実は「認知症」ではなかった…誤解されやすい「高齢者のうつ病」どう見分ける?【認知症研究者が解説】

実は「認知症」ではなかった…誤解されやすい「高齢者のうつ病」どう見分ける?【認知症研究者が解説】

高齢者のうつ病は認知症と間違われることがあります。誤った判断により適切な治療を受けられないだけでなく、うつ病を放置することで認知症になってしまうケースも。両者の違い、見分け方について解説します。


■うつ病による仮性認知症
呼びかけへの応答が遅く、ぼんやりしているお年寄りを見たとき、あなたはどう思いますか? 相手が高齢なほど、 「認知症なのかな?」と思う方が多いかもしれません。しかし実際には、この方は認知症ではなく、うつ病かもしれません。

このように、本当は認知症ではないのに、精神障害や意識障害のために知的機能が障害されているように見える場合を「仮性認知症」と呼びます。うつ病は仮性認知症をもたらす病気の一つです。

高齢者のうつ病と認知症は混同されやすく、間違った判断をされると、適切な治療が受けられなくなってしまいますので、注意が必要です。両者の違いと関係を詳しく解説します。


■高齢者のうつ病が認知症と間違われやすい理由
うつ病も認知症も精神疾患に含まれ、現状では、他の病気のように何らかの検査の数値で明確に判別できるものではありません。あくまで、ご本人の訴えや周囲に見える症状から判断しなければならないので、難しいです。

うつ病の症状には、抑うつ気分(理由もなく気分が沈みこんだ状態が続いている)、意欲の低下(やる気がわかない)、不安、焦燥、妄想、自律神経症状(不眠、食欲低下など)などが含まれますが、うつ病かどうか判断するときには、多くの方が、抑うつ気分や意欲の低下に注目することでしょう。

若齢者のうつ病の場合には、仕事や学業に支障が生じることで気づくことが多く、はっきりと抑うつ気分や意欲の低下が見られることがほとんどなので、鑑別するのは比較的容易です。

しかし、高齢になると、うつ病でも、抑うつ気分や意欲の低下が目立たなくなりますし、どうしても「老化→認知症」という思い込みがあるため、認知症と誤診されることがあるのです。


■うつ病が原因で、本当の認知症を生じるケースも
うつ病であれば、抗うつ薬を用いた薬物治療が可能です。抗うつ薬の服用によって症状を抑えることができるだけでなく、長期的な治療によって完治される方もいます。しかし、認知症と誤診されてしまうと、適切なうつ病の治療を受けられなくなってしまいます。

さらに問題なのは、うつ病の治療を行わず放置しておくと、本当の認知症になってしまうことがあることです。

食欲不振から栄養状態が悪化したり、脱水状態になりやすくなると、それらが認知症の誘因になります。意欲の低下によって、いろいろなことに取り組まなくなり、頭を使わなくなることで脳機能低下が進むこともあります。

また、これは高齢者に限ったことではないかもしれません。若齢でも、意欲の低下から活動度が落ちて、日常的に脳を使わない暮らしが続けば、脳機能低下が加速化し、認知症を発症するリスクが高まる可能性があります。うつ病は、認知症予防の点から、早期発見・早期治療が大切です。


■うつ病と認知症の見分け方・チェックポイント
うつ病は、感情障害が主で、認知症に含まれる「記憶障害」「見当識障害」「判断実行機能障害」「失語・失行・失認」などはありません。

認知症の検査によく使われる「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」や「ミニメンタルステート検査(MMSE)」では、医師からの質問にどのように答えるかで、見当識や記憶力、計算力、言語力などが試されますが、うつ病の方は、時間制限を設けると得点が低くなる傾向にありますが、十分に時間をかければ高得点を示します。

反応が遅いだけで、本質的な認知・記憶障害はないのです。うつ病の方が物忘れをしたとしても、それは注意力や集中力の低下によって起きているだけで、認知・記憶障害によるものではないのです。

また、うつ病と認知症では、質問に対する受け答えに、特徴的な違いが見られます。

「どうしましたか」とたずねたときに、うつ病の場合は、「すぐに忘れてしまうんです……」といったように物忘れが激しいことなどを積極的に訴えかけ、間違いや失敗を指摘されると深刻に受け止めます。何を聞かれても「わかりません……」と答え、考えようとしない方もいます。

それに対して、認知症が進行してくると、「私は大丈夫です!」と明るくかつ素早く答え、間違いや失敗を指摘されても動揺せず、ケロッとしていることが多いです。自分に認知・記憶障害があるという自覚がなくなってくるからです。

うつ病と認知症を見分けるには、単に物忘れや失敗が増えたということにとらわれず、それが感情障害によって起きているのか、明らかな記憶障害によって起きているのかに注意しましょう。

もしあなたの周りに、うつ病か認知症の疑いがある方がいらっしゃったときには、あなたの正しい判断がその方を適切な治療の方向へと導く助けになるかもしれません。うつ病と認知症のそれぞれの特徴とお互いの関係をしっかり理解しておきましょう。

▼阿部 和穂プロフィール薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

関連記事(外部サイト)