共働き、互いの仕事をリスペクトしていたはずが。妻の失業を「慰めながらマウントをとる」夫

共働き、互いの仕事をリスペクトしていたはずが。妻の失業を「慰めながらマウントをとる」夫

共働きで、互いの仕事をリスペクトしながら頑張ってきたつもりだった。それが、夫の不用意なひと言で「私を慰めながらマウントをとりたかっただけ」だと気づいた妻は……

夫婦間の力関係を意識すると、お互いを思いやることができなくなる。夫婦は一蓮托生と考えるのか、個人同士と考えるのか。現在は後者が多いのかもしれないが、夫婦間には常に次の言葉がつきまとう。「そういう相手を選んだのはあなたです」と。

もちろん、生身の人間だから時間とともに言動が変わる可能性は高いから、その都度、関係を更新していかなければならない。話し合える関係を続けていけるかどうか。そこが夫婦問題の基本なのかもしれない。


■お互いの仕事への姿勢をリスペクトしていたはずだった
マホさん(43歳)は29歳で結婚、仕事を続けながら11歳になる娘を育ててきた。夫も彼女も中規模の企業に勤めており、ふたりで協力しなければ生活してこられなかったのが現実だ。

「でも私が社内のコンペで仕事を勝ち取り、それが実際に商品化されて売れたこともあったんです。そのとき夫は自分のことのように喜んでくれました。仕事が楽しいなと思えた時期でしたね」

彼女は業界で「ちょっとだけ」有名になったが、慢心することもなく、スキルアップを忘れなかった。その結果、社内での別企業という形で起業することもできた。

ところがコロナ禍で会社本体が危うくなった。起業したマホさんの会社も結果を出せないまま終了することに。

「本社に戻れると思ったら、なんと会社は倒産。倒産というか創業者が、傷を大きくしないために事業を閉じたということみたいです。退職金は雀の涙、1年間は失業保険をもらいました」

2年前のことだった。いきなりの失職に彼女は傷つき、呆然と過ごす日々が続いた。そんなとき夫は言ったのだ。

「今までがラッキーすぎたんだよ」と。

「私がコンペで勝ったことも商品が売れたことも、ただのラッキーだったの?とむしろ落ち込みました。夫は励まそうとして言ったのかもしれないけど、実は私の力を評価していたわけではなかったことがわかった気がしました。夫は『そういうつもりで言ったわけじゃない』と釈明したけど、もう遅い。少し言い合いになったあと、『被害者意識が強すぎるんだよ』と言われました。傷口に塩を塗られた感じでしたね」

夫は私の仕事への姿勢に敬意を示してくれたわけではなかったのかと思った彼女だが、それは夫が言うように被害者意識なのだろうか。


■貶めたいだけなのか
その後、彼女の夫への不信感は強まっていった。

「仕事をしながら勉強もしてきたので、とりあえずはフリーランスでコンサル的な仕事をしようと思い始めたんです。夫に今後、どうするのと聞かれたから、その話をしたら『そんな簡単にコンサルなんかになれるはずないじゃん。きみに騙される人間がいるとは思えないよ』って。騙されるってどういうこと、とまたケンカになって」

確かにコンサルタント業は多難だろう。だが彼女が考えていたのは、企画立案をする個人に向けた、ささやかな「仕事をする女性のための手助け」だ。それなら自分にもできるのではないかと考えた。実際、失業したあと、同業他社からうちで企画関係のアドバイスをしてくれないかと引きもあった。だがその会社への信頼がもてずに断らざるを得なかった。

紆余曲折を経て、彼女は知人の紹介で、ある企業に入社した。副業も可能なことから、抱いていたコンサル業もほそぼそと個人で始めようかと考えている。もちろん、夫にその話はしていない。

「こういうことがあると、ああ、これは夫には話さないほうがいいなと思うようになりました。前なら仕事の話もオープンにしていたんですが、もうしたくないですね。私が勤め始めたことで、夫はホッとしたようです。『やっぱり地に足をつけて働くのがいちばんいいと思うよ』とドヤ顔で言われました。結婚生活も長くなって、夫はいつしか私を下に見るようになっていた。それがわかったのがショックです」

なぜそうなったのかはわからない。夫の本心なのか妻の被害者意識なのかもわからない。ただ、夫婦関係はこうやって一度傷がつくと、そこから徐々に溝が広がっていく恐れがある。お互いに本音をさらして語り合うか、このままだましだまし年月を重ねるか。マホさんは今、まさに岐路に立たされているのかもしれない。

▼亀山 早苗プロフィールフリーライター。明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
(文:亀山 早苗(恋愛ガイド))

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