定年後に住宅ローンの負担を残さないためには?

定年後に住宅ローンの負担を残さないためには?

誰しも「老後貧乏」「下流老人」「老後破綻」になりはしないかと不安を抱き、いま現在を楽しむことができなくなっています。「退職金で住宅ローンを完済する」予定の人は「老後貧乏」の入り口に立っているとの見方も。その理由と対策を考えました


■住宅ローンは下流老人への入り口?
近年、「老後貧乏」「下流老人」「老後破綻」などの言葉が跋扈(ばっこ)し、老後の不安を恐怖へと変貌させています。

十分な老後資金を準備していても、病気やケガ、介護、子どもや孫への支援など想定外の出来事をきっかけに経済的に行き詰まる可能性はあります。ところが、想定内のことにも老後貧乏に陥る危険性が潜んでいます。

その1つが「定年退職時に住宅ローンの残債がある」こと。住宅ローンを組むとき「退職金で残りを一括返済する予定の人が多いですよ」という甘いささやきに乗り、ローン完済年齢を65〜70歳に設定した人たちは、「老後貧乏」予備軍といえます。その理由を、退職金と年金の両面から考えてみましょう。


■退職一時金は1000万円から2400万円と大差あり
厚生労働省「平成25年 就労条件総合調査結果の概況」によると、定年退職者(※1)に対して給付される退職金の額は次のとおりです。

・大学卒 1567万円
・高校卒 1470万円

企業規模1000人以上では、もう少し退職金額は高くなります。
・大学卒 1764万円
・高校卒 1645万円

(※1)退職一時金制度のみを採用している企業で、勤続35年以上の人

「退職金が1500万円前後!うそでしょう」と言いたいところですが、これで驚いてはいけません。定年退職金の額が1000万円程度という調査結果があります。それは東京都内の常用雇用者300人未満の企業を対象とした「平成28年中小企業の賃金・退職金事情の調査」です。

●退職一時金のみの企業
・大学卒 1042万円(1277万円)
・高校卒 1016万円(1149万円)

●退職一時金と企業年金を併用している企業
・大学卒 1218万円(1553万円)
・高校卒 1397万円(1338万円)

*( )内は平成26年の金額

一方で「定年退職金2000万円」も存在します。

●中央労働委員会「平成27年賃金事情等総合調査」
・高校卒 2015万円(2013万円)
・大学卒 2304万円(2380万円)
*( )内は平成25年の金額。

●日本経済団体連合会と東京経営者協会会員企業「2016年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」
・大学卒 2374万円(2358万円)
・高校卒 2048万円(2155万円)

*総合職。退職金一時金のみ、退職一時金と年金併用、退職年金のみの単純平均。( )内は2014年の金額。

このように退職金の額は企業規模や学歴、退職金制度、職種などで差があります。金額も減少傾向にあります。


■将来の退職金額は予測が難しく、頼りにしづらい
退職金の算出方式は「退職時の基本給と勤続年数をベース」が一般的でした。最近は能力成果主義を反映するポイント制(例えば、職能ポイント、役職ポイント、人事考課ポイントなど)を採用する企業が増加しており、退職金の算出式は複雑になっています。

退職金の額の予測が難しい制度と言えば、確定拠出年金制度(企業型)(以下「企業型DC」とする)が挙げられます。企業型DCは、企業が拠出した掛け金の運用方法を本人が指示し、退職時に退職一時金や企業年金として受け取る制度です。運用力や退職時の経済状況(例:リーマンショック)などによって退職金の額は変動し、予測していた額の数倍になったり半分以下になったりします。

2003年3月末の導入企業は1522社に過ぎませんでしたが、2018年1月末には19倍の2万9132社になりました。退職金制度の一翼を担う制度になっています。

●企業版401K実施事業主数の推移
・2003年3月末 1522社
・2010年3月末 1万2902社
・2018年1月末 2万9132社


■年金だけでは生活費すらまかなえない
厚生労働省「2017年 家計調査」によると、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の家計収支は年間65万円の赤字。公的年金では支出の73%しか賄えず、金融資産を取り崩しています。

さらにこの赤字は、次の要因でますます拡大するでしょう。

・マクロ経済スライド(後述)の完全実施、「年金額の改定ルールの見直し」(「年金改革法」平成28年12月成立)による年金給付額の減少
・介護・国民健康保険など社会保険料の負担増
・医療費や介護サービス利用費の負担割合や負担上限額の引き上げ
・消費税の引き上げ、など

マクロ経済スライドとは、厚生労働省の「いっしょに検証!公的年金」によると「そのときの社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組み」のこと。平成26年度の財政検証による所得代替率(※2)は、平成26年度62.7%が平成62年度には50.0%前後に。つまり給付額が減るということです。

老後資金の柱の1つである退職金を住宅ローン完済に使うのであれば、現役時代に老後資金の準備を周到にしなければ厳しい老後が待っています。

(※2)所得代替率:受け取る年金額が現役世代の受け取り収入額のどのくらいの割合であるのか示すもの


■定年までに住宅ローンを完済しよう
60歳で定年退職し、その後65歳まで働き続けることが一般的になりましたが、定年後の給与水準は60歳時点の50〜70%程度です。

年金(満額)給付年齢の65歳に達するまでの生活費を賄うことはできますが、住宅ローン返済や老後資金の準備に回すお金までは期待できません。退職金を老後資金にあてるのであれば、住宅ローンは60歳までに完済したいものです。

定年までに住宅ローンを完済する方法は、次の3つが考えられます。

▼住宅ローンを組んでいる銀行で、金利引き下げや毎月返済額の増額を交渉日銀がマイナス金利政策を導入してからというもの、銀行間の住宅ローン金利引き下げ競争が白熱しています。借り換えの適用金利が1%以下という銀行も多くあり、チャンスです。返済期間が残りわずかでも、借り換えを考えてみましょう。

まずは他行で諸経費を含む借り換えの試算をしてもらい、それをベースに現在ローンを組んでいる銀行に「金利引き下げや毎月返済額の増額(=期間短縮)」を交渉します。交渉は丁寧に、交渉というよりお願いするというスタンスで行いましょう。希望に近い条件が提示されればそれでよし。借り換えに必要な諸費用が浮きます。

▼借り換えを実行する銀行との交渉に満足できなかった場合は、借り換えを実行します。その際の注意点は、ローン完済年齢を60歳、無理であれば完全リタイアの年齢近くに設定することです。

▼繰り上げ返済をする「借り換えはちょっと」という人は繰り上げ返済をしましょう。繰り上げ返済の条件をチェックして、「期間短縮型」を選択します。くれぐれも「返済額軽減型」を選択しないように。


■負債という不安をクリアして安心の老後を
50歳代は住宅ローン返済より老後資金の準備に重点を置きがちですが、住宅ローンを定年までに完済することは老後資金を準備するのと同じこと。むしろ、現在の預貯金金利を考えると、老後資金づくりを上回る効果があるといえます。

負債がなければ、年金を基本にすえて老後の生活設計を工夫することができます。定年と同時に、背負っている重荷をおろして身軽になり、老後生活に入ろうではありませんか。
(文:大沼 恵美子(マネーガイド))

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