生命保険と健康ブームの共通項は...

生命保険と健康ブームの共通項は...

運動・食事・精神・環境

今週はと言うべきか、今週もと言うべきか、かんぽ生命保険の不適切販売問題がメディアを賑わせた。金融庁は、かんぽ生命と親会社の日本郵政の両方に対して業務改善命令を近日中に出す方向で検討中だという。

金融庁が業務改善命令を出すとこれら2社はどのような改善策を講じることになるのか、門外漢の僕には見当がつかない。業務改善命令には相当な重みがあるはずだが、相手はいまだに元・国営企業としての存在感や体質が大いに残る巨大な民間「もどき」企業。今回は総務省の事務次官が日本郵政に処分情報を漏洩して更迭されるというおまけも付いた。このようなガバナンスやコンプライアンスの欠如した二人三脚で事業や体質を守ってきたのだろう。

医療に例えるなら、もはや外科的治療、つまり手術による治療しか選択肢が無い患者のような印象も受ける。仮にそうだとしたら、今回の措置や対応が投薬などの内科的治療、あるいは運動や食事など生活習慣の改善や体質改善を促す程度のものに終わらないことを願う。

生命保険と健康不安の微妙な関係

かんぽ生命に限った話ではないが、生命保険や医療保険は、将来的に不確実な健康状態と経済状況に対する不安という、論理的に測ることが難しい個人の心理に訴求する「安心感」の商品だ。

世の中には個々人の嗜好や必要性に応じて当人にとっての価値が変わる商品がいろいろ存在するが、保険の場合、対価と引き換えにまず得るのは保険金ではなく「もしもの時」には保険金が入るという安心感。保険金を商品「本体」とするなら、安心感はその付属品、あるいは引換券だ。本体をいつ「手にする」ことになるのかは予測できない。そして、それを手にするのは購入時に想定した不幸が実際に巡ってきたとき。それも、多くの場合はその価値を上回る不幸。

不幸の部分は別として、日本で根強い健康ブームや健康情報の氾濫にはこれに通じるものがある。

集団の平均値と個人の数値の微妙な関係

いつも言うことだが、年齢にかかわらず、健康維持やアンチエイジングの基本は、@健康的な食事、A適度な運動、B十分な睡眠を伴う安定した精神状態、そして、Cこれらを実行・実現しやすくなるような環境選びや環境づくりだ。

ただ、何がどの程度だと「健康的」で「適度」なのかは、「集団」としての一般的・平均的な話と「自分の場合は...」という個人の話をある程度分けて考える柔軟性も必要だ。その柔軟性がないと、集団の平均値や標準が気になりすぎて、かえって「安定した精神状態」を損ねてしまうかもしれない。

体温や血圧、血糖値、心拍数・脈拍数などの平常時の数値は人によって違う。個人差だけでなく、その時の体調や精神状態、食事や運動・動作によっても左右される。自分の数値に関して集団としての基準範囲との兼ね合いが気になる場合、同条件下で一定期間の計測を続けて右肩上がりや右肩下がりの傾向などがあれば要注意。だが、思いつきのように計測した数値がたまたま不安にさせるものだった場合、まずはそもそも不安になる必要があることなのか、定期的・継続的に測定してみるのが良いだろう。

年齢に関しても同様だ。最新の日本人の平均寿命は女性が約87歳で男性が約81歳。これは文字通り集団の「平均」の話だ。健康寿命はそれぞれ75歳弱と72歳強。88歳の僕個人にとってはもはや何の参考にもならないが、もっと若い人の場合でも、平均寿命や自分の属する年齢層の疾病統計などは、あまり気にしても仕方ない平均値の話。いや、もし自分が平均や標準とされるものよりも良好な状態であれば素直に喜び、不良ならその情報自体は気にせず基本的な生活習慣の改善に励む、という具合に都合よく活用するので良いだろう。

健康ブームは多少なりとも強迫観念、つまり人々の不安やこだわりを煽ることで成り立っている。そのあたりは生命保険とも似ている。

次から次へと登場する健康グッズや健康法・健康本

健康に関する不安やこだわりをあまり持たない人にとっては、ある程度以上の健康法や健康情報に注意を払うことは時間も含めた費用対効果の面で割に合わない。だが、そこに不安やこだわりがある人にとっては、それ自体が「安定した精神状態」の源の一つ。これだけの長寿国になった日本で、なぜか毎年のように新たな健康法や健康食品、健康グッズなどが次から次へと登場しては消えていくのはそのためだろう。生命保険とは異なるが、健康情報もやはり「安心感」の商品だ。

ただしその市場は玉石混交だ。医師や医療機関がネット上で発信する広告としての情報は多少なりとも規制が効いているが、本屋で健康関連のコーナーに行くと、『〇〇するだけで△△』、『すべての〇〇は△△』、『〇〇なら△△しなさい』、『世界一〇〇の△△』といった煽るような題名の本が所狭しと並ぶ。医師がとんでもない本を出すケースもあるが、医師ではない著者がとんでもない医学情報を盛り込むことも多い。最近では120歳まで生きることを前提にするようなタイトルの健康本まで何種類か出ている。これくらになると無責任を通り越して笑い話のようなものだが、SNSも含め、過度で過激な情報氾濫時代に少しでもインパクトを出すためにはこのようなキャッチフレーズが必要ということなのだろう。やはり受け手側の情報処理・遮断能力は今後これまで以上に重要になる。

と、ここまで書いたところで、これと同類のような題名が僕が過去に出した本の中に無かったか急に不安になった。

『「お若いですね」と言わせよう。』、『40代からの頭と体を若返らせる33の知恵』、『キズのケア、心のケア キズを治す、キズあとを消す』、『アンチエイジングのすすめ 一年で一歳若返る』、『美容外科の真実 メスで心は癒せるか?』...

いずれも出版社が勝手に付けた題名で、当時は煽りすぎではないかと思ったものもあるが、今の時代ならどうやら大丈夫そうだ。

[執筆/編集長 塩谷信幸 北里大学名誉教授、DAA(アンチエイジング医師団)代表]

医師・専門家が監修「Aging Style」

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