あんずがたまらん。魅惑のジャム作り――平松洋子の「この味」

あんずがたまらん。魅惑のジャム作り――平松洋子の「この味」

©下田昌克

 プラム、プルーン、すぐり、ブルーベリー……あれこれ買い集めては夢中でジャムを作っている。果物をとろっと柔らかく煮る。ジャムというより、コンフィチュールと呼ばれているものに近い。もっとも、フランスではコンフィチュールは糖度六十度以上と決まっているようで、まあそれに近いのかな〜、というくらいのアバウトな作り方だ。

 穴に落ちた瞬間があった。友だちのRちゃんとお茶を飲んでいたら、「あんずジャムがたまらん」と言う。訊くと、いまあんずが出回っていて、毎年作るのが習慣だと言う。

 ぬかった。私もあんずジャムが食べたい、作りたい。でも、あんずはそろそろ終了時期では? 急いで八百屋に走ってあんず2パックをゲット、グラニュー糖も買い、すぐさま台所に立った。

 たまらんおいしさだった。あんず=アプリコットの酸味とうまみ、まぶしい太陽のようなオレンジがかった黄色。バタートーストにのせ、ヨーグルトにたらし、アイスクリームにかける。「あんずの幸せ」という歌があったら歌いたい。

 しかし、あんのじょう、直後に店頭からあんずが消え、今度はプラム、プルーン、ブルーベリーあたりが登場した。

 まだまだジャムが作りたいよう。脳内おむずかりのご様子。

 で、止まらなくなった。赤い果物を好きなように組み合わせ、グラニュー糖とレモン汁、ときにはカルダモンやシナモンなどスパイスも放りこみ、ホーロー鍋で煮る。火をこわがらず、木じゃくしでかき混ぜながらさっと煮ると、目が冴えるルビー色の色彩。家じゅうが赤い芳しさに満たされて、ホントたまりません。

 小瓶に詰め、おすそわけする楽しみもついてくる。えっこれを!? 目を輝かせてくれるから、よけいうれしい。で、また煮る。

 ふと思った。

 なぜ私は町中を走り回って赤い果物を買い集めているのだろう。ふだん縁のないグラニュー糖を買い足しているのだろう。どっちもかさばるし、重いし、炎天下を歩いていると汗が噴き出てぼうっとしてくる。

 でも、うれしい。一点の曇りもなくうれしい。

 なんだろうな、これ。

 ふと、このところのぬか漬け暮らしにつながったから驚いた。

 二週前に縷々書いたけれど、五月からずっと、ぬか漬けに支配される毎日だ。この炎暑のなか、床置きの瓶で漬ける行為がすでに無謀な気がするが、始めてしまったからには行けるところまで行ってみたく、朝晩まじめにぬか床をかき回し中。そんなアナタの「ぬか漬け戦争」が気になる、と同情の声多々あり。T書房の編集者Tさんは、「ジップロックに入るだけのぬか床で、冷蔵庫で簡単に楽しんでます」。クレバーだな、と思う。酷暑にわざわざ不安因子を抱え込まない、賢い手。私もそっちに鞍替えしたいが、始めてしまったからには行けるところまで……以下同文。

 ジャム作りとぬか漬けを結ぶもの、そのココロは「保存」。在るものを利用して、自分であらたな食べものを作り出す。しかし、大きく道を分かつものもある。それは「菌」。

 ぬか漬けは菌の活躍が頼りだが、ジャムの敵は菌。糖度は、菌の増殖を阻む役割を担っている。

 菌から逃避したかったのだ。菌に意趣返し。解放感を味わいたかったんだなあ、私は。

 またジャム煮るぞ。

(平松 洋子)

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