子供が「糖質制限」しても安全か? 30年で「子供の生活習慣病患者」が世界中で激増

「子供の糖質制限は理論的に問題ない」と内科臨床医 子供の生活習慣病激増を指摘

記事まとめ

  • 「子供の糖質制限は何の問題もない」理論的な理由を内科臨床医が述べている
  • 子供の2型糖尿病患者が増加、離乳食で肉を食べさせると身長は伸びるとの研究結果も
  • 子供がいたとしたら、積極的に「低糖質・高たんぱく・高脂質」の食事を与えるという

子供が「糖質制限」しても安全か? 30年で「子供の生活習慣病患者」が世界中で激増

子供が「糖質制限」しても安全か? 30年で「子供の生活習慣病患者」が世界中で激増

高糖質・低脂肪食が子供の健康にも悪いことは明らか(depositphotos.com)

 子供の糖質制限に関して、「子供の糖質制限は理論的に何の問題もない」と私は考えます。私に小さな子供がいたとしたら、積極的に「低糖質・高たんぱく・高脂質」の食事を与えます。

 しかし、子供の糖質制限を激しく否定される人々がいらっしゃるのもわかっています。「糖尿病の大人ならともかく、育ち盛りの子供はバランスよく一定量の糖質を毎日食べなければならないに決まってる! 常識にエビデンスなんて必要ない!」「子供に糖質制限して成長が止まったらどう責任を取るんだ! 絶対に大丈夫だというエビデンスを見せろ!」と激しいお言葉をいただきます。

 ということで、この問題に関していくつかのことを述べます。

@子供が糖質制限しても何の問題もないという理論的な理由
Aこの30年で子供の2型糖尿病患者が増えている現実
B離乳食で肉を食べさせると身長はむしろ伸びるという研究結果

 これらについて読んでいただいた上で各自でご判断ください。

人類が毎日たくさんの糖質を食べるようになったのは最近のこと

 現生人類の祖先が草原で採集生活を始めたのは、少なく見積もっても250万年前です。そしてホモ・サピエンスはおよそ25万年前にアフリカに出現しています。7万年前ころからの氷河期にはマンモスなどの大型獣の狩猟も目立ってきますが、それまでは、昆虫や小動物、肉食獣の食べ残し、魚介類などの採集生活、要するに「高タンパク・高脂質食」です。草木の新芽、果実や穀物などの糖質は、一部の季節にたまにしか手に入りません。

 つまり人類は250万年、8万世代以上にわたって、高蛋白質・高脂質で低糖質な食生活を続けながら繁栄を続けてきました。体を作っている栄養素は「たんぱく質」と「脂肪」で、糖質はごくわずかですし、赤血球や脳のエネルギーとして必要なブドウ糖の量も1日150gもあれば十分で、すべてたんぱく質と脂質から体内で作り出せます(糖新生)。つまり、糖質をまったく摂取しなくても問題なく生きていけます。実際に現生人類の消化管の構造は肉食動物に近いものです。

 一方、人類が農耕を始めたのはメソポタミアで1万2000年前、インドや中国などで6000〜8000年前、日本での農耕は4000年前、稲作は3000年前からです。一般庶民が毎日米を食べるのは江戸時代中期からで、世界的に見ても同様です。

 穀物が豊富な食卓になってから数百年から数十年の歴史しかありません。ほんの3〜10世代かそこらです。我々が糖質をたくさん食べるようになったのはごく最近の話であり、高糖質・低脂肪食には歴史もないのです。子供だけは例外的に高糖質食を何万年も続けてきたという歴史も、そうすべきだという科学的根拠もありません。

子供の生活習慣病患者はこの30年で激増している

 2010年に書かれた総説を読むと、北米の子供たちの実に40%がBMI25を超える「過体重」、あるいはBMI30を超える「肥満」だとされていますが、これらの数字、1980年ごろからの30年間で一気に2〜3倍に増えたそうです。2型糖尿病はさらにハイペースで増えています。

 実は肥満小児の数は、アメリカ以外の国でも同じ時期に2〜3倍に増えていて、オーストラリア、ブラジル、カナダ、チリ、フィンランド、フランス、ドイツ、イギリス、そして日本でも同様であると報告されています(出典:Childhood Obesity - 2010: Progress and Challenges)。

 1980年に何があったのか? この連載の最初の記事にも書きましたが、1980年前後にアメリカ政府が勧告で「高カロリーでコレステロールの過剰摂取が生活習慣病を生みだしている。高脂質の食事をやめて、高糖質で低脂肪な食事に変えるべきだ」という声明を出して、実際に食事指導に乗り出しました。それから30年でアメリカだけでなく世界中の2型糖尿病患者と肥満患者は激増しました。これが大人だけでなく子供にも影響を及ぼしているものと考えられます。

 大人の病気だと考えられていた、生活習慣病、2型糖尿病に、子供たちが苦しむようになっている。少なくとも、高糖質・低脂肪食が子供の健康にも悪いことは明らかです。

離乳食で肉を食べた幼児の体格と健康状態は明らかに良好である

 子供の糖質制限に反対される方々が口々におっしゃるのが、「育ち盛りの子供の食事から糖質を減らして発育が阻害されたらどうするのだ!」というセリフです。子供には糖質をたくさん食べさせないと身長が止まる、脳の発達に悪いと心配されます。

 農耕が始まる前の人類は身長が低かったのでしょうか? 逆です、化石の骨格を調べることで狩猟採集生活の時代の人類は農耕人類よりもむしろ体格がよかったことがわかっています。農耕開始とともに人類は小さくなっているのです。

 狩猟採集生活をしていた人類は農耕人類よりも頭が悪かったのでしょうか? こちらは文明の記録がないのでわかりませんが、頭蓋骨から計算される脳容積に遜色はありません。そして、文明社会に住まずにサバイバルするため、一人一人の知識や判断力は現代人よりも優れていないと生きていけなかったと推測されています(参考:ユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』河出書房新社)。

 ここで、2014年頃から報告されている離乳食に関するいくつかの研究論文を紹介します。母乳はそもそも高脂質・高たんぱくで低糖質です。これらの論文では生後6か月から18か月までの乳幼児に離乳食として肉、穀物、あるいは鉄分強化穀物、を離乳食として与える研究がなされています。中国農村部やアジアの貧しい国で、乳幼児の栄養状態が良く無い地域での研究なのですが、以下のことがわかっています。

@離乳食として肉を主に与えられた乳幼児の成長が一番良くて貧血も改善すること。
A離乳食として肉を与えられても知能の発達に何のトラブルもなかったかむしろ良かったこと。
B鉄などの穀物に不足する栄養素を添加した強化穀物を食べた幼児では、貧血は改善したものの成長はもっとも悪く、しかも血液を調べると炎症状態が認められたこと。

【出典】
The Effect of Iron Fortification on Iron (Fe) Status and Inflammation: A Randomized Controlled Trial. PLoS ONE 2016 ; 11(12)
Food Based Complementary Feeding Strategies for Breastfed Infants: What's the Evidence that it Matters? Nutr Today. 2014 ; 49(6): 271

 このように、現代人の乳幼児の離乳食でも肉食は体格がよくなるなどの利点があり、それを穀物に鉄分強化をして人工的に補おうとすると炎症が起きるという研究結果となっています(鉄分はたんぱく質との同時摂取が重要なのです)。

子供の糖質制限についての教科書は三島塾と『Fat Chance』

 北九州で学習塾を経営されている三島学さんは、塾の子供たちにも糖質制限の食事を勧めています。勉強にも情動的にも素晴らしい成果が記されていて(糖質制限が子供を救う)、そのレシピ本も出ています。

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の小児科の教授であるLustigさんは、以前から小児の糖質、特に果糖摂取の危険性を説き続けられています。論文も本もいくつも出ています。2014年に上梓された『Fat Chance』(Hudson Street Press)にも小児のさまざまな患者さん(糖尿病だけでなく、発達障害や精神神経疾患も含む)に糖質制限を指導した際、どのような効果があったかについて詳細に記載されています。

 以上のように、子供の糖質制限に関してはさまざまな情報が手に入ります。「大規模なリサーチのエビデンスのない医学情報の公開は許されない! 有識者と行政で監督してネットの医学情報に規制をかけるべきだ!」と叫ぶ学者さんもいるかもしれませんが、手に入る情報を読んで各自で判断していただく、今の時代はそうあるべきだと私は思います。もちろん、自分で十分に判断する能力を身につけることが何よりも重要ですけれども。

連載「肥満解読〜痩せられないループから抜け出す正しい方法」バックナンバー


吉田尚弘(よしだ・ひさひろ)

大阪市内のクリニック勤務。1987年 産業医科大学卒業、熊本大学産婦人科に入局、産婦人科専門医取得後、基礎医学研究に転身。京都大学医学研究科助手、岐阜大学医学研究科助教授後、2004年より理化学研究所RCAIチームリーダーとして疾患モデルマウスの開発と解析に取り組む。その成果としての<アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子の解明>は有名。
その傍らで2012年より生活習慣病と糖質制限について興味を持ち、実践記をブログ「低糖質ダイエットは危険なのか?中年おやじドクターの実践検証結果報告」を公開、ドクターカルピンチョの名前で知られる。2016年4月より内科臨床医。

吉田尚弘(よしだ・ひさひろ)
大阪市内のクリニック勤務。1987年 産業医科大学卒業、熊本大学産婦人科に入局、産婦人科専門医取得後、基礎医学研究に転身。京都大学医学研究科助手、岐阜大学医学研究科助教授後、2004年より理化学研究所RCAIチームリーダーとして疾患モデルマウスの開発と解析に取り組む。その成果としての<アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子の解明>は有名。その傍らで2012年より生活習慣病と糖質制限について興味を持ち、実践記をブログ「低糖質ダイエットは危険なのか?中年おやじドクターの実践検証結果報告」を公開、ドクターカルピンチョの名前で知られる。2016年4月より内科臨床医。

関連記事(外部サイト)