『あなたのことはそれほど』が『昼顔』ほど支持されない理由…「心より体」の不倫に疑問

『あなたのことはそれほど』が『昼顔』ほど支持されない理由…「心より体」の不倫に疑問

「火曜ドラマ『あなたのことはそれほど』|TBSテレビ」より

 スタート当初から、「ヒロインの美都(波瑠)がクズすぎる」という批判の声が上がり、夫・涼太(東出昌大)の怪演ばかりが話題になるなど、逆風が続く『あなたのことはそれほど』(TBS系、以下『あなそれ』)。相次ぐ厳しい声を受けた波瑠が「観てくださったことに感謝するだけ」とブログにつづるなど、苦悩の様子が伝わってくる。

 同じ不倫がテーマのドラマでも、2014年に放送されて高視聴率と各賞を獲得したほか、6月10日から映画公開もされる『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(フジテレビ系、以下『昼顔』)とは何が違うのだろうか。

●『あなそれ』と『昼顔』で違う、罪悪感の描き方

 その理由は、「波瑠より上戸彩のほうがいい」というキャストの問題ではなく、ストーリーによるところが大きい。

 まず『昼顔』は、「夫への不満を抱えながらパート勤めをする」地味な30代の女性がヒロインだった。一方、『あなそれ』のヒロインは、「夫への不満はなく、医療事務の仕事をこなす」若くておしゃれな女性。この時点で、共感度にグッと差がついている。

 そんなキャラクター設定の違いは、“不倫のムード”にも影響を及ぼす。『昼顔』が“ファンタジーとしての不倫”を描いているのに対して、『あなそれ』は“リアルな不倫”を描いているため、感情移入を促すドラマ性が下がり、淡々と見るドキュメンタリーのようになってしまうのだ。

 そもそも『昼顔』は、世の主婦たちに「不満を抱える日々のなか、もし平日の午後に素敵な男性と不倫したら……」という妄想を抱かせるコンセプトだった。しかし、『あなそれ』は自分に置き変えて妄想を抱く主婦は少なく、「実際の不倫はこれくらいゲスなもの」というのぞき見感覚で楽しむことしかできない。

 また、罪悪感の描き方も大きく異なる。『昼顔』が「罪悪感を抱きながらも、のめり込んでしまう」というかたちだったのに対して、『あなそれ』は「むしろ夫を責めてしまう」という描き方をしている。「罪悪感のある不倫はファンタジーであり、罪悪感がない不倫こそリアル(不倫する人はそれほど罪悪感を持たない)」という真逆の捉え方をしているのだ。大多数の不倫しない人々が、どちらのドラマを支持するかは自ずとわかるだろう。

●心の動きが伝わってこない『あなそれ』

 もうひとつ忘れてはならない両作の違いは、心と体の動き。

『昼顔』は、「思いもしない不倫の関係に陥ってしまい葛藤する」紗和(上戸彩)、「夫・裕一郎(斎藤工)に不倫されたが、絶対に別れたくない」乃里子(伊藤歩)、「不倫を楽しんでいたが、本当の恋に落ちてしまう」利佳子(吉瀬美智子)、「かつて夫に不倫され、嫌悪感が消えない」慶子(高畑淳子)など、さまざまなタイプの女性にフィーチャーして不倫をめぐる心の動きを描いていた。だからこそ、序盤は紗和と利佳子の対比、中盤は紗和と慶子の微妙な関係、終盤は紗和と乃里子の対決が盛り上がったといえる。

 一方、『あなそれ』は、心の動きよりも行動ベース。会ってすぐにホテルへ行って不倫、嘘をついて温泉旅行。あるいは、パートナーの裏切りを知った夫が異常な行動を繰り返すなどの行動ばかりがフィーチャーされ、心の動きはあまり伝わってこない。「心より行動」、ひいては「心より体」という優先順位なのだ。さらに、夫・涼太の異常な行動を過熱させるほど、その傾向は強まっていく。

 実際の不倫が「心か体か」はさておき、より多くの人が視聴するドラマで成功を収めたいのなら、女性の心を丁寧に切り取ったものでなければ難しいだろう。もし制作サイドの頭に「原作漫画がそうだから」という自主規制が働いているとしたら、あまりにもさびしい。

●『あなそれ』の波瑠はもっと評価されるべき

『あなそれ』は今後どうすれば、『昼顔』のように共感と話題を集められるのか。

 前述したように、「冷静に見守る」リアルではなく、「妄想を抱かせる」ファンタジーの要素を高めれば、その可能性は上がっていくのではないか。

 思えば『昼顔』は、映像の美しさと音楽のインパクトを追求することで、ファンタジーの世界観を高めていた。美しい自然の中で密会する紗和と北野、アトリエで激しく抱き合う乃里子と修(北村一輝)、ダイナミックな劇中歌とセクシーなエンディングを覚えている人は多いだろう。

 同様に『あなそれ』も映像や音楽の改善で、ある程度のファンタジーを生み出せるはずだ。「この女、絶対にあり得ない」ではなく、「私がもし美都だったら……」と考えたくなるような展開に期待したい。

 最後にひとつ。『あなそれ』は、いろいろ言われることも多いが、波瑠にほとんど非はないと擁護しておきたい。それどころか、バッシングを受けやすい現代において、経験のない難役に挑む姿勢は、もっと評価されてしかるべきと感じている。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)

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