年金の受給開始、一番お得なのはいつ?

年金の受給開始、一番お得なのはいつ?

年金の受け方には、本来の受給開始年齢より前倒しで年金を受ける「繰上げ受給」と、65歳から後ろ倒しをして年金を受ける「繰下げ受給」があります。どちらの方がいいのでしょうか。通常のもらい方である65歳受給も含めて、検証してみましょう


■年金の受給開始はある程度選べる
現在、年金の支給開始は原則として65歳からとされ、性別や生年月日等により65歳前に厚生年金が特別支給という形でもらえる人がいます。ただし、本来の年金スタートの年齢にならなくても、前倒しで年金を受けることができます。これを「繰上げ受給」と言います。反対に「繰下げ受給」と言って65歳以降に後ろ倒しで年金を受けることもできます。家計の状況や個人の考え方に即して、柔軟に受給開始時期を選べるようになっています。


■繰上げ受給にデメリットは多い
繰上げ受給は、60歳になっていればいつからでも受給を開始できます。ただし、本来の受給開始年齢から何カ月前倒しをした月数×0.5%の率で減額され、減額は一生続きます。したがって長生きをすると損をする、ということになります。

どのくらいの長生きで損をするかというと、人によって違うのですが、多くの人は繰り上げてもらい始めてから16〜7年後と言われています。60歳からもらい始めると76〜77歳くらいになると損をする計算ですね。その後は長生きすればするほど損は大きくなります。77歳前後というと、男女ともまだ平均寿命にも届いていない時期ですから、実際には損をする人の方が多い、ということになります。

減額の他にも、
・65歳まで遺族年金と併給不可(繰上げ直後に夫が死亡した妻など、65歳以降の年金が減る可能性大)
・長期加入者特例、障害者特例は受けられなくなる
・在職中は厚生年金に在職調整がかかる
・60歳以降に障害者になった場合の障害年金がほぼもらえなくなる
など、デメリットも多くあります。

そんなデメリットが多い繰上げ受給ですが、なんと言っても手続きをするだけである程度まとまった収入を得ることができますので、他に収入が何もなくなってしまった場合には非常に頼りになる仕組みであると言えます。繰上げを選ぶ人の中には「早死にしたらもったいない」という考え方もある様です。「元気なうちに年金をもらって、楽しみたい」とおっしゃる方もいます。


■繰下げ受給のメリット・デメリットは?
繰下げ受給は65歳以降に受給開始を後ろ倒しします。この場合、65歳前の年金(特別支給の老齢厚生年金)がある人は、その受給はした上で65歳時に繰下げをするかしないか判断することになります。最低1年間据え置きするので、一般的には66歳スタートが繰下げの最短での受給開始です。最高5年まで据え置きできるので、一般的には70歳までですね。

据え置いた期間の長さに応じて、1カ月あたり0.7%の率で増額計算され、増額は一生続きます。1年繰下げなら8.4%、5年なら42%の増額ですね。空前の超低金利時代ですから、この増額率は魅力です。ただし、据え置きすればもらえない期間ができますから、その分を増額された分で取り返さなくてはなりません。取り返すために必要な期間は一般的には12年前後と言われています。66歳から繰下げ受給すれば78歳で取り返し、その後は得をする一方ということになります。

注意しなくてはならないのは、繰下げしても増えないものがある、ということです。具体的には、
・加給年金
・振替加算
・在職し減額調整された部分
は増額計算の対象になりません。

加給年金、振替加算はベースとなる年金を繰下げすると、一緒に止まってしまいますが、増額計算がないので実質捨てるのと同じになります。特に加給年金は額が大きいので、得をするようになるまでの期間も数年伸びます。繰下げは厚生年金と基礎年金で別々にできますので、こういった加算がつかない方だけを繰下げるというのも有効かもしれません。

また、主に女性の場合ですが、将来遺族年金を受ける様になると、自分の厚生年金は仮に増額があっても遺族年金からマイナスされてしまうので、結果プラマイゼロで元が取れないことも考えられます。


■繰り下げの上限年齢が変わる?政府が検討開始
年金の受け取り開始を70歳より後ろにずらせるようにする制度の変更を検討することが、2018年2月16日に閣議決定された「高齢社会対策大綱」に盛り込まれました。この報道を受けて勘違いしないようにしたいのは、年金が70歳以降にならないと受け取れない、という意味ではなく、これまでお話ししてきた、70歳までという繰り下げの上限をさらに後ろに伸ばせるよう検討する、という意味だ、ということです。

具体的にどこまで伸ばせるか、そのときの増額率はどうなるのかはこれから検討することになりますが、選択肢が増えるということはいいことだといえます。長寿社会を迎えるにあたって、ぜひよりよい制度にしていただけるよう、期待したいと思います。


■繰上げ、繰下げ、通常受給のどれが一番いいの?
どれが一番かは、難しい問題です。個々人の家計の状況や考え方による、と言えるでしょう。ただ、「年金で悠々自適は過去のこと」と言われ、潤沢とは言えない年金を目減りさせてしまう繰上げ受給は、避けられるなら避けた方がベターといえるのではないかと思います。

繰下げ受給をすれば年をとったときにもらえる年金額が確実に増えますが、寿命の問題もからんできますし、実際問題として「65歳以降年金がなくても生活に問題がない」人でないと、繰下げはしたくてもすることができません。経済的な事情や年金に対する考え方、さらに言えば人生観そのものによって、一人一人に合った受給の時期を探っていくことになると思います。年金の受給開始は一生の問題です。あくまでも慎重に検討されることをお勧めします。

ちなみに、統計によると全年金受給者のうち、繰上げ受給を選択した人はおおむね2割となっています。一方、繰下げ受給を選択した人は1.5%程度となっています。このデータからすると、ほとんどの方は65歳の通常受給を選択しているといえそうですが、繰上げを選ぶ方も一定数いる、といったところでしょうか。年金相談をお受けしていると、繰下げを選択する人、あるいは将来考えている人はあまりお会いしません。繰上げについても印象としてはデータより少ないように感じます。

どちらかというと女性の方が繰上げを選択する人が多い印象です。若いころ数年厚生年金を掛けたものが60歳で受給開始となりますが、金額が思ったより少ないので繰上げを選ぶという考え方があるのかもしれません。繰上げをお受けするときには、きちんとデメリットを説明して慎重にお受けするようにしています。中には繰上げするつもりでおみえになったのに、説明を聞くうちに気が変わる方もいらっしゃいますね。


■繰上げをしないためにはどうすればいいの?
そのためには65歳までの収入を確保する必要があります。具体的には以下のような方策が考えられます。

▼働くまとまった収入を得るのには、働くのが一番です。今は65歳現役時代を迎えつつあり、企業や働き方によってはその後も勤務を続けられることも多くなっています。真っ先に検討してみましょう。厚生年金に加入できれば、さらに老後の年金を増やすチャンスでもあります。ただし、年金をもらいながら働く場合は、在職調整で年金が減額される可能性があることに注意が必要です。

▼個人年金保険を活用する民間の保険会社等が販売している個人年金保険を活用してみるのも一助となるでしょう。例えば5年確定で60歳から受け取り、公的年金までの受給のつなぎに使ったり、10年確定で60歳から受け取り、65歳から一部でも公的年金を繰り下げるなどの活用が考えられます。

▼国民年金基金や確定拠出年金を活用する2017年1月から加入の門戸が広がった確定拠出年金(iDeCo)や、自営業の方ならば国民年金基金に加入するのも一つの方法です。iDeCoは一定の加入期間があれば、60歳になれば受け取りが可能で、受け取りを遅らせることもできます。一時金での受け取りと年金での受け取りが選択できます。国民年金基金は年金のみの受け取りで原則65歳からですが、60歳から受け取れるプランもあります。どちらも節税効果のある年金ですので、検討してみる価値はありそうです。

▼貯蓄を取り崩す潤沢な貯蓄があれば、わざわざほかに年金を用意しなくても済みます。一般に老後に必要な生活費は月25万円前後と言われていますが、60歳から65歳と考えると1,200万円必要ということになります。これを用意するためには若いうちからコツコツと積み立てを続けていくことが必要となります。

これらの対策を活用して、少しでも不安のない老後を送れるよう備えておきたいところですね。
(文:綱川 揚佐(マネーガイド))

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