入社直後の在宅勤務は過酷すぎた…誰にも言えない「サイレントうつ」

入社直後の在宅勤務は過酷すぎた…誰にも言えない「サイレントうつ」

コロナ禍ではリモートワークが進んで、人と人が直に接して話す機会が大きく減った。そんな中、サイレントうつと呼ばれる症状が増えているという。


■誰にも言えずに密かに進むサイレントうつ
コロナ禍ではリモートワークが進んで、人と人が直に接して話す機会が大きく減った。もともと人と接するのが苦手な人からは、「かえって仕事が進む」という声がある一方、机を並べて仕事をし、ときには会議で丁々発止、めんどうだなと思いながらも飲み会に参加していた時代が懐かしいと言う人も少なくない。

そんな中、サイレントうつと呼ばれる症状が増えているという。これは、人と実際に顔をつきあわせていない状況で、誰も気づかず、本人も助けを求められず、うつ状態になっていくことだ。

本来なら、職場で上司や同僚から、「最近、顔色がさえないね。何か悩みごとでもあるの?」と声をかけられ、「実は……」と相談していればすむ話。誰も気づかない、誰にも言えないことから、些細なことでも積もり積もって苦悩は深くなっていくのだろう。


■コロナ禍で慣れない生活
「ワンルームの部屋で在宅勤務って過酷すぎました」

そう言うのは、フユコさん(34歳)だ。彼女は昨年1月末に転職したばかり。2か月もたたないうちに在宅勤務となった。

「パソコンもWi-Fiも会社で貸し出してくれましたが、まだ本当に仕事の内容もきちんとわかっていない状態。週に1回は出社だったのが、4月の緊急事態宣言からはほぼ全日、在宅になりました」

一昨年秋に、フユコさんは社内不倫がバレて会社を辞めた。相手は他部署の8歳年上の男性だったが、彼は「妻とは離婚協議中で別居している」と言っていたのだ。それを信じたフユコさんは、彼との関係に踏み込んだ。ところが1年ほどたったころ、妻が会社に乗り込んできたのである。

「修羅場でしたね。奥さんが私の名前を叫びながら会社中を走り回って。たまたま彼が外出中だったので、彼の上司が奥さんをなだめようとしたんですが止められなかった。しかたないので、私が奥さんの前に出て行きました。いきなりバッグを振り回してきたので、そのバッグを受け止めたら奥さんが転んじゃって。でも転びながら私の足にしがみついてきて、私も転んで足首を捻挫しました」

思い出したくもないとフユコさんは顔をしかめた。

結局、それが原因で彼は遠方に転勤となった。彼女はひきとめてはもらったが、周りの無言の圧力に耐えられず退職。仲良くしていた同僚からの連絡も途絶えた。

転職と同時に引っ越しもしたので、近くに住む友だちがいなくなった。もともと地方から出てきているため、家族や親戚も東京にはいない。

「昨年のお正月は、失恋ショックが大きくて実家に帰る気にもなれませんでした。会社を辞めたことも言いづらかったし。ま、実家はもう兄一家が仕切っているから、私が帰っても義姉に負担がかかるだけ。仕事もなく彼も失って、静かにひとりで過ごしました」


■どんどん気分が落ち込んでいく
昨春から家で仕事をしながら、彼女は気分がどんどんすぐれなくなっていった。リモート会議をしても、いったい議題がなんなのかもよくわからない。仕事を体系立てて理解する前に在宅になってしまったため、仕事の全体像が見えないのだ。

「顔見知りの先輩はいましたが、そもそも、私は2、3月は研修ということで入社したんです。ところがまったく研修ができないまま春になって正社員になった。指示待ちのアルバイトみたいなものです。自分が無能に思えてたまらなかった」

梅雨になるころには、出社日にも家から出られず、リモート会議でもぼんやりしているだけになった。病院に行こうかとは考えたが、コロナ禍で控えたほうがいいとも思い、行動できない。電話が鳴るのが怖かった。

「入社以来、親切にしてくれた同い年の同僚女性が、ある日突然、訪ねてきたんです。無視したかったけど、彼女がドアの向こうで『心配なの。誰も怒ってないから大丈夫だから』と必死に言うのでドアを開けました。取り繕うこともできず、私はほぼパジャマ姿でしたけど。彼女はよけいなことは言わず、ただ話を聞いてくれました」

そして彼女に付き添われて病院へ行った。うつ状態だと診断されたが、久しぶりに外に出て、彼女とランチをとっただけで、フユコさんの気持ちは少し上向きになった。

「私は人と会うのが大好きで、ものすごいおしゃべりなんです、本来は。だから自分がメンタルが落ちていくなんて考えたこともなかった。だけど不倫の一件があり、この年で転職して負い目もあり、さらにコロナで完全にメンタルがやられてしまった。それを自分で認めるのが嫌で、自分が無能だからだと落ち込んでしまったんですね」

その後、彼女は週3回の出社になり、夏過ぎにはすっかり回復したという。仕事においても、彼女は自ら「できる限り出社したい」と希望を出した。

「今は基本的には週4日、出社しています。仕事が忙しければ通常通り週5日ということも。それでようやく落ち着いてきました」

うつ病というところまではいかなかったが、あのままだったら今はどうなっていたかと彼女は身震いするような恐怖に襲われるという。

リモートに向く人と向かない人がいる。周りが気をつけなければいけないし、本人も不調を感じたら素直に助けを求めたほうがいいのだろう。人との接触が減っている今、誰にでも起こり得る事態なのだ。
(文:亀山 早苗(恋愛ガイド))

関連記事(外部サイト)