なぜ十勝マンゴーとリステリンは大ヒットし、牛丼チェーンの肉はパサパサになったのか?

ウォンツアンドバリュー代表の永井孝尚氏が、牛丼店の牛肉の旨味なさを指摘

記事まとめ

  • ウォンツアンドバリュー代表の永井孝尚氏が、牛丼店の牛肉の旨味のなさを指摘している
  • かつての牛丼店はジューシーな牛肉だったが、今はパサパサしていると語った
  • コスト削減が繰り返されて食材の質が下がった店も少なくないと残念がっている

なぜ十勝マンゴーとリステリンは大ヒットし、牛丼チェーンの肉はパサパサになったのか?

なぜ十勝マンゴーとリステリンは大ヒットし、牛丼チェーンの肉はパサパサになったのか?

「Thinkstock」より

 毎日のように新商品・サービスが発売されている。「もう世の中にないモノなどない」と思っていても、ヒット商品は常に生まれている。最近でも、社会現象になった「ポケモンGO」や、火をつかわず電気で加熱するたばこ「IQOS(アイコス)」がヒットした。こうした「ありそうで、なかった」商品はどのように生まれるのか。そして、ヒットする商品は、ほかの商品と何が違うのか。

 そのカラクリについて、ウォンツアンドバリュー代表で、10月に『これ、いったいどうやったら売れるんですか? 身近な疑問からはじめるマーケティング』(SB新書)を出版した永井孝尚氏に話を聞いた。

●バリュープロポジション

――マーケティングに関する書籍は沢山あります。この著書の狙いはなんでしょうか。

永井孝尚氏(以下、永井) それらの本の多くは、マーケティングの理論書や解説書です。立派な本が多いのですが、これからマーケティングを学ぼうという人にとっては難しい専門用語が多いので、敷居が高いのです。そこで本書では、身近な疑問から楽しみながらいつの間にかマーケティングがわかるように書きました。たとえば、「腕時計をする人は少ないのになぜ腕時計のCMは増えているのか?」「なぜセブンの隣にセブンがあるのか?」「女性の太った財布には、何が入っているのか」。このような「言われてみれば確かに不思議」というテーマを8つに整理して、マーケティング理論で解説しました。

――たとえば「バリュープロポジション」という言葉が出てきますね。これって何でしょうか?

永井 そもそも企業は、お客さんのニーズに対応するために、自社の商品やサービスを売ろうと考えています。でも、お客さんが「他社でもっといい商品やサービスがある」と思ったら、買ってくれませんよね。お客さんのニーズに対応する、自社だけが提供できる商品やサービスだったら、お客さんは「コレがほしかった!」と買ってくれます。これがバリュープロポジションです。バリュープロポジションを日本語に直訳すると「価値提案」というとても難しい言葉になるのですが、要は「お客さんがお金を出す理由」です。こう考えれば、わかりやすいでしょう?

――たとえば、腕時計のバリュープロポジションにはどんな例がありますか。

永井 数十年前の腕時計のバリュープロポジションは「正確な時を知らせること」でした。でもこれって今では、誰でも持っているスマートフォン(スマホ)で簡単にわかりますよね。つまりこのバリュープロポジションの賞味期限は、終わっているんです。このような現象を「コモディティ化する」と呼ぶのですが、コモディティ化したままではなかなか売れません。そこで今の腕時計は新しいバリュープロポジションを作っています。

 たとえばジョギング専用ウォッチは「時計で体力を強化する」、あるいは登山専用ウォッチは「時計が厳しい環境でも頼れる登山の武器になる」という、他の時計やスマホではできない価値を提供して、お客がお金を出す理由をつくり出しています。ライバルが存在しない市場を「ブルーオーシャン」と呼びますが、バリュープロポジションもこれに近い概念です。

――一方で、せっかくブルーオーシャンを切り拓いても、似たような商品が参入してバリュープロポジションがコモディティ化すると、レッドオーシャン(競合が激しい市場)に移行しますよね。たとえばどんな事例があるでしょうか?

永井 牛丼店チェーンがまさにそうなっていますよね。かつては「うまい、安い、早い」を売りにしていましたが、ライバルが増えてこれが当たり前になると、「うまい、安い、早い」だけではコモディティ化してしまいます。こうなると過当競争になり、安売り合戦に入って利益率が低下し、牛丼市場はレッドオーシャンに変化してしまったのです。

 価格が下がるのは消費者にとっては大歓迎……と言いたいところですが、レッドオーシャンは品質の低下を招きがちで、じつは消費者にとってもマイナスです。牛丼の場合、かつての牛丼店はジューシーで美味しい牛肉を出していましたが、コスト削減が繰り返されて食材の質が下がった店も少なくありません。先頃、私は久しぶりにある牛丼店に入りましたが、ひと口食べただけで、パサパサして旨味のない牛肉でした。ちょっと残念に思いましたね。

●競争を避けるための戦略

――ジョギング専用ウォッチや登山専用ウォッチはバリューポジションを確立したわけですが、こうして考えてみると、「商品開発の真の目的は何か」を考えることが大切なようですね。

永井 おっしゃる通りですね。商品開発は手段にすぎません。商品開発の目的は、顧客開発です。真冬に出荷される北海道十勝産のマンゴーは、まさにその成功例ですね。夏は冬場に降った雪を貯めておいて冷やし、冬は温泉水を使い、豊富な日照時間を生かして冬場にマンゴーが収穫できるようにしたのですが、おかげで消費者は1年中マンゴーを食べられるようになりました。しかも夏場に出荷する宮崎県のマンゴーとも競合しないのです。

 つまり1年中マンゴーを食べられるようになったことで、顧客が増えてマンゴー市場は拡大したわけですね。経営学者のP・F・ドラッカーは「企業の目的は、顧客の創造である」と述べていますが、「十勝マンゴー」はまさに顧客を創造したのです。

――以前から「プロダクトアウト(製品中心の考え方)からマーケットイン(市場中心の考え方)へ変わるべきだ」といわれていますが、顧客開発はこの考え方で取り組むべきなのでしょうか。

永井 自社の商品を中心に考えると失敗しますし、逆に消費者の言いになりになっても失敗します。成功するパターンは、消費者も気づかないニーズをとらえることです。十勝マンゴーは「真冬にトロピカルフルーツを食べたい」というニーズを捉え、薬用マウスウォッシュ「リステリン」は「口臭で人間関係を悪くしたくない」というニーズをとらえました。どちらも、お客さんが気づいていなかったニーズに対応したわけですね。

――そうは言っても、つい商品中心に考え勝ちです。これを避けるにはどうすればよいのでしょうか?

永井 2つの魔法の言葉があります。「そもそも、お客さんって誰だっけ?」「これってお客さんにとって、何がいいの?」。商品開発に行き詰ったら、必ずヒントになる言葉です。

 ビジネスで大切なことは、ライバルといかに戦うかではなく、オンリーワンをめざすことです。本書でも中古本販売チェーン「ブックオフ」や「まんだらけ」の例を挙げて紹介しましたが、たとえばこれを考える際には、米経営学者マイケル・ポーターの「5つの力」や、「3つの競争戦略」が役に立ちます。基本戦略は競争に勝つ戦略ではなく、競争を避けるための戦略です。

 マーケティングの基本的な考え方が身につけば、売り方も仕事の成果も、大きく変わっていくのです。

(構成=小野貴史/経済ジャーナリスト)

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