退職金に頼らない「老後貯金」の方法

退職金に頼らない「老後貯金」の方法

2019年の「年金財政検証」には、20年後の年金受給の代替率が2019年の88%程度に低下する、との予測があります。老後貯金の自助努力は必須です。優遇税制がセットされたマッチング拠出やiDeCoなどの貯蓄制度は利用しないと損!


■老後資金として必要なのは総額1億円!?
2013年4月1日施行の(改正)「高年齢者雇用安定法」(厚生労働省)と少子高齢化の影響なのでしょうか、60歳以降も働き続ける人が増えています。

2021年3月5日に公表された「2020年家計調査(家計収支編)詳細結果表」(総務省)によると、二人以上の世帯で世帯主が60歳以上の世帯の約23%、世帯主が65歳以上の世帯の約14%が勤労者世帯です。

では、この家計調査を基に「65歳でリタイア、妻は同い年、共に90歳まで生きるAさん夫婦」の老後資金を考えてみましょう。

※90歳では男性27%、女性51%が生存します(令和元年簡易生命表より)。

Aさん夫婦の老後期間は25年。老後資金として準備する必要があるのは、日常生活をまかなう生活資金と、家のメンテナンス費用や医療・介護費などを賄う予備資金です。

▼生活資金の目安額夫が65歳以上、妻が60歳以上の夫婦のみの無職世帯の月間支出総額は26万2251円。これは食費や交際費、水道光熱費などの消費支出に所得税や個人住民税、固定資産税、社会保険料などの非消費支出を加えたものです。Aさん夫婦の生活資金は約7868万円(26万2251円×12カ月×25年)になります。

▼予備資金の目安額予備資金は個人差が大きく、一般に1500万〜2000万円と想定する人が多いようです。

▼老後資金の目安額老後資金の総額は、「生活資金+予備資金=7868万円+2000万円=9868万円」程度になります。


■老後資金の3本柱は公的年金、退職金、金融資産
老後の支出は、公的年金等、退職金、金融資産でまかないます。一般にこれら3つを老後資金の柱といいます。では、公的年金と退職金について詳しく見ていきましょう。


■公的年金だけでは赤字の可能性大
年金生活者の多くは、老齢厚生年金や老齢基礎年金などの公的年金で生活費の6割程度から全額をまかなっています。令和元年度の老齢基礎年金と老齢厚生年金(65歳、老齢基礎年金を含む)の平均年金月額は次の通りです(厚生労働省「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」より)。

・老齢基礎年金月額:5万2302円
・老齢厚生年金月額:男性17万1305円/女性10万8813円

これをもとに、前出のAさん夫婦の月間収支(=平均年金月額−月間支出総額)を、「共働き世帯」と「妻が専業主婦世帯」の2タイプで計算してみましょう。

▼共働き世体(老齢厚生年金を受給)夫の年金月額17万1305円+妻の年金月額10万8813円−支出26万2251円
=1万7867円

▼妻が専業主婦世帯(夫は老齢厚生年金、妻は老齢基礎年金を受給)夫の年金月額17万1305円+妻の年金月額5万2302円−支出26万2251円
=▲3万8644円 

共働き世帯は、生活費を年金だけで全額賄い、さらに約1.8万円の余裕があります。25年間で536万円(=1万7867円×12カ月×25年間)の黒字です。

一方、妻が専業主婦世帯は、毎月3万8644円が不足。老後25年間の生活資金として約1159万円(=3万8644円×12カ月×25年間)を準備する必要があります。

これは、現在の年金給付状況が続くと想定したものです。しかし2016年12月に成立した「年金制度改革関連法」により、2019年4月にはマクロ経済スライドが実施されました。

また、2021年4月の年金額改定では賃金・物価スライドが適用されて年金額が前年より0.1%引き下げられる一方で、マクロ経済スライドは2022年以降に繰り越されました。2016年の年金改正による年金額の低下が始まっています。

また、2019年、5年ごとに行われる「年金財政検証」(厚生労働省)によると、2019年度の年金受給の代替率61.7%(現役世代の平均収入35.7万円に対し夫婦の年金収入22.0万円)が、2040年度は54.3%、2046年度には51.9%にまで低下する、と予想されています。

共働きであれば老後は黒字のAさん夫婦も、21年後は公的年金だけで生活費を賄うことはかなり難しくなりそうです。


■退職金は企業規模で格差が
退職金といえば「定年退職するときには2000万円程度の退職一時金を受け取る」というイメージです。

ところが、現在は退職一時金制度と退職年金制度を併用する企業が増加し、退職金は、退職年金原資の一部を退職一時金で受け取り、残りを企業年金として受け取るパターンに変わってきました。

退職金の額は企業規模や退職金制度によってかなり差があります。

例えば、大企業と中小企業では1000万円程度の差がありました。

▼大企業のモデル退職金・高校卒:2038万円
・大学卒:2259万円

*日本経済団体連合会「2018年9月度退職金・年金に関する実態調査結果」より

▼中小企業のモデル退職金・高校卒:1031万円
・大学卒:1119万円

*東京都「令和2年中小企業の賃金・退職金事情」より

▼退職金制度によっての違いは?また、退職金制度(退職一時金のみ/退職一時金と退職年金を併用)による差についても、「退職一時金と退職年金併用」のほうが、「退職一時金だけ」の場合より300万円程度多くなりました。

●退職一時金のみのケースの退職金
・高校卒:933万円(1306万円)
・大学卒:987万円(1364万円)

*東京都「令和2年中小企業の賃金・退職金事情」より
*( )は退職一時金と退職年金を併用のケース

自社の退職金の制度と相場を早めに確認することをおすすめします。


■財形年金貯蓄と個人型確定拠出年金でバッチリ!
老後貯蓄の代表は、税制上の優遇措置がある「財形年金」です。そこに強力な助っ人が出現しました。

それは「個人が自助努力で老後資金を作ることを支援する制度」として2017年1月に国が導入した個人型確定拠出年金(以下「 iDeCo」とする)です。2021年1月時点の加入者は185万781人(iDeCo公式サイト「業務状況」)です。

iDeCoは、会社員や公務員、自営業者、学生、専業主婦など現役世代の原則20歳以上60歳未満のほぼすべての人が加入できる制度です。10年以上加入すると60歳以降70歳(2022年4月以降は75歳)までの間に一時金あるいは年金として受け取ることができます。

確定拠出年金は投資信託で運用するものと考えがちですが、運用商品には元本確保型(定期預金や年金保険など)があります。これらは、税制優遇措置が加わりピカイチの「老後貯金」、おそらく財形年金貯蓄を超える、ツールになります。

ただし、掛金の額や口座を設ける金融機関によっては、優遇措置があってもさまざまな手数料負担から元本を割り込む可能性がありますので、加入する前に金融機関の取扱金融商品・手数料・サポートサービスの内容を比較し、検討することがとても重要です。

では、iDeCoのメリット・デメリット・注意点をご紹介します。

▼メリット・拠出した掛金は全額小規模共済等掛金控除として所得控除を受けることができる
……所得税と住民税合わせて30%の人が2万円/月を拠出すると、所得税+住民税が7万2000円軽減する(復興特別所得税は考慮せず)
・運用中の利益は非課税
・一時金での受け取りは「退職所得控除」、年金受け取りでは「公的年金等控除」が受けられる

▼デメリット・引き出しは原則60歳以降。急にお金が必要になっても中途引き出しは原則不可
・運用結果は自己責任。運用次第で掛金割れ(=元本割れ)の可能性あり

▼注意点加入から受け取りに至るまで次のような手数料がかかる

・加入手数料:2829円
・移換手数料:他社へ資産を移す時に係る費用。金融機関によって異なる。4400円程度が多い
・掛金拠出時の手数料3つ:収納手数料(事務手数料(国民年金基金連合会に年間1260円)/資産管理手数料(信託銀行に年間792円)/運営管理機関手数料(金融機関により異なる)
・給付時(年金の受け取り時)にかかる費用:(送金1回あたり440円(税込み))
・還付時(掛金の払い戻し時)にかかる事務手数料(還付金から控除):国民年金基金連合会に1048円/事務委託先金融機関に440円/運営管理機関手数料(金融機関により異なる)

専業主婦は、課税所得がないので所得控除は活用できず、運用の手数料負担が重くのしかかります。加入するメリットがあるか、じっくり考えましょう。


■マッチング拠出制度で効率よく老後貯金
2012年1月に導入されたマッチング拠出制度とは、企業型確定拠出年金制度を導入している企業で会社が拠出する掛金に従業員が掛金を追加して拠出する制度です。ということはiDeCoでは必要な手数料が不要。定期預金や年金保険など元本確保型商品で運用すればiDeCoより効率よく老後貯金できます。

因みに「2019年度決算 確定拠出年金実態調査結果」(「企業年金連合会」2021年2月公表)によると、マッチング拠出の導入率は54.3%(前回は53.8%)ですが、利用率は30.2%(前回は30.6%)、加入者掛金(月額)の平均は、拠出限度額5.5万円企業は8526円、拠出限度額2.75万円の企業は5610円です。


■改正高年齢雇用安定法で70歳まで働く機会の確保
2020年の65歳以上の就労者は906万人*(男性538万人、女性367万人)で、前年より14万人増加しました(総務省「労働力調査(基本集計)令和元年度(平均)結果の要約」より)。

2020年3月には、70歳まで働く機会の確保を企業に努力義務とする「改正 高年齢者雇用安定法」など関連法案が成立し、2021年4月から適用されます。

いよいよ老後資金の不安を解消する(?)一生現役時代の幕が開きそうです。

*総務省「労働力調査(基本集計)令和2年度(平均)結果の要約」の数値をそのまま記載。男女別数と合計数に1万人の差がある。

文:大沼 恵美子(マネーガイド)
(文:大沼 恵美子(マネーガイド))

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