各媒体から引く手あまたの東出昌大。今、芝居が楽しいと実感
2023年09月21日 17時00分WANI BOOKS NewsCrunch
バラエティでも話題の東出昌大。『相席食堂プライムSP』ではAV監督の村西とおると共演、『世界の果てに、ひろゆき置いてきた』ではひろゆきとアフリカ横断。バラエティ番組での飾らぬ言動が注目を集めている。
俳優の仕事も好調。11月に長野県松本市で、12月に東京で上演する舞台『ハイ・ライフ』のために、今秋から松本に長期滞在しての稽古が決まっている。1年ぶりの舞台に自身でも気づかない緊張があるのか、早くも舞台でセリフを忘れてしまう夢を見たと語る。
筋金入りのジャンキー4人が一攫千金を夢見る会話劇。全員と共演歴がある東出は、どっぷり芝居に浸りたい、早くも稽古が待ち遠しいとニュースクランチのインタビューで答えてくれた。

▲東出昌大【WANI BOOKS-NewsCrunch-Interview】
■長期滞在での稽古は役者のあるべき姿かも
――舞台『ハイ・ライフ』の話を聞かれたときはどう思いましたか。
東出 戯曲を読んで、すごい会話劇だなと思いました。「松本で芝居をしてよかった。いい環境だった」と周りの役者たちが口を揃えて言っているので、松本で芝居をするのも楽しみです。
共演者徐々に決まり、僕は、他のキャスト(尾上寛之、阿部亮平、小日向星一)皆さんと共演経験があるので、缶詰になって寝食を共にして、松本でこの戯曲に打ち込める稽古期間は非常に充実したものになるんじゃないかなと思っています。
――皆さんと共演経験があるんですね。
東出 尾上さんは舞台で、阿部亮平さんと小日向星一さんは映像でご一緒でした。
――東出さんにとって、舞台と映像の違いは?
東出 難しい質問ですね。例えば、AとBという登場人物がいたら、映像はまず引きの画を撮って、それぞれの寄りを撮ります。映画の常識なら、一番の芝居場=感情が高ぶるところは、「寄りの場面で頑張りましょう。そこに良い芝居を持ってきたい」といったリズムがあるんです。
だけど、舞台の場合はもう本当に体ひとつ。体調を整えて、ちゃんと寝て、しっかりアップして120%で臨む。で、動き出したら止まりようがなく、一回一回が勝負です。とはいえ、舞台で2時間その役を演じているから、持ってこられるボルテージもある。芝居で役という別人になるということは一緒なんですけれど、ちょっと違いますね。
――今、楽しみにしていることは?
東出 みんなで稽古ができることです。
――松本での滞在しながら制作するというのは、東京で集まってやるのとは違うものですか。
東出 違うんじゃないかなと推測はしています。ドラマはほとんどの場合が通いなんですけど、映画は缶詰の場合もあったりします。するとやっぱり、その土地の空気感だったり、みんなでリハーサルをしたりしたことが作品に生きてくる部分が絶対にあるんです。
役者って、どこまで仕事に対して没入できるかが大事だと思うのですが、映像の場合はみんなが各々で持ってきたものを、パッと出して撮って解散ということが多いし、その潔さもあります。でも、そもそも別の人物になること自体が大変なことだと思うんです。海外の俳優さんの役作りのドキュメンタリーなどを見ますと、みんなものすごく勉強して、私生活も含め、作品に関することに全てを注ぎ込む。
そういうことは日本の現場ではなかなかできない。今回みたいに長期滞在して、「おはよう」から「おやすみ」まで、みんなが芝居のことしか考えられないという状況は、もしかしたら役者のあるべき姿なのかもしれない。いいモノ作りの環境になるんじゃないかなとは思っています。
――松本公演、そして東京公演があるんですよね。
東出 松本(まつもと市民芸術館 実験劇場)は串田(和美)さんがディレクションして作った演劇のしやすい場所だと聞いています。東京にもいい劇場はいろいろありますが、僕は東京の煩雑さが苦手なところがあるので、松本みたいな、ちょっと牧歌的な都市で芝居だけに集中できるのは楽しみなところでもあります。
■今回の舞台が終わったら役落としの時間が必要
――今回、演じるディックはどんなふうに自分のものにしていこうと考えていますか。翻訳劇の大変さもあるのでは?
東出 江戸の町人をやるなら江戸弁になるなど、その時代の言葉があると思いますから、翻訳ものだからといってあんまり苦手意識を持たないで取り組みたいと思っています。ただ、お客さんが違和感を抱く言い回しなどは、もしかしたら変わっていくかもしれません。演出の日澤さんとは「臨機応変に」と話しています。台詞の本当に細かいディテールは、これから変わるのかもしれないなと思います。

――東出さんはディックに対して、どんな印象を持っていますか。前科者という設定ですが、共感する部分はありますか。
東出 僕は前科ものではありませんが(笑)、けっこう破滅型なところがあったりするんです。今日も友達から飲みの誘いがあったのですが、ここのところ飲みすぎているので、「ちょっと今日は体を慮ってやめるわ」と断りしました。そんな自分勝手でクズな一面もあります(笑)。ディックほど、ジャンキーにはなれないんですけれども、まあ無頼というか、そういう気持ちはわからないではないです。
――誘いを断って、ちゃんとしています(笑)。
東出 いやあ、役者って本当に体を壊すと仕事ができなくなっちゃうので(笑)。モノ作りってどこかで心を鬼にしたり没入したりすると、そもそもの自分というものを忘れたりする。演じる役の中の世界ってどんなだろうと想像したり。我欲だったりプライドが強すぎると、共同作業って難しいと思うんです。
でも、今回の4人は素直にモノ作りできるメンバーだと思うので、稽古期間はみんなでいけるところまでいきたいなと思います。たぶん、僕がいちばん融通が効かないと思います。頭でっかちに考えて「どう思う? 尾上さん?」って聞くと、きっと尾上さんが「いいんじゃない? そんなに難しく考えないで。いけるよ、いける」と言ってくれるのが目に見えます。
――楽しみな組み合わせの4人ですが、主演としてみんなのバランスなどは考えますか。
東出 いや、全く考えないです(笑)。僕は役者ってもっと一人ひとりのものだと思っています。映像でも番手などを確認されたりするけど、僕はそこには全然興味がありません。責任感と緊張感を持って作品に臨むことにおいては、みんな一緒だと思っています。
――主演映画や主演舞台だから「みんなを盛り上げるぞ」「空気を作ろう」とか、そういう意識は持たないですか。
東出 盛り上げることが必要な現場もあれば、必要でない現場もあると思うんです。だけど、基本的には全員野球みたいな気持ちでいます。あとは愚痴っぽくならないようにしようとか。
――愚痴っぽくなるんですか。
東出 虚勢でもいいんですけれども、弱いところを見せちゃうと、やっぱり現場の士気が下がります。だから、「寒い?」って聞かれても「寒くないです」とか、「しんどい?」って聞かれても「大丈夫です」とか強がってみたり。口に出して言葉にして、自分を信じ込ませようというところがあります。
でも、きっと僕がいちばんパンクするのが早くて、尾上さんに話を聞いてもらうという事態をすぐに迎えると思います(笑)。他力本願です。
――こういった役柄にずっと浸っているのは大変なことではないですか。
東出 そこが楽しみなところではありつつ、終わったあと、ちょっと人と会わない時間を作りたいなと思います。そうでないと、私生活ですごく悪い目つきをしたり、言い方が粗暴になったりする癖がもし残っちゃっていたら、なんか怖いなと思うので。役落としが必要なんじゃないかなと思います。
――役に浸る時間が長ければ長いほど、役落としのための時間が必要になりますか。
東出 そうかもしれないです。実在の人物を演じるとなると、なるべく本人をコピーしよう、形態模写したいと思って体型を近づけたり、しぐさを近づけたりします。そういうのは人からもらってくるものなので、終わったあとも癖とかが体に染みついて残っちゃったりするんです。
でも、全く新しい人物だと、東出にある何かをちょっと広げていくことになるので、役の影響が終わってからも出ることは少ないんです。今回のディックみたいな役は、みんながきっとのめり込んで役作りをすると思うので、松本の滞在期間は目つきが悪かったりするんじゃないかなと思います(笑)。
――公演期間に見かけたら怖そうですね。
東出 阿部さんには敵わないかも(笑)。皆で歩くときは星一さんを先頭にして歩くようにします(笑)。星一さんまで人間性が変わっていたら怖いですけどね。
■台詞が全然入っていないという夢を見た
――役者として今回、こんな自分に出会いたい、こんな面を出していけたらなど思っていることはありますか。
東出 設定は遠いカナダの話ですが、欲求に対してストレートだったり、自分の行いに対して良心の呵責がなかったりする人って、目の前にいたら相当怖いと思うんです。付け焼刃でワルっぽいふりをするというような薄っぺらいものではなく、そういう迫力をまとった本物に見えればと思います。
「見えれば」というのは表現で見せるということではなく、本人が普段からそういう空気を纏っていることでもあると思うですね。「本当に危ない人たちが馬鹿なことを言っている、こんなどぎつい芝居はなかなか見たことがない」。そうお客さんに言ってもらえるような、重厚なものになればと思います。
――日澤さんとは今、どんなお話をしているんですか。
東出 日澤さんと、ドニーという尾上さんのやる役について話していたときに、僕が「もしドニーをやるとしたら、舞台上で失禁するかも」と言ったら、日澤さんが「全く同じことを考えていた」って。それはあくまでイメージで、実際にそうするということではないのですが。日澤さん曰く「丁寧に積み上げて、汚くする」と。
――脚本を読まれたときはディックの目線で読んだんですか? ドニーのほうがやりたいとかなりませんでしたか?
東出 それはありませんね。でも、読んで「あれ? 俺、ずっと舞台上に居る!?」とは思いました。素人みたいな感想ですけど(笑)。本当にうまくできた構成の4人芝居なんですけど、僕がまず3人にひとりずつ会って、どう対応するかというのがあり、その後、顔を合わせる。バグといるとき、トニーとそしてビリーといるとき、それぞれの間合いがそれぞれあり、リズム感が非常にいい戯曲だと思います。ディックは大変興味深い役なので、演じることは光栄だと素直に思います。
――ずっと出て、ずっと喋っていますよね。
東出 台詞を覚えるときは腹をくくらないとできないので、大変とは考えないようにします。この前、台詞が全然入っていないのに舞台に立っていたという夢を見たんです。きっとそれなりのプレッシャーが僕の中にあるんだなと思います。
10月から稽古なのに、8月の頭にそんな夢を見ているなんて(笑)。僕自身、楽しみにしていると思っていたんですけれど、気合が入っているんだな。

――東出さんはどうやって台詞を覚えるんですか。
東出 その台詞の意味をまず考えます。一言一句、違わないようにではなく、何回も繰り返し読んで「このシーンでこいつは何を言いたくて、どういうふうに相手との距離感を計っているんだろう」と考える。意味を入れていると、だんだん記憶されて台詞が入ってきます。
一気に集中するよりも短時間に繰り返すほうが僕には合っているようで、今回はなるべく長いスパンで台本を開いては閉じて、開いては閉じて……と、今やっているところです。
――体を動かしながら覚えるという方が多い気がします。
東出 そうですね。脳科学者の茂木健一郎さんの本で読んだんですけど、脳って考えているとエネルギーを発散したいらしいです。だから、将棋の棋士が体を揺らしたり、扇子をパチパチやったりするのは、体からエネルギーを出して、考える脳に直結させているそうです。キムラ緑子さんは歩きながら覚えると言っていましたけど、僕もそうです。ずっと座って読んでいても台詞は入ってこないから、台本を持って家の中をぐるぐる回ったりします。
――これまでに台詞が出てこなかったことはありますか?
東出 ないです、ないです。
――それでも忘れる夢を見てしまうものなんですね。
東出 見ますね、怖い夢。「こいつの努力が圧倒的に足りなくて、どうしようもない」と思われたら、次はない仕事ですから。もちろん努力というか、準備をするのは最低限のことなんですけど、その準備すらしていなかったという夢は絶望です。ああ、想像したくない(笑)。
――それだけ今回は楽しみであり、気合いが入っている?
東出 そうだと思います。おっしゃる通り、今回は挑戦です。ヨットで太平洋横断くらいの。もちろん、やったことはないですけど、行ったことのない距離と時間を、風に煽られればどうなるかわからないヨットで、台風が来るかもしれないのに行ってみるというような、長期の航海にも似た挑戦です。それほどの気持ちが自分の中にはあります。
■人生を豊かに生きるために考える日々
――東出さんは映像でも毎回、話題になるぐらい、追い込まれて役作りしている印象があります。追い込まれる役柄が多いともいえますが、自分でそういう作品を選んでいるんですか。
東出 いえ、そんなことはありません。強いてあげるなら、普通に現場に行って楽しく帰る(笑)。そういうお仕事も好きなんですけど、ありがたいことに何か難しい役がきちゃったり、受けちゃったりするんです(笑)。
――自分ではどういうバランスで仕事をしたいとか、ありますか。
東出 真摯に作品に向き合いたいとは思っています。映画『草の響き』で精神の疾患を抱えた役をやっているときは、撮影での滞在中、観光ついでに来ているような精神状態では全然いられなくて、どこか自棄酒(やけざけ)のように酒を煽って、共演者の大東(駿介)さんに愚痴を聞いてもらったりしていました。
全部終わったときに良い人たちとの出会いだったなと思えるか否かって、自分がどこまでやれたかということと比例している。やっぱり「こいつを使ってよかった」と思ってもらえるパフォーマンスをしないと、一緒に仕事する人たちにあまりにも失礼なので。全部、ひっくるめて芝居が好きなんだと思うんです。
――作品への向き合い方はデビュー当時から変わらないものですか。
東出 最初は芝居の“し”の字もわからないところから映画『桐島、部活やめるってよ』や、映画『クローズEXPLODE』だったり、NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』など、いただける役の大きさと自分の経験が全然比例していなくて。
若者ゆえの万能感なのか、「俺はできる」って思っているのに、どうもうまくいかないというのが、最初の5年ぐらいはずっと続いてして苦しかったです。その5年は苦しいながらも「芝居って?」と諦めずに考えて、映画『聖の青春』のあたりから、ちょっとずつわかってきて。
監督から「いいよ。好きにやって」と言われる機会が少しずつ増えてきて、できるようになって。きつい作品はきついので、楽しいってことはないですけど、この3年ぐらいは狙ったところに球を投げられるようになってきた。
コントロールだけではなく、球の緩急だったり、今まで投げたことのないような球を投げられるようになって、驕りになってはいけないんですけれど、「やれるだけ、やった」と言って帰ってこられるのは、楽しいってことなのかなあと思います。

――普段の生活はどうですか。仕事に集中するために過ごしているんですか。
東出 私生活のふとしたときに芝居のことを考えてしまうのは、職業病だと思うのでしかたがないと思います。「全部が全部、芝居に」というより、実生活は「人が生きるってなんだろう」とか、答えの出ない問いのようなことを日々考えながら生きている感じです。
人との出会いだったり、生活のなかで起きた事象だったり、そのたびに考えるきっかけをもらって、それが最終的に芝居のほうにつながったりするんですけれど、芝居が生きる目的の全てっていうわけでは決してなくて。芝居はお金を稼ぐためのひとつの職業に過ぎないと思っています。
芝居は期間が決まっているし、役や作品によって、方程式が少しだけわかりやすかったりするんですけど、実生活のほうは問題が莫大というか規模が大きすぎるので、その端っこのほうをちょっとずつ解いている……解けているのかな? まあ、考えている日々だと思います。
――莫大な問題?
東出 「なぜ人は悲しいと思うんだろう」「怒りってなんだろう」とか、そういうことです。この前も久しぶりに怒りが湧いたんですけれど、「怒っていいことなんてない。怒りってぶつけていいものではないな。湧き起こってくる、この怒りはどうすればなくなるんだろう。人に期待していたから生まれてきたのかな。人との関係ってなんだろう。切り離したほうが楽なんだろうか」とか、そんなことをぐるぐるぐるぐると……(笑)。
――俳優業に生かすためですか。
東出 いや、人生を豊かに生きたいと思っているんだと思います。その瞬間は真剣に考えています。何も考えないで、タバコを吸って、インスタントコーヒーを飲んで「うまい〜」と言っている瞬間もあるんです(笑)。若い頃は先ほど言ったような万能感があったので、「自分はわかっている」と思ったりしていたんですけれど、大人になるにつれ、「自分ってどれだけわかってなかったんだろう」と思うことが増えていったんです。
若い頃は有名になりたい、お金持ちになりたい、いい服を着たいとか、もっと単純に考えていたように思います。そのうちに「いい服を着るってなんだろう」「すごいって言われる人になるっていうけど、すごいってなんだろう」とか、そういうことを考えるようになっていったのだと思います。
――今の目標は「豊かな人生を送りたい」ですか。
東出 そうなればいいなと思うんですけれど、どうなんですかね。でも、疑心暗鬼って言うけれども、怖がろうとして暗闇に鬼を探す作業は意味があるんだろうかと考えると、生きているだけでもそれなりに幸せなんじゃないかと、足るを知れるようになるのかもしれないですね。
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〈髙山 亜紀〉
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