巨額税金投入でもほとんど観られない地方PR動画乱発…「うなぎ少女」はたった5日で削除

総務省の移住促進のための助成金でPR動画が乱発 なかには再生画数1000回未満のものも

記事まとめ

  • 総務省が移住促進のためのPR動画制作の助成金を打ち出し、市町村が制作に動き出した
  • いま自治体のほとんどがPR動画を持っており、その数は数千を超えると推察される
  • なかには助成金ありきで制作し、再生画数が1000回に満たないものもあるという

巨額税金投入でもほとんど観られない地方PR動画乱発…「うなぎ少女」はたった5日で削除

巨額税金投入でもほとんど観られない地方PR動画乱発…「うなぎ少女」はたった5日で削除

鹿児島県志布志市 ふるさと納税PR動画「UNAKO」

 鹿児島県志布志市のふるさと納税PR動画が、「女性蔑視」「犯罪想起」「グロテスク」といった批判を受け、公開からわずか5日間で公式サイトから削除されました。うなぎを擬人化し、“うなぎ少女”を男性が飼育するという内容です。何百万円もの血税を投入したうえに、市長名によるお詫びの公告に至り、さらには海外メディアからも取り上げられる事態となった問題の本質はどこにあるのでしょうか。

 テレビCMにおけるマーケティング戦略の視点から、その背景と今後の地方PR動画の行方についてフォーカスしていきます。

●助成金がもたらした「雨後の筍」状態の地方PR動画

 こうした地方PR動画が注目されブームが過熱化してきたのは、ここ数年のことです。2013年から立ち上がった「おんせん県おおいた」や、高知県の「高知家」などが火つけ役といえるでしょう。地方プロモーションの目先が、「ゆるキャラ」から動画に移った潮目の時でもあります。

 そして、さらにその動きを加速させたのが、15年に総務省が打ち出した移住促進のためのプロモーション動画制作の助成金。最大500万円の助成金が、申請した地方自治体に国から交付されました。「まちのムービーをつくるなんて、県単位くらい大きくないと予算確保ができない」と思っていた市町村が一気に動きだした瞬間です。

 いまや、自治体のほとんどがPR動画を持っている状況。10月5日現在、全国の市町村数は1718ですので、その数は優に数千を超えていると推察されます。

 秀逸な地方CMと地方PR動画を紹介する「ぐろ〜かるCM研究所」サイトでも地方PR動画が激増し、約2割を占める状況になっています。では、同研究所で取り上げている“攻めてる”PR動画を見てみましょう。

【埼玉県・行田市プロモーション動画】

 世界最大としてギネス世界記録に認定された、行田市の「田んぼアート」。お祝いにやってきたのは、なんと宇宙人。地上50mの展望タワーに突如飛来した全身グレーのグレイ。胸の赤いゼッケンには「オメデトウ」の文字。祝福を届け、そのまま帰っていくのかと思いきや……。

【三重県・津市プロモーション動画】

「“つ”のうた」に乗せ、展開される奇妙な世界。レスリングの吉田沙保里選手は対戦相手を全力で噛み、老紳士は頭の上に鳩を乗せ、若い女性は髷のエクステでご満悦。この世界に欠けている“あるもの”とは何か。歌と映像、視聴者を引きつける言葉遊びが秀逸です。最後に明かされる歌声の主には驚きが待っています。

●まずは見てもらわないと始まらない「PR動画」

 そうしたなか、「助成金ありき」で制作された各自治体のPR動画も少なくありません。500万円近くの費用をかけて制作したにもかかわらず、再生画数が1000回に満たないという自治体PR動画があることも現実です。そうなると、単純計算で1回の再生当たり約5000円の投資ということになります。

 税金を使うという建前から「平等主義」が貫かれ、なんの変哲もない、外から見ているとまったく面白みのない、角がすっかりとれてしまった動画に、政府はコンテストで賞を与えています。しかも、その「地域情報満載賞」とは、いかにも“八方好し”、そして発信する自治体側の“内輪受け”そのものです。公金の使い方として、費用対効果を無視した実例をみてとれます。

 まっとうな制作担当者であれば、実際の効果をもたらすためには、「まずは、PR動画を見てもらわなくては、言いたいことが伝わらない」と考えるでしょう。

 一般的なテレビCMは、15秒あるいは30秒といった枠のなかで制作され、広告主がお金を支払ってオンエアされます。一方、PR動画は動画素材自体を制作するものの、「YouTube」などの動画閲覧サイトに公開することで、媒体費がゼロ円というものがほとんどです。

 PR動画には、テレビCMのようにズカズカと茶の間に入り込んでいく自力はありません。せっかくつくったPR動画をターゲットに到達させるためには、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)等での視聴者による「拡散」と、テレビ番組等に取り上げられる「パブリシティ」効果が必要になります。

●800万円で6億円の効果

 つまり、多くのPR動画のなかで、頭ひとつ抜きんでること、すなわちインパクトの強い内容が重要になってくるのです。動画の内容にいかに“フック”をつくって、“話題づくり”をしていくかということが大きなポイントとなります。

 再生回数が200万回を超えた宮崎県小林市の「ンダモシタン小林」編は、「フランス語だと思っていたら地元の方言だった」というオチが、「思わず二度見する」ナイスアイディアの賜物。こちらの800万円で4本制作した移住促進PR動画は、数多くのテレビ番組に取り上げられました。

 このことが大きなきっかけとなって小林市のふるさと納税額は、PR動画公開前の約1億3000万円から7億2000万円以上に達しています。もちろん、返礼品施策などの功績もありますが、このPR動画が起爆剤となったことは確かです。

 こうした事例は、「工夫しだいで大化け」するPR動画の持つポテンシャルをうかがわせ、各自治体が力を入れているのもうなずけます。

 普段われわれに馴染みのあるテレビCMも、数多くのCMに埋もれないよう、そして記憶に残るよう、インパクトの獲得を重要視します。

 しかしながら、新たなテレビCMをオンエアするにあたっては、各テレビ局に厳しい「考査」といわれる審査があり、不適切な表現内容に対しチェックが行われます。この「考査」に通らないとテレビCMとしてオンエアすることができません。ある意味、映倫のような存在です。

 そうした第三者目線による「世間一般の良識のモノサシ」が適用されないPR動画は、動画を管理し公開する側の判断がほとんど、つまり自由な世界といえます。PR動画をつくる制作プロダクション等はインパクトを重視し、話題を取りにいく傾向が強いと考えられます。それだけに、管理する側の自治体担当者が、批判に対する“想像力”と“繊細さ”を持ってしっかり対応していく必要があります。

●志布志市の動画の影響

 うなぎ少女動画の騒動で日本中の多くの人が、志布志市のことを知ったり、志布志市を思い出したり、志布志市とうなぎのイメージを結びつけるようになったことは間違いないでしょう。結果、ちゃっかりと志布志市のふるさと納税額は、前年度より増加する可能性があります。

 志布志市の担当者は「ほかの自治体と少しでも違う動画をつくろうと思い“攻めた”結果」と語っています。

 PR動画の制作段階で、その内容や言葉遣い、言い回しや映像表現には、市役所担当者を含めた制作サイドとの議論はあったはずです。

 確かに、インパクトを獲得し話題性につなげるために“攻める”こと、ある程度の角を立てていくことは必要です。一方で、奇をてらったことによる世間からの反感に対しても、十分な事前考慮が必要です。自治体の担当者は、両刃の剣であることを心して取り組むことが肝要といえましょう。

●PR動画の元手は国民の“税金”

 PR動画制作の際に何より忘れてならないのは、PR動画は“地域を代表”し、全国、世界にまで「ひとり歩き」していくメッセンジャーであるということです。まさに、「まちの親善大使」といった存在です。他人の気持ちを傷つける表現は、「地域のブランド」や、発信するその地方に住む「市民の良識」まで、世界規模で疑問視されることになりかねません。

 そして「やったもん勝ち」的に短期的な利益を上げても、中長期的にはブランドに大きな汚点が残ることも忘れてはいけません。

 血税が投入されていることを再認識したうえで、知事、市長、町長、村長といった自治体トップを含めた自治体担当者が「親善大使」をつくる意気込みで真剣に取り組むことが大切なのです。

 また、われわれ視聴者も自分たちが納めた税金が使われていることを念頭に、厳しい目で地方PR動画を見ていくことが、良い意味でのチェック機能として働いていくと考えます。
(文=鷹野義昭/CM戦略アナリスト・マーケティングディレクター)

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