『校閲ガール』石原さとみ、「フェロモン」だけじゃない隠れた「女優力」

『校閲ガール』石原さとみ、「フェロモン」だけじゃない隠れた「女優力」

石原さとみ

 秋ドラマの口火を切って10月5日に放送された『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)の初回平均視聴率が12.9%(関東地区、ビデオリサーチ調べ/以下同)を叩き出し、前作(水曜22時放送)『家売るオンナ』の同12.4%を上回り、第2回も11.2%を記録するなど好スタートとなった。

 ストーリーを簡単に説明すると、石原さとみ演じるヒロイン・河野悦子は、ファッション誌の編集者を夢見て出版社に入社したものの、配属されたのは原稿の誤字脱字や不備などを指摘する校閲部だった。しかし、持ち前のスーパーポジティブな性格で、地味な校閲の仕事に挑みながら成長していく……というもの。

 好スタートを切った理由は、やはり石原の人気によるところが大きい。

●CMと同じ「ただ美しい」石原さとみ

 石原が演じる悦子は、とにかくオシャレで、とにかく騒がしい。初回のオープニングシーンは中途採用試験の面接だったが、モデルのような服で現れ、早口で夢を語り、会社批判をまくしたてる始末。面接が終わると、フロントで後輩・森尾登代子(本田翼)を見つけて一方的にしゃべって去り、夜になっても行きつけのおでん屋で常連のオヤジたちを相手にしゃべり倒した。

 初出勤の日も、配属先を勘違いしてファッション誌の編集部へ行った挙げ句、校閲部でも指導係の先輩女性に「スーツが古い、ダサいを通り越してビンテージ感が漂っている」と暴言を吐く。その後も、文芸編集者に「人としてどうかしている。初対面の人間にお前呼ばわりすんなよ!」と罵声を浴びせ、森尾に「なりゆきで編集者になっちゃってるあんたなんかと覚悟も情熱も全然違うんだよ!」と叫んだ直後に寝落ち……。

『ディア・シスター』(フジテレビ系)しかり、『5→9〜私に恋したお坊さん〜』(同)しかり。キャピキャピ騒いで、キャンキャンとほえる。いかにも、石原らしい役といえる。

 つまり、制作サイドが石原のイメージを同じ型にはめ込んでいるのだが、視聴者にとっては「またいつもの感じか」という印象だろう。シーンごとに派手なファッションを見事に着こなすオーラは主演女優のそれだが、やや意地悪な見方をすれば、そのビジュアルはCMの出演時とさほど変わらない。

 初回を見た限りでは、柔軟剤「フレア フレグランス」や化粧品「プリマヴィスタ」などのCMで見る「ただ美しい石原さとみ」以上のものが引き出されていなかった。第2回では、自らのミスで周囲に迷惑をかけて意気消沈する姿が描かれたが、今後は「ただ美しい」「キャピキャピ・キャンキャン」という固定化されつつあるイメージからはみ出せるか。脚本・演出の手腕が問われそうだ。

●石原さとみのヒロイン像は共感されない?

 物語としての魅力は、「自分のいるべき場所はここじゃない」と思いながらがんばっている世間の人々へのエールだろう。そのため、悦子は猪突猛進タイプとして描かれているのだが、毒舌などの失礼な言動が多いため、「共感され、応援される」ヒロイン像ではない。

 それよりも、変わり者の美しい女性が、思いきった行動で問題解決する姿を見せて「スカッとしてもらおう」というヒロイン像に近く、その意味では『家売るオンナ』の三軒家万智(北川景子)と似ている。

 校閲という地味な題材を引き立たせるべく、カラフルなテロップやファッションスナップを多用したポップな演出も、共感・応援よりも「スカッと」の『家売るオンナ』と同じ。作品のドラマ性や社会性よりも、視聴者の爽快感を優先させようとしているのだ。

 特に今作は、「映像作品であるドラマで、細かい文字を扱う」という難しさがあり、制作サイドは徹底して石原にスポットを当てることでカバーしようとしていた。ただ、石原にスポットを当てるほど、校閲の描写が浅くなり、視聴者にその醍醐味やすごさが伝わらなかった点は否めない。

 特に疑問が残ったのは、今春に絶賛を集めたお仕事ドラマ『重版出来!』(TBS系)のように、ヒロインが駆け出しのところから丁寧に描こうとしなかったこと。多くの視聴者は、「素人の新人に、会社の業績を左右する大作家の校正を任せる」シーンを見て、「校閲って『スゴイ』というより『チョロイ』仕事なの?」と思ったのではないか。

●三度の取材で見た、石原さとみの素顔

 石原に話を戻すと、「新卒から7年連続で同じ会社の試験のみを受ける」「ファッション誌の編集部に異動したいのに、社内で暴言を吐きまくる」などの破綻したキャラクターをそつなく演じていたのは、見事というほかない。

 しかし、2014年の『失恋ショコラティエ』(フジテレビ系)以来続いている「“フェロモン女優”のような立ち位置がベストか」というと疑問が残る。思えば、デビューした頃の石原は、03年の連続テレビ小説『てるてる家族』(NHK)の舞台である昭和中期の佇まいが似合う、黒髪と黒眉の少女だった。

 その後、学園ドラマの『WATER BOYS2』(フジテレビ系)と『H2〜君といた日々』(TBS系)では明るく素朴な女子高生ヒロインを演じ、大河ドラマ『義経』(NHK)では静御前を熱演。穏やかな表情の中に芯の強さを感じさせる演技を見せ始め、08年の舞台『幕末純情伝 龍馬を斬った女』で表現力が覚醒する。

 以降、色気やユーモア、鋭さや危うさなど、目の前の役柄を楽しむかのように染まる術を身につけていただけに、単なる“フェロモン女優”という立ち位置は期間限定のものだろう。フェロモンだけでなく、ナチュラルに持つ古風さも、胸の奥から絞り出す怒りや悪意も見せられるのだから、近い将来、再び幅広い役柄にトライしていくはずだ。

 私は三度ほど取材の機会に恵まれたが、彼女ほど若い頃から姿勢がよく、相手の目をしっかり見て話す女優に会ったことがない。ただ質問を待っているだけの女優が多い中、石原は自らこちらに声をかけ、話し出すことができる。当然、撮影現場でも監督などのスタッフと話し合えるし、日常生活でも常に何かを吸収しながら進化していくタイプの女性なのだろう。

“フェロモン女優”のイメージは期間限定とは思うが、いたずらに長引かせると、「一時的に浅いマスの支持層を得られたが、結局深いコアな支持層は得られなかった」という事態を招きかねない。「聡明な彼女のことだから問題はないだろう」と思いつつ、「早く、その魅力をフルに見せてほしい」とも感じている。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)

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