アイラモルトのような個性派を目指す北海道生まれのウイスキー。「厚岸蒸留所」の厚岸NEW BORN FOUNDATIONS 1。

2016年、北海道の厚岸町にウイスキー蒸溜所が誕生した。それから2年後、初のウイスキー「厚岸NEW BORN FOUNDATIONS 1」が完成し、日本国内に衝撃を与えた。アイラモルトが造られているスコットランド・アイラ島と環境がとてもよく似ているという理由で創設された厚岸の蒸溜所を訪れてみた。

目指すウイスキー造りに最も適した地それが厚岸が持つ環境だった。

この白い建物の中で、毎日ウイスキーの蒸溜がされている。しっかりと衛生管理がされ、中に入るときには専用の衛生服と靴を着用し、手を隅々まで洗う

北海道・釧路空港から東にクルマで約1時間のところに、厚岸蒸溜所はある。日本のウイスキーの特徴である“甘さ“を重視するのではなく、スコットランドの伝統的な製法で、アイラモルトのようなスモーキーフレーバーでピーティなウイスキーを造りたいと2013年から試験熟成を始め、2016年から蒸溜をスタートさせた。

厚岸とはどんな土地なのだろうか。

「厚岸はアイラモルトが造られているアイラ島と環境がとてもよく似ているんです。まず仕込み水はピート(泥炭)層を通った水。冷涼湿潤で熟成に適しているだけでなく、海に面しているため、海霧が潮の香りを運んできてくれる。そして牡蠣の産地であることも大きな特徴ですね」と話すのは田中隆志さん。

一般的には行っていないが、蒸溜所を見学する前に、この事務所で厚岸蒸溜所についてやウイスキー造りの基本を教えてもらった

2018年から初商品となる「厚岸NEW BORN FOUNDATIONSシリーズ」をリリースし、現在は次へのステップとして舵を切っている。まずは厚岸が生んだ新生ウイスキーを牡蠣と一緒に味わっていただきたい。

本場スコットランドのメーカーのポットスチル(蒸溜器)を導入。中央には醸造祖神として崇敬を受けている京都・松尾大社の神棚が祀られている 厚岸といえば牡蠣の産地として有名。アイラ島では生牡蠣にアイラモルトを少しかけて食べられている。これも厚岸という地を選んだ理由のひとつだ

伝統製法を取り入れて造る蒸溜所に潜入!

案内人・田中隆志さん|稼働当初の4人のクラフトマンのひとりで、製造課長としてウイスキー造りに携わる。スコットランドの蒸溜所を巡り見識を広げる

1回の仕込みで、なんとこれだけの大麦が使われる!

原料となる大麦はスコットランド産が主体で、北海道産も一部の仕込みで使用。将来は厚岸産の大麦が使われる予定。また1回の仕込みでなんと1tもの大麦が使われているという。右はまさに1t分。田中さんが並ぶとその量の多さがわかるだろう。

じっくり時間をかけて丁寧に粉砕していく。

まずは原料となる大麦を2時間かけて粉砕する。下の写真は粉砕した大麦。左から2mm以上、2~0.2mm、0.2mm以下の粉砕粒度ごとにわけたもの。これを理想の比率にするために粉砕器の設定を変える。

粉砕した大麦を仕込むための大釜!

粉砕した大麦は、まずこの大きな仕込み釜(マッシュタン)に入れて、ピート層を通った軟水を仕込み水と一緒に、糖化させていく。

仕込みが終わったら、発酵用のタンクに移される。タンクは全部で6個あり、日ごとでタンクが分けられている。発酵期間は5日間で、日々ウイスキーの発酵状態が変わっていく。

5日間の発酵期間。

発酵層はステンレス製で、温度調整をしないタイプ。発酵中の麦汁が5000l入ってる。また床は常にドライ状態をキープし、何か変化があった場合はすぐに対応できるようにしているそうだ。

糖化した後の麦汁。まだアルコールがない状態で、麦の風味がよく感じられるジュースのようなもの。ほのかに甘みがあって美味しい!

ウイスキー酵母を入れて発酵させている状態。表面にキメの粗い大きな泡が沸々と上がり、活発に菌が活動しているのであろうことが想像できる。

3日目、発酵が進んでキメ細かな泡に変化した。前日まで沸々と泡が上がってきていたが、少し落ち着いてきたようだ。アルコールを感じる少し刺激的な香りになってきた。

4日目、さらに発酵が進んで乳酸菌が増えている状態。白い泡の中に少しずつ茶色の泡が混じるようになってきた。少し酸味を感じる香りが特徴だ。

ウイスキー酵母が死んで、さらに発酵が進んだ状態。表面は茶色く変化してきた。フルーティーの中にほのかにスモーキーな香りを感じられる。

オニオン型のポットスチルは存在感抜群!

スコットランドの伝統的な製法を重んじて、スコットランドのフォーサイス社製のポットスチル(蒸溜器)を設置。2基のポットスチルは、手前側が1回目の蒸溜(初溜)専用、奥側が2回目の蒸溜(再溜)専用のもの。

ウイスキー造りの象徴であるスピリットセイフ。

これは蒸溜した原酒のアルコール度数を測定し、検査するための密閉容器。この中の原酒を盗み飲みされないよう鍵がかけられる仕組みになっている。

蒸溜された原酒は別部屋にあるこのタンクに移される。そしていよいよ樽詰めの作業。バーボン樽、シェリー樽、ミズナラ樽それぞれに原酒を詰めていく。

大小様々な樽が陳列している貯蔵庫。

樽詰めしたものは、直接雨風があたらない場所で木のレールを使って樽を積み上げるダンネージ方式で熟成する。3年以の熟成を待って出荷されるのだ。

厚岸NEW BORN FOUNDATIONSを飲み比べ。

厚岸蒸溜所が第一弾シリーズとして発売したのが、厚岸NEW BORN FOUNDATIONSシリーズだ。2019年8月末に最新のブレンデッドが発売され、全4種類が揃った。その実力を堪能してみた。

右.厚岸 NEW BORN FOUNDATIONS 1

2018年に発売された初商品で、バーボン樽で5~14カ月熟成させたノンピートモルト原酒をヴァッティング。アルコール度数60度で、樽出し原酒に近い味わいを感じられる。レモンやナッツ、ハチミツのような甘い香りに、柑橘系の酸味とふくよかな甘みを感じる1本。

右中.厚岸NEW BORN FOUNDATIONS 2

バーボン樽で8~17カ月熟成したピーテッドモルト原酒をヴァッティングした初のピーテッドタイプのシングルモルト。スモーキーな香りに、海の塩味や柑橘 類などの風味を感じる。ブラックペッパーやカカオのようなビターな風味にほのかなソルティ感のある仕上がりが魅力。

左中.厚岸NEW BORN FOUNDATIONS 3

希少なミズナラ樽で8~23カ月熟成したノンピーテッドモルト原酒をヴァッティングしたシングルモルト。黒糖、バニラ、フレッシュメロンのような甘い香りにナツメグのようなスパイシーな香りが特徴だ。わずかな香木調の香りも余韻に楽しめる。アルコール度数は55度。

左.厚岸NEW BORN FOUNDATIONS 4

シェリー樽などで13~30カ月熟成したモルトとグレーンのブレンデッド。グレーンはスコットランド産のニューメイクを厚岸で樽詰めし、熟成させた原酒を使用。使用モルトの50%以上がシェリー樽熟成樽原酒で、また5%以上の原料には北海道産の大麦麦芽を使用。

【DATA】
厚岸蒸溜所
http://www.facebook.com/akkeshi.distillery/

※情報は取材当時のものです。現在取り扱っていない場合があります。

(出典/別冊Lightning Vol.214「ウイスキーブック」)

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