北朝鮮、日本の米軍基地をミサイル攻撃の可能性…迎撃失敗の公算大、ソウルに戦火も

朝鮮戦争が再開されたら停戦ラインから40kmのソウルは火の海になる可能性

記事まとめ

  • 北朝鮮のミサイル発射は文在寅大統領の対話路線の阻害にはならないという
  • 朝鮮戦争再開ならソウルは火の海になるため、ミサイル発射の問題ではないらしい
  • また、ミサイルで日本が攻撃された場合、発射基地への攻撃は技術的にできないという

北朝鮮、日本の米軍基地をミサイル攻撃の可能性…迎撃失敗の公算大、ソウルに戦火も

北朝鮮、日本の米軍基地をミサイル攻撃の可能性…迎撃失敗の公算大、ソウルに戦火も

北朝鮮 金正恩氏(写真:KCNA/新華社/アフロ)

 北朝鮮は5月29日、今年だけで9度目になる弾道ミサイル発射を行った。すでに金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、実戦配備に向けて大量生産を指示している。

 一連のミサイル発射のなかで、5月14日に発射された「火星12型」は高度2111kmまで上昇。大陸間弾道ミサイル(ICBM)並みに30分も飛行し、ナホトカ東南の日本海に落下した。これだけ長時間飛ぶミサイルが、想定された軌道を逸れて日本の国土に落下する懸念はないのだろうか。軍事ジャーナリストの田岡俊次氏に聞いた。

「軌道を逸れてではなく、日本を狙ってくる可能性があります。アメリカが北朝鮮を攻撃すれば、朝鮮戦争の再開になるので、北朝鮮としては日本にある米軍基地に向けて撃ってきます。同盟というのはそういうもの、一長一短だということが、日本人にはあまりピンときていません。アメリカとの同盟を強化さえすれば、平和というわけではない。リスクも大きいのです」

 政府は都道府県に対して、北朝鮮のミサイルの飛来を想定した住民の避難訓練を実施するよう呼びかけ、それを受けて実施した自治体もある。ミサイルが飛んできたら、逃れることはできるのか。

「政府は、弾道ミサイル発射の警報が落下の4分前に出るかのように言っているが、これはまったくの誇大広告。これまでJアラートがミサイル発射情報を発したのはわずか2回。2012年12月12日と16年2月7日、人工衛星をテポドン2で打ち上げた時だけです。この時は、ロンドンの国際海事機関に、北朝鮮が発射の計画を通告。発射の日時や場所、第1段、第2段ロケットの落下予定海面も告知されていた。12年の時には発射の6分後に、16年の時には発射の4分後に、Jアラートがミサイル発射を伝えました。これは北朝鮮の通告を受けて、日本はイージス艦を出動させ、長距離レーダー、情報収集衛星などで必死に監視していたからです。通告のないミサイルの発射については、Jアラートはまったく役に立っていません。

『陸地に落ちてないから鳴らさなかった』という説明ですが、海上に落ちる場合は、海上保安庁がただちに航行警報を出すはずですが、それが早くて発射の13分後、14日のミサイルでも42分後でした。北朝鮮のミサイルは日本へは7〜8分、長くて10分で到達するから、警報は落下した後に出ています。北朝鮮が狙うのは米軍基地なので、一番危ないのは海上自衛隊です。横須賀、佐世保、岩国、三沢、厚木と全部、米軍と一緒にいるからです。本来なら基地内に穴を掘って避難訓練するでしょうが、意味がないとわかっているので、やらない。それを一般国民にやりなさいというのは、おかしい。危機感を煽って、いろんな予算を取るとか、法律を通すとか、その宣伝活動みたいなものでしょう」(同)

●ミサイル迎撃

 日本をめがけてミサイルが飛んできた時に、迎撃することはできるのだろうか。

「イージス艦が積んでいる迎撃ミサイル『SM-3』について、政府は75%の命中率だといっていますが、これも誇大広告。ハワイ沖での迎撃試験で、これまで4隻の日本のイージス艦がSM-3を積んで、カウアイ島のテストセンターから発射された模擬ミサイルを4隻で一発ずつ撃って、3回当たっているから75%だという話です。発射する場所、時間から、どこに落ちるか、全部データは事前にわかった上での試験なので、当たって当然。実戦では、いつどこからどこへ撃ってくるか、ミサイルの性能も推定でしかない。75%というのはインチキな数字で、野球のシートノックでフライを捕るのと同然です」(同)

 日本に着弾した場合、どの程度の被害が想定されるのだろうか。

「核の場合、プルトニウムを使っている初期型であれば、長崎に落とされたと原爆と同等でしょう。熱効果が半径3km、爆風によって家屋が倒壊するのが半径2km、放射線によって、1カ月以内に死亡するのは、だいたい1.8kmです」(同)

 日本の国土が攻撃された場合、自衛権は行使できるのだろうか。

「法的にはもちろんできます。ただ、ミサイルの発射された基地を攻撃することは技術的にできません。発射機がどこかわからない。今、攻撃能力を持とうと言っている人たちは、発射地点が事前にわかるかのように思っている。なぜそう思うかといえば、舞水端里(ムスダンリ)とか東倉里(トンチャンリ)から打っているのは人工衛星であってミサイルではないのですが、日本政府は『人工衛星と称するミサイル発射だ』と発表しているので、『ミサイルって、あんなものか』と思ってしまっているからです。70mもの塔を建てて、30mもあるロケットを何週間もかけて組み立てて、燃料を入れて打ちます。これは人工衛星だからそうなる。ミサイルは、あんな固定された場所で撃つものではなく、移動式のランチャーに乗せるため、もっと小さいもので、準備時間は10分くらいで発射する。どの場所から発射されるのかは、わかりません」(同)

 偵察衛星で、場所は察知できないのだろうか。

「偵察衛星は、常時1地域を監視できるものではありません。偵察衛星は、高度300kmから500kmくらいで、地球を南北方向に秒速7.9km、時速で2万8000kmくらいで回ります。地球は自転するので、各地の上空を1日約1回通過する。北朝鮮の上空を通るのは1日1分くらい。だから固定された目標、原子力発電所や飛行場、舞水端里や東倉里にあるような宇宙センターであれば写りますが、ミサイルは移動式発射機に載せて山間部のトンネルに隠しているので、どこにあるかわかりません。目標地点の緯度と経度を入力しなければ、トマホークは撃てません。

 敵基地攻撃は自衛権の範囲か否かの問題ではなく、軍事技術的にできないのです。日本が攻撃されれば報復として平壌などを爆撃するという考えもあるでしょうが、米国海・空軍と韓国空軍を合わせると、日本と段違いに大きい航空戦力なので、日本が加わっても微々たるものです。韓国は射程500kmの玄武(ヒョンム)2型弾道ミサイルを2000発近く持っているので、それを平壌などに発射するでしょう。日本が出る幕ではありません」(同)

●文在寅大統領の対話路線

 韓国では、北朝鮮との対話を求める文在寅大統領が誕生した。ミサイル発射は対話の実現を阻害するものとはならないのだろうか。

「北朝鮮の脅威は、韓国にとってはいつも目の前にあるものです。1953年に朝鮮戦争は休戦になりましたが、ソウルから40kmほどの停戦ラインのすぐ北には、朝鮮半島を横断する全長約240km、奥行き約30kmの地下陣地が朝鮮戦争中に中国軍によって築かれて、米軍の猛烈な爆撃・砲撃に耐えて戦線を保持しました。北朝鮮軍はそこにトラックに乗せた22連装の240mmロケット砲(射程60km)や、170mm長距離砲(同40km)など、2500門を配備している。戦争になったら当然それを撃ち込んできます。

 もしそうなれば、ソウルは火の海になります。ソウルは韓国の人口の約3分の1が住んでいるので、致命的な被害を受けることになります。今回ミサイルを撃ったから対話しないという話ではなく、戦争が再開すればどの程度の損害を受けるかという現実的な問題です。北朝鮮がまったく弱ければ話し合いをする必要はないが、戦力を強めれば、韓国としてはますます話し合いをする必要があるでしょう」(同)

(構成=深笛義也/ライター)

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