネタが多くなってた、というだけだよね。最初の「マトリ」から飛ばし過ぎてますし。

上田 僕らが初めてやった単独ライブの1本目のネタでもあったんですけどね。10年くらい前のことですけど、誰も笑ってくれなくて。ただ、永遠に好きなネタなので、代表作としてこれからもやっていきたいですけど。

――初の全国ツアーでもありましたが、実際にやってみていかがでしたか。

上田 面白かったですね。本当に(観客の)反応って全然違うんだなって思いました。例えば、仙台は明かりが点いた瞬間、お客さんからワーっと拍手をもらったんです。東京ではあまり見られないなと思ったんですけど、サンドウィッチマンさんの単独ってそういう感じで始まることが多いから、サンドさんが仙台を手なずけたというか、教育しきってるんだなと思いました。

サイトウ 言い方が悪いなぁ。見方がそうなってるってことだよね。上田は、最初の東京公演で奇抜な演出をしたというか。開場中、なんにも喋らない僕らがただただ30分間、舞台にいるっていう演出をしたんですけど、公演が進むにつれて時間をちょっとずつ短くした結果、地方公演ではなくなりました(笑)。

上田 やめましたね。見に来てくださった東京03の飯塚さんから、帰りに「面白かったけど、あれは地方でやんないほうがいいかもな。ちゃんと始まったほうがお客さん喜ぶと思うよ。あれ、意味わかんないから」って言われました(笑)。僕としては、セットの代わりに僕らを置いたってことだったんですけどね。

サイトウ 金かかんねぇしな?っていうようなチャレンジを上田はよくするので楽しいですよ、単独は。

■ゾフィーのネタの根幹にある「執着」

――それぞれ好きなネタ、思い入れのあるネタがあれば教えてください。

サイトウ 「母が出て行った」ですね。初めてテレビの『キングオブコント
2017』決勝でやって、僕らが世に知られるタイミングとなったネタなので。あと、ちょっと燃えたっていう意味でも思い出になってますね。

上田 僕はやっぱり「謝罪会見」ですね。腹話術の人形と僕のペアで営業を回れるなと思ったと言いますか。

サイトウ (食い気味に)あぁ、違う違う。俺らと( 人形の)ふくちゃんでしょ?

上田 俺、本気出したらできたからな?

サイトウ いやいや、出さなくていいんだよ。

上田 よくね、言われるんですよ。「腹話術してるとき、口が動いてないですか」って。俺だって、練習したら口を動かさなくてもできるようになりますよ? けど、そうしたら本物の腹話術になって、いよいよゾフィーってなんなんだってなるじゃないですか。そこははっきりとお伝えしておきたいなというか。

――お笑いとしても、完璧にしちゃうと面白ポイントがいろいろと変わってきますもんね。

上田 そうなんですよ! 一生懸命やってるっていうより、ちょっとした隙間を作っていきたいなっていうかね。……僕、そういうのがすごく好きで。例えば、探偵みたいな人が陶芸家を訪ねてきて「あなたは人を殺したんじゃないですか」って言うんです。陶芸家は「何を言ってんだ、急に」って言うけど、ろくろを回す手が揺れて(粘土が)ぐわんぐわん歪んじゃうっていう。

そのコントを考えたとき、絶対にやりたいと思ったし、この場合は陶芸の腕前がうまければうまいほど面白いじゃないですか。だから、横浜の陶芸教室まで通って練習して。粘土もマジなヤツを使ったら(舞台上が)びちゃびちゃになっちゃうんで、油を入れるとか研究して。

サイトウ しかも、単独のネタのひとつなんですよ。

上田 そう。あと、シンバルも買ったね。シンバルを叩きながら踊るネタだったんですけど、わざわざ音楽スタジオを借りて叩き方を夜中、汗だくで練習して。ただ、このネタも1回しかやってないです。

サイトウ 単独のネタですね。僕と稽古したあとに「ちょっと練習してくるわ」ってスタジオにひとりで入ってました。音を入れて叩いてるフリをするパターンもあるのに、本物がいいって。道具を調達するのは僕なんですけど、安く収めなきゃいけないから、足を使っていろんな楽器店を回って大変でしたよ。

上田 サイトウさんはネタを書いてないんで、物くらい買ってこいってことです。

――(笑)。ネタに狂気性を感じるのはそういうこだわりからなのかもしれないですね。今回のDVDで言うと、執着している人が出てくるネタがすごく多いなと。「マトリ」は完全に依存ですし、生と死にこだわっている登場人物も多いですし。

サイトウ 確かにそうだな。

上田 ネタに出てくる人たちは、ひとつのことしか考えられないんです。人への配慮とかない。「あけみ荘殺人事件」も、自分のペンションがめちゃくちゃにされたことしか考えてない人だし。

――ペンションに執着してる。「母が出て行った」も、息子はご飯にものすごく執着してるじゃないですか。

上田 そうか。あれ、執着なんだ。

サイトウ なるほど。それ、いい言葉な気がします。

上田 そう思うと、僕、ちっちゃい頃から執着がひどかったんですよ。弟のボタンを押すと音が出る絵本を連打して笑ってたんですけど、だんだんと(面白いより)連打することに執着し始めて、一日中ずっと連打してて。飯食ってる最中も連打して弟に「いい加減にしろ」って言われるんだけど、そのあとも絵本を持ち歩いて連打して、最後、穴を開けちゃったんです。

サイトウ あはは! やり過ぎて?

上田 うん。「しつこい、マジで!」って言われることは確かに多いです。

――そういう上田さんの内面がネタに反映されてるんですかね? どんなところからインスピレーションを得ているのか気になっていました。

サイトウ 確かにね。その辺、どうなの?

上田 どうなんですかね? そう考えたら、何かに執着してる人を探しているのかもしれないですね。昔、コントのタイプを分けようっていうことになって。例えば、ある人が森の中でやっていることを、たまたま一般の人が見つけて「何をやってるんですか」ってツッコむスタイルがあるとしますよね。リコーダーを舐めようとするとか、そういうタイプだと思うんですけど、僕らはそうじゃない。森から街へ降りてきた変な人が、一般人にからんでいくネタだって。

サイトウ しかも、森の常識でね。

上田 そう。街なのに森のルールでやってるって感じっていうか。

サイトウ ゾフィーのコントってツッコミがそんなにないんですけど、それはツッコみづらい点が一理あるからで。その人なりの正義でそうしてるから(聞いている立場は)その気持ちもわかるし、正しいと思う時もあるっていうか。

上田 嫌がらせでやってない、いいことだと思ってやってる(人を描いてる)んです。例えば、マルチ商法をやってる人だとしても、行為自体はよくないことですけど、その人にとってはみんなを幸せにしたいって思いからやってることで、だまそうっていう意識はないっていうか。社会貢献してるっていう(その人なりの)大義名分があるんですよね。

単純に嫌がらせだとしたら嫌な人だなと思うし、悪意をもってやってしまうと「いや、それは犯罪です」って否定するしかない。けど、あなたのためを思って言ってるんだと言われた場合は、すぐに否定できないじゃないですか。そういう状況が続くことが、すごく面白いなと思ってるのかもしれないですね。

〈タカモトアキ〉

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