卵やチーズを「超越した」ビヨンドフード、世界的ブームの予兆…地球規模の食糧問題解決も

卵やチーズを「超越した」ビヨンドフード、世界的ブームの予兆…地球規模の食糧問題解決も

B2B向けの食品素材「チーズのような豆乳クリーム 大豆舞珠(まめまーじゅ)」と「チーズのような豆乳ブロック 大豆舞珠ぶろっく」

 最近、私の周辺で、ある卵が話題になっている。その名は「ビヨンドエッグ」。どこが「ビヨンド(超越)」なのか。

 大豆をはじめとする豆類を原料としてつくられるのだが、ニワトリが産む従来の卵と比較して、安く生産できる。さらに、植物性の食糧としてビーガン(ベジタリアンのなかでも、乳製品や卵も食べない完全菜食主義者)にも受け入れられる。

 何より、養鶏業に比べて製造過程の二酸化炭素排出量も少なく、鶏の飼料用穀物(トウモロコシなど)もいらないので、それらの穀物は別に有効活用できる。生命の源である卵とはまったく異質のものだが、食糧としてのメリットは大きい。

 ビヨンドエッグを開発したのは、2012年に設立された食品開発ベンチャー企業である米ハンプトンクリーク(HC)社で、その創業者はジョシュ・テトリック氏。彼は大学卒業後、アフリカの人道支援に関わった経験から、飢餓に苦しむ発展途上の国や地域に住む人々を救うため、この新しい食糧、植物性の卵の開発に取り組んだという。地球規模の食糧問題を解決する一つのアプローチとして、卵という代表的なたんぱく源を選び、それを最先端の科学技術で人工的に再現したというわけだ。

 日本に比べてベジタリアンやビーガンが多い米国では、大手スーパーマーケットでビヨンドエッグを使ったマヨネーズやサンドイッチが売られるほどに普及しはじめている。

 今年に入って、このテトリック氏の挑戦に、ビル・ゲイツをはじめとする著名な富豪たちが賛同し投資を始めたという報道が、日本でも話題になった。「シリコンバレーのベンチャーで、いま一番ホットな会社は卵をつくっている」と。

 さらに、今年の9月に入って、三井物産がHC社に投資することを発表した。近く日本の食品売り場でも、ノンエッグ(従来の卵不使用)だがビヨンドエッグ使用のHC社のマヨネーズを見かけることになるだろう。

●日本発の“新豆乳”

 実は日本でも、同じような新しい食品を開発するプロジェクトが進んでいる。共通するのは、発想の原点が地球規模の食糧問題の解決にあること。そして、植物性のたんぱく源として「大豆」に着目し、製造技術によって変革を実現しようとしている点だ。

 こちらは、不二製油という日本の食品メーカーが取り組む、大豆たんぱく事業だ。そのテーマは、乳業に対する豆業の確立。カギを握るのが2012年に世界特許を取得した大豆の分離技術ウルトラ・ソイ・セパレーション製法(USS製法)である。

 この技術から生まれたのが“新豆乳”だ。豆乳といっても飲むためのものではなく、そこから新しい食品を生み出すため開発された新・食材だ。牛乳のように完全植物性の生クリームやチーズ、ヨーグルトをつくることができ、卵に代わってマヨネーズもつくることができる。

 ビヨンドエッグの誕生と時を同じくして2012年から、B2B向けの原材料、食材として展開され、普及浸透が進んでいる。私もこのプロジェクトに末席でかかわらせていただいている縁もあって、海の向こうで盛り上がるビヨンドエッグは他人事ではないのだ。

●ビヨンドなチーズ

 この新しい豆乳から、「ビヨンドなチーズ」が生まれている。B2B向けの食品素材、「チーズのような豆乳クリーム 大豆舞珠(まめまーじゅ)」と「チーズのような豆乳ブロック 大豆舞珠(まめまーじゅ)ぶろっく」がそれだ。

 9月20日、東京・青山にあるイタリアンレストラン「HATAKE AOYAMA」で、気鋭のイタリアン・シェフ4人が揃って、10月12日から始まる「ソイタリアンフェア」の記者発表と料理の試食会が行われた。ソイタリアンとは、先ほど紹介した新豆乳素材を使った日本で生まれたイタリアンである。

 昨年、イタリアのミラノで開催された食の万博「ミラノ国際博覧会2015」で、日本の食品加工の最先端技術とともに、本番イタリアでもお披露目され好評を博した。現在、ソイタリアンに取り組むイタリア料理店、カフェは、都内を中心に全国で200店以上に上る。そのなかから約30店舗以上が参加して、10月12日から11月末まで、先ほどのチーズのような豆乳クリームや豆乳ブロックと、日本(地元)の食材をあわせたソイタリアンメニューを展開するフェアが開催される。

 ソイタリアン・シェフの会を代表して発表会に出席したのは、「ピアットスズキ」の鈴木弥平氏、「イルギオットーネ」の笹島保弘氏、「アンティカ・オステリア・デル・ポンテ」のステファノ・ダル・モーロ氏、「HATAKE AOYAMA」の神保佳永氏。

 来日してから20年以上、日本でイタリアンをつくり続けてきたイタリア人シェフ、ステファノ・ダル・モーロ氏に、ソイから生まれたチーズの感想、評価について聞いてみた。

「私が子供の頃から食べてきたチーズとは、やはり違う。これは別の食品だよ。ただ、チーズに負けないコクも風味もある。おいしい。そして、料理の中で食材の味を引き立てるという意味ではこちらのほうが優れていると思う」

 実際に試食をしてみると、チーズに比べて、味は軽くライトである。特に、後味が強くないのだ。野菜や魚介とあわせた時に、チーズのような酸味とコクを感じるが、そのあとには、食材のうま味を引き立てるような印象を受ける。ソイタリアンフェアでぜひ、皆さんも一度、味わってみてください。

●食の事業としてのスケール

 さて、卵にしろチーズにしろ、ビヨンドであるために何が必要だろうか。まず、食品である以上、「おいしい」ということが絶対条件だ。アレルギーの対策や低コレステロール食品として、ノン・エッグのマヨネーズも、乳ではない植物性油脂からつくられたチーズも、以前から存在している。ただし、押し並べて「まずかった」のである。その結果、いわゆるイミテーション(偽物)的な扱いを受けて、市場は広がらなかった。

 私は、まだビヨンドエッグ関連食品を実際に食べたことはないが、海外での評判は上々で、かなりおいしいらしい。先ほどのチーズのような豆乳クリームや豆乳ブロックについては、本場イタリアのシェフが太鼓判を押す通りである。特に、料理に使ったときには、ビヨンドな味をつくり出す。

 もうひとつ、食の事業としてのスケールがあるだろう。つまり、何を目指して、どれほどのインパクトをつくることができるのか。アレルギー対策やコレステロール・カットなどのニーズも確かにあるが、やはりニッチで広がりに欠けるだろう。大豆という優れた原料を使って、食糧問題を解決できる新しい食品を開発するという構えがあるから、事業として注目を集め、市場は世界に広がり、実際に社会にインパクトを与えることができるのだろう。

 これからは、さまざまなビヨンドな食品開発が進められ、注目を集め、広がりをみせていってほしい。その結果、おいしくて、地球規模で飢餓や環境保全に貢献する食品が生まれてくることを期待したい。
(文=山田まさる/インテグレートCOO、コムデックス代表取締役社長)

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