原油、価格と生産量の安定崩壊リスク高まる…サウジ、危機的状況突入で世界的混乱も

原油、価格と生産量の安定崩壊リスク高まる…サウジ、危機的状況突入で世界的混乱も

「Thinkstock」より

 9月28日、アルジェリアの首都アルジェで開かれた臨時総会にて、石油輸出国機構(OPEC)は石油生産の削減目標を加盟国間で共有し、一日当たりの生産量を現在の3324万バレルから、3250万〜3300万バレルに制限する目標を決めた。これは大方の予想に反する決定だった。当初、OPEC加盟国ではないが原油市場に大きな影響力を持つロシアが会合に参加する予定だった。しかし、OPEC内の意見対立の溝が深いことを理由に、ロシアは直前になって参加を見送った。会合前、サウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は厳しい対立が解消しつつあるとの見方を示していたが、減産合意形成への期待は低かった。

 予想外の減産目標を受けて、各メディアは「8年ぶりの減産合意」と報じた。OPECの決定を好感し、28日の原油先物価格は一時6%程度急伸、米国を中心にエネルギー関連企業の株価も上昇した。そして、9月末のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油価格は1バレルあたり48.24ドルをつけ、週間で8.5%上昇した。

 OPECの決定に関して、一部ではサウジがOPECの利害をまとめ、世界の原油供給の調整が進むとの見方もある。ただ、プレスリリースの中に「合意」との記載はない。OPECはロシアなどの非加盟国とも減産協議を行い、11月の総会で国別に生産量等が決められる予定だ。

 つまり、合意は11月の総会に持ち越されたといえ、28日の臨時総会が取りまとめたものは努力目標である。OPEC加盟国の利害は一致しておらず、今後も減産への反発が出る可能性もある。今後の原油価格、そして、産油国の経済動向は注意深く見守るべきだ。

●原油価格下落を受けた産油国経済の低迷

 まず、産油国が置かれた状況を把握するために、原油価格がどう推移してきたかを確認しておこう。2014年年央、1バレルあたり100ドルを超えて推移していた原油価格は、中国の需要低下などに圧されて下落し、16年2月には26ドル台まで下落した。

 原油価格は産油国の経済成長を大きく左右する。原油価格が下落すれば、エネルギー関連企業の収入が落ち込み、経済成長率は低下する。そして、産油国の財政状況も悪化する。原油価格の急落を受けてサウジやノルウェーは、財政悪化への対応策として政府傘下のソブリンウェルスファンドが保有する株式を売却し、資金を捻出しなければならない状況に直面した。これが15年秋口以降の世界的な株価下落の一因になった。

 16年半ばには50ドル台まで原油価格が持ち直す場面もあったが、それでも産油国の置かれた状況は厳しい。産油国のリーダー格とみられてきたサウジは、公務員賞与の取りやめや閣僚の減給を決定し、歳出の削減を優先している。ロシアは1バレル=45〜50ドル程度を念頭に財政を運営している。原油価格が上昇すれば、産油国の経済に余裕がでることはいうまでもない。

 原油価格の上昇に働きかけるためには、需給の調整が必要だ。産油国が減産を進めれば原油価格は持ち直す可能性がある。しかし、産油国の利害は簡単にはまとまってこなかった。財政破たん寸前の状況にあるベネズエラが減産を求める一方、イランやリビアは増産を主張してきた。

 その状況のなかで、サウジを中心にOPEC加盟国が減産に合意したとしても、イランなどが生産回復を優先して抜け駆けを図る可能性がある。他の産油国も合意を反故にして増産を優先するかもしれない。そうなると、減産への合意は不利だ。こうしてOPEC加盟国は生産量を据え置いてきた。

 加えて、米国では想定よりも早くシェールオイルの生産が回復している。原油の需給バランスは不安定であり、今後の世界経済の動向次第では再度、原油価格が下落する恐れもある。こうして、OPECは11月の総会で減産への合意をまとめる道筋をつくる必要に迫られたといえる。

●有力産油国サウジアラビアの態度軟化

 では、今回の決定はどう評価すべきだろう。一応の減産目標のレンジは提示されたが、14のOPEC加盟国の利害はまとまっていないとみるべきだ。なぜなら、増産を重視するイランなどに対して、例外措置が認められる可能性があるからだ。臨時総会後、イランのザンギャネ石油相は増産凍結の必要はないだろうと述べている。

 つまり、今回の決定は妥協の産物と考えるべきだ。これまでサウジは、イランが増産を凍結するなら減産に応じると、強硬な態度を続けてきた。それに比べると、今回の決定はサウジが態度を軟化させ、譲歩したことを示唆する。

 なぜサウジが態度を軟化させたのか。おそらく、少しでも原油価格に上昇圧力をかけ、経済を支えたいのだろう。同国は石油に依存した経済体質を改めるために、「ビジョン2030」と銘打った経済改革を進めている。これは非石油収入の引き上げや財政再建による格付けの向上等が含まれている。

 経済構造の転換には時間がかかる。苦境に直面する経済を支えるためにも目先の資金をなんとかして確保しなければならない。そのために、世界最大の石油会社、国営サウジ・アラムコの上場を目指している。その時価総額は約220兆円に達するとみられ、世界最大の企業が上場することになるだろう。

 改革を首尾よく進めるためには、アラムコの収益基盤=原油価格の持ち直しが欠かせない。そのため、サウジはイラン等に配慮しつつも、OPEC全体での意見集約を取り付け、原油価格が持ち直す環境を整えたかった。

 もし、サウジがイランに生産制限を要求し続け、OPEC加盟国の意見がまとまらない場合、市場は減産が困難と判断し、原油価格には下押し圧力がかかるはずだ。そうなると、OPECの盟主としてのサウジは面目を失い、さらなる財政悪化、景気低迷に直面するだろう。その結果、社会の不満がたまりイスラム原理主義への傾倒、さらにはテロにつながる恐れもある。

●注意が必要な原油価格、サウジアラビアの動向

 以上の内容をまとめると、臨時総会での決定が産油国の減産への取り組み、そして、原油価格の安定につながるというのは早計ではないか。増産を続けたいイラン、政情不安から産出が落ち込んだリビア、ナイジェリアへの例外措置が認められると考えられている以上、OPEC加盟国以外も含め産油国が減産の意義を尊重するとは考えづらい。

 また、原油の需給をOPECだけでコントロールすることは困難になっている。米国のシェールオイルの増産だけでなく、カザフスタンのカシャガン油田の稼働により、17年を通して供給過剰が続くと考えられている。中国など新興国での原油需要も低迷基調で推移する可能性が高く、需給のだぶつきは続くだろう。基調として原油価格は不安定に推移すると考えた方がよさそうだ。

 そうなると、サウジの経済的苦境は続く可能性がある。9月25日には、同国中央銀行であるサウジアラビア通貨庁が、国内の銀行に200億リヤル程度(約5400億円)の緊急支援を発表した。過去2年間の原油価格の下落の結果、同国の銀行は預金の流出に直面し、流動性が枯渇しているとみられる。

 サウジは目先の資金確保に奔走している。資金捻出のために同国が保有する米国債を売却する可能性もある。それは、米金利の上昇圧力につながり、世界の金融市場の混乱要因になる恐れがある。9月28日には米国でテロ支援者制裁法が成立し、テロの遺族がサウジ政府を相手取り、損害賠償を求めて提訴することが可能になった。当然サウジは法成立に懸念を表明している。米国政府へのけん制として、サウジが米国債を売却することも想定される。

 以上のように考えると、9月28日のOPEC臨時総会は産油国の団結よりも、サウジの苦境を確認する機会だったといえる。原油価格の動向次第では、同国の経済がより厳しい状況に直面し、保有する金融資産の売却や金融システムに関する懸念が高まるだろう。それが、世界の金融市場にショックを与える可能性の大きさには注意が必要だ。
(文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授)

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