移籍金130億円…サッカー選手、天文学的金額で「取引」の裏事情…巨額の富を生むクラブ

移籍金130億円…サッカー選手、天文学的金額で「取引」の裏事情…巨額の富を生むクラブ

マンチェスター・ユナイテッドFCのポール・ポグバ選手(写真:アフロ)

 サッカー界は、ヨーロッパの主要リーグが開幕して1カ月以上がたった。昨シーズンは、イングランドのプレミアリーグでレスター・シティFCが奇跡の初優勝を果たして話題をさらったが、今シーズンはどんなドラマが繰り広げられるのか、注目が集まるところだ。

 さて、リーグ開幕前に行われたもうひとつの熱い戦いといえば、移籍市場での人気選手をめぐる熾烈な交渉合戦だろう。特に、「超」がつくほどのスタープレーヤーの移籍ともなれば巨額の移籍金が動くことで知られているが、その最たる例ともいうべき“ビッグ・ディール”が8月8日に成立した。

 フランス代表のミッドフィルダーのポール・ポグバ選手が、イタリア・セリエAのユヴェントスFCからプレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドFCに移籍したのだが、その移籍金は推定1億1000万ユーロ(約130億円)というビッグマネーだったのだ。

 サッカー史上最高といわれるこの巨額移籍によって、あらためて浮き彫りになったのが、サッカー選手の移籍金の高さだ。なぜ、これほど高額なのか。そこには、1995年に下されたある判決が大きく関係している。

●サッカー界を変えた「ボスマン判決」とは

 95年12月、欧州司法裁判所でヨーロッパサッカー連盟(UEFA)に対する2つの要求が認められた。

(1)クラブチームとの契約満了を迎えた選手の所有権を、クラブ側が主張すること、移籍金を要求することは共に認められない(契約満了時の移籍の自由化)

(2)ヨーロッパ連合(EU)域内における移動と就労を制限してはならないと定めたEUの労働規約は、プロサッカー選手にも適用される(EU域内における外国人枠の撤廃=EU加盟国の国籍保有者の国際移籍自由化)

 全面的な勝訴を勝ち取った原告の名は、ジャン=マルク・ボスマン氏。ベルギーの元サッカー選手だ。彼が裁判を起こした背景には、こんな事情がある。

 90年、ボスマン氏は所属していたベルギーリーグ2部のRFCリエージュとの2年契約満了に伴い、フランス2部リーグのUSLダンケルクに移籍しようとしていた。しかし、リエージュ側は難色を示し、契約を満了しているにもかかわらず、ボスマン氏の所有権を主張したのだ。それを不服としたボスマン氏がクラブ、さらにはUEFAを相手取って訴訟を起こし、大問題に発展する。

●クラブが選手を無期限保有していた過去

 現代の常識に照らし合わせて考えるとクラブ側の対応には疑問を抱くが、昔はこれが当たり前だった。「ボスマン判決」以前は、ヨーロッパのクラブには選手の保有権を無期限に有する権利が与えられていたのだ。まるで前近代的な奴隷制度を思わせる理不尽なルールだが、これにはれっきとした理由がある。

 今から100年以上前、サッカーの母国であるイングランドでプロリーグが組織されると、ある問題が発生した。大都市の人気クラブが、高額な報酬を用意して人気選手を次々と引き抜き始めたのだ。

「これでは、資金力に乏しい小さな町のクラブは衰退してしまう」。そう危惧したイングランドサッカー協会は、選手から移籍の自由を奪い、クラブに「保有権」を与えた。それによって、各クラブの力を均衡化する狙いがあったのだ。以後、この取り決めは世界的な基準となる。

 実際、イングランドの伝説的選手であるスタンリー・マシューズが、ブラックプールFCのような弱小クラブに全盛期を含めた20年も在籍するなど、一定の効果があったのは間違いない。

 しかし、プロサッカー選手がクラブと対等に契約を締結する「労働者」ではなく、クラブの「商品」として本人の意思に関係なく保有される同制度は、「ボスマン判決」の以前から批判の対象になっていた。

●本田圭佑の移籍の裏にも「ボスマン判決」

 そして、「ボスマン判決」によって、クラブとの契約が満了に至った選手は移籍金ゼロで自由に移籍することが可能となった。13年にロシアのPFC CSKAモスクワからセリエAのACミランに移籍した本田圭佑選手の例などは、まさにその恩恵を受けたかたちだ。

 しかし、それではクラブ間の移籍金ビジネスが成り立たなくなるという理由から、「違約金」というシステムが設けられた。これは、例えば6年契約の選手が契約途中の4年目で移籍する場合、残りの契約分を移籍先のクラブが現所属クラブに支払うという仕組みだ。現在、サッカー界で「移籍金」と呼ばれるのは、この違約金のことだ。

 また、「ボスマン判決」以前は、ヨーロッパのほとんどのリーグで「外国人枠は3人」という取り決めがあったが、それも撤廃されたため、巨大資本を持つクラブは国外から多数のタレントを集めることが可能になった。スペインのリーガ・エスパニョーラのレアル・マドリードや、プレミアリーグのチェルシーFCのスタメンを見ると、地元であるスペインやイングランドの選手がいかに少ないか、一目瞭然だろう。

 90年代以降、サッカー界は世界的な人気拡大に伴って放映権料や広告料が高騰し、それを利用して巨額の富を生み出すためにクラブを買収する金満オーナーも登場した。そのため、マネーゲーム化が加速し、選手の移籍金は値上がりし続けている。

 選手側とすれば、クラブから不当に保有権を主張されるよりはましだと思われるが、この天井知らずのマネーゲームが、今後のサッカー界にどのような功罪をもたらすのか。今後も注目していきたい。
(文=小島浩平/ロックスター)

関連記事(外部サイト)