ミャンマーの少数民族「ワ族」の尋常ではない酒の飲み方

ミャンマーの少数民族「ワ族」の尋常ではない酒の飲み方

©イラスト 小幡彩貴

 中国南部からヒマラヤにかけての山岳部には、雑穀のヒエで作ったユニークな酒がある。私はネパール、ブータン、そしてミャンマーで出会ったことがある。

 まず作り方が独特。炊いた小さなヒエの粒を大きな壺にぎっしり詰め、麹を加えて一週間ほど発酵させる。するとヒエ粒がアルコールの塊になるのだ。そして、飲むときに、壺に湯を注げば、自動的に酒になるという仕組み。

 味はやや乳酸発酵しており、うっすらと甘酸っぱい。若干発泡している気がするときもある。韓国のマッコリを薄めたような、あるいはカルピスサワーの甘みを抑えたような酒と言えば想像がつくだろうか。アルコール度数は低く、三パーセント程度だろう。

 民族や地域によって飲み方がちがい、それがまた面白い。ネパール東部では「トゥンバ」というアルミの容器に発酵したヒエ粒を入れ、そこに水を注いで、ストローで吸う。居酒屋ではいい年をしたオヤジたちがわいわい喋りながら、赤ちゃんのように両手でトゥンバをもち、ストローでちゅうちゅう酒を吸っているのには笑った。

 ミャンマー奥地の少数民族、ワ族の村に住んでいたときは、冠婚葬祭のおりに毎回大量に飲んでいた。ワ族は高さ一メートルもある巨大な壺でヒエ粒を発酵させ、それに直接水を注ぐ。それを柄杓や竹筒でくみ出して飲むのだが、その飲み方が尋常でない。必ず「二人一組」で飲まねばならないのだ。

 手順は決まっている。まず、二人が向かい合って、しゃがむ(ワ族の家は土間なので、低い腰掛けに座るかしゃがむ)。

 二人で酒の入った竹の杯(400mlくらい)を同時に両手で掴み、「ア」と言う。「ア」とはワ語で「私たち二人」という意味で、このときは「乾杯」を表す。

 まず、片方(Aさんとしよう)が杯をとり、ほんのちょっと口につけて相手(Bさん)に返す。おそらく「毒が入っていませんよ」という意味だと思う。Bさんは杯を受け取ると、中国の「乾杯」よろしく一気に飲み干す。終わると、また相手と杯を両手で握り合う。続いてAさんとBさんが立場を入れ替えて同じ動作を繰り返す。

 初めて見ると、いい大人がウンコ座りをしたまま、手と手を取り合い(そういうふうに見える)、口をぽかんと開けて「ア」と言うのは笑える。

 実際にやってみると、かなり楽しい。私はワ族の土地に長期滞在した初めての外国人だったので、誰もが興味津々。一緒に「ア」とやると、いかついおじさんたちも顔をくしゃくしゃにして喜ぶ。私も彼らの節くれ立って酒の滴に濡れた(なぜかたいてい酒がこぼれて濡れている)手を竹の杯ごとガシッと握ると、「あー、受け入れられてるなあ」と嬉しくなる。ワ族は女性も酒を飲むので、おばあさんや若い女の子とも「ア」ができる。それも楽しい。

 といっても、喜んでいたのは最初だけだった。どの宴会でも、次から次へと村人が私の前にやってきては「ア」と杯を差し出す。「あの珍しいガイジンとアがやりたい」とみんなが思っているのだ。

 アルコール度数が三パーセントくらいとはいえ、なにしろ400mlくらい一気飲みだ。三回連続で「ア」をやると、腹はたぷたぷ、酔いも相当まわる。で、見ると、目の前にワ族の老若男女の行列ができていたりしてゾッとする。逃げようとすると、腕をぐいっと掴まれ、「ア」。

 あまりに大量に飲むので、しまいには、自分の体がヒエ酒の壺になったような気がしたほどだ。「あー、もうアはいいよ……」と嘆いたものだった。

(高野 秀行)

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