【元TBS記者によるレイプ疑惑】不可解な点が続々露呈…真相解明に求められる重要ポイントとは?

【元TBS記者によるレイプ疑惑】不可解な点が続々露呈…真相解明に求められる重要ポイントとは?

司法記者クラブで会見にのぞんだ詩織さん(左から2番目)

 元TBS記者でジャーナリストの山口敬之氏によるレイプを訴えている女性が、検察の不起訴処分に納得がいかないとして、検察審査会に申し立て、記者会見を行った。女性は、家族の反対があったとして姓は伏せたが、下の名前は「詩織」と明らかにし、顔の写真撮影にも応じた。

●被害者に対する深刻な人権侵害

 性犯罪の被害を、顔や名前を出して訴えるというのは、日本ではこれまで聞いたことがない。あえてその道を選んだ理由を、詩織さんはこう語った。

「こういう事件の被害者が、顔を隠してもらわないと話せない、という状況にすごく疑問を抱いた。警察でも『被害者らしく』と言われたことがある。被害者は、被害者らしくしていなきゃいけない。悲しく弱い存在でないといけない、隠れていなきゃいけない、恥ずかしいと思わなきゃいけない。そういう状態にとても疑問を感じました。私は何も悪いことをしていない」

 顔を上げ、質問者の目を見ながら、凜とした態度で答える様子からも、“かわいそうで不幸な被害者”にはならない、という強い意思が伝わってきた。また、自分が体験したり確認したりしたこととそうでないことを、きちんと分けて語る理知的な対応が印象的だった。

 記者会見での質問には、かなり政治的な意図を感じるものもあった。本件では、捜査段階で逮捕状は出ていて、高輪署の捜査員が空港で帰国する山口氏を待ち構えていたのに、急きょ「上」からの指示でストップがかかった。この点について、ある質問者は、山口氏が安倍晋三首相と極めて近しいことを挙げ、「私は、安倍首相と親しい記者だからだと思う」と繰り返したうえで、詩織さんの見解を問うた。

 これに対し詩織さんは、困惑した様子を見せながら、次のように答えるにとどめた。

「私の知り得ない上のパワーがあったと思う」

 だが、安倍シンパのネット住人から、彼女の記者会見は政治的な意図があるとされて、ひどい言葉が投げつけられている。

「嘘つき女」「被害者づら」「美人局」「ハニートラップ」……彼女は記者会見で、性犯罪の厳罰化などを含めた刑法改正を今国会できちんと審議することは求めていたが、共謀罪に関しては言及していない。それにもかかわらず、彼女が「共謀罪の審議をやめろ」と語ったなどというデマもネット上で拡散された。

 こうした層には、安倍政権にとって不利益をもたらす者はすべて外国人、と決めつけたがる人が少なくなく、今回もヘイトスピーチとしか思えないひどい言葉が飛び交っている。

 事態は、もはや大がかりなネットいじめであり、深刻な人権侵害と言わざるをえない。これに対するネット業界の対応は鈍すぎる。

●異例だった逮捕執行取りやめ

 今回の事件で特異なのは、逮捕状の執行直前に捜査方針が変更された、本件捜査の経緯だ。

「週刊新潮」(新潮社)の取材に対し、当時警視庁の刑事部長だった中村格(いたる)氏が「(逮捕は必要ないと)私が決裁した。(捜査の中止については)指揮として当然だと思います。自分として判断した覚えがあります」と答え、自身が逮捕にストップをかけたことを認めている。

 その対応は、本当に「指揮として当然」なのか。捜査を経験した人たちからは、疑問の声が挙がっている。

 たとえば、元検事の落合洋司弁護士によれば、通常、逮捕の方針は捜査を行っていた警察だけの判断ではない。

「告訴事件で逮捕する場合は、警察は検察に相談して了解をとる。それは、いったん逮捕してしまうと、(検察が処分を決めるまでの)時間が限られてしまうからです。(相談に対して)検察は、必要を感じた場合には、『もっと補充捜査をするように』などと助言します。特に、警視庁はそういう事前の相談は丁寧に行っています」

 つまり、検察のチェックと了解を得たうえで高輪署が逮捕状を請求し、裁判所はそれを交付したことになる。

「直前に人違いがわかったとか、容疑者が急病の場合ならともかく、(逮捕状の)執行寸前にとりやめ、というのは普通ありえない。しかも、本部の刑事部長が介入して(執行を)止めるなんて、異例中の異例」(落合弁護士)

 警視庁のベテラン刑事もこう言う。

「(任意の事情聴取ではなく)最初から逮捕状を取ったというのは、証拠に自信があったからだろう。その逮捕状の執行を直前に止められるなんて、今まで聞いたことがない。高輪署がやっていた捜査を、署長を飛び越えて本部の刑事部長がストップをかけるなんて、ありえない」

 そこに、「安倍首相と親しいから」という疑念が生じる余地がある。

「週刊新潮」などによれば、民主党政権の時代に官房長官秘書官を務めていた中村氏は、自民党が政権を奪取した後、菅義偉官房長官に続投を懇願。それが受け入れられ、その後も菅氏の覚えめでたく、将来の警察庁長官にと評価されているとのこと。中村氏は、菅官房長官や安倍首相への忠義立てから、「忖度」したのではないかとの噂も立つが、真相はいまだ闇の中だ。

 衆議院本会議で民進党の井出ようせい議員が、捜査経緯について検証することを求めたのに対し、松本純国家公安委員長は「警視庁において必要な捜査が尽くされ、また検察庁で不起訴処分となっていることなども踏まえ、検証を行うことは考えておりません」として、検証を拒否した。

 いったい、なんのための公安委員会だろう。

●不可解な当局の対応

 国家公安委員会のホームページには、その存在意義がこう書かれている。

「この制度は、戦後新たに導入されたもので、国民の良識を代表する者が警察を管理することにより、警察行政の民主的管理と政治的中立性の確保を図ろうとするものです」

 森友学園や加計学園をめぐる問題で、「忖度やら圧力やらが働いて、行政機関は安倍首相と親しい人には特別の対応をする」という疑念が広がっているなか、警察活動の「政治的中立性」にまで懐疑的な視線が向けられている。そういう今、検証に乗り出さなくては、公安委員会が存在する意味がないではないか。

 刑事部長の介入の後、高輪署の捜査員は担当を外れた。告訴事件は検察へ書類送致しなければならないと刑事訴訟法で決められており、本件は捜査一課が捜査を引き継いで、東京地検に書類を送致された。それから約11カ月後、同地検は「嫌疑不十分」として不起訴処分を決めた。

 これについても、落合弁護士は「検察はずいぶん長く(未処理のまま)事件を持っていた、という印象」と語る。検察官は、書類送検されてから3カ月以内に起訴・不起訴を決めて処理をするように言われており、1カ月超えるたびに、それが遅れている理由や事情を上司に報告しなければならない、という。処分を決めるまでに11カ月というのは、確かに長い。

 詩織さんは、担当検事から次のように言われた、という。

「準強姦は、第三者がその現場を見ているか、(犯行場面の)ビデオがあるなど、直接的な証拠が必要だ」

 これでは、準強姦は扱わないと言っているに等しい。

 しかし現実には、そのような直接的な証拠がなくても、さまざまな間接証拠を積み上げて、有罪判決に至っている事件はいくつもある。

 検察官は、いったいどういう意図で、このような発言をしたのだろうか。詩織さんの代理人弁護士は、不起訴の理由については検察側から説明を受けていないという。検察がきちんと説明していないのでは、告訴した側は納得がいかないのは当然だろう。

●重要となる“補助弁護士”の存在

 山口氏は、Facebookで「法に触れることは一切していません」と主張している。詩織さん宛てのメールで性行為があったことは認めているようなので、警察や検察では、同意があったという主張をし、それが調書化されているだろう。

 一方の詩織さんは、ホテルの防犯カメラ映像、ベルボーイの証言、さらにはホテルに至るまでのタクシー運転手の証言など、ホテルに入る段階では、自分1人では歩くこともできない状態にあったことを示す証拠を、警察がいくつも収集しているのを確認している、という。

 そのほかにも、さまざまな証拠があるはずである。

 検察審査会法によれば、検察審査会には捜査機関が集めた証拠をすべて取り寄せ、検察官に説明をさせ、担当の警察官など真相解明に必要な人を呼び出して調査することも可能だ。できるだけ丹念な調査を行い、検察官の処分が妥当かどうかを明らかにするとともに、その理由をできるだけ丁寧に説明してほしい。

 そのためにも、大切なのは補助弁護士の存在だ。検察審査会は、法律上の問題点やそれに関する証拠整理などについて、弁護士である審査補助員から助言を受けることができる。審査補助員は議決書の作成にもかかわる。

 双方の主張が対立し、それぞれの主張に沿う証拠があって、法律的な観点に沿ってそれらを評価したうえでの判断が迫られる本件でも、補助弁護士が委嘱される可能性がある。委嘱は、弁護士会の推薦に基づいて行われる。

 審査補助員の人選によっては、結論にさまざまな臆測や疑念を呼びかねない。かつて、小沢一郎衆院議員の政治団体に関する捜査報告書に虚偽の記載をした検事やその上司が不起訴処分となったのはおかしいとして、市民団体が検察審査会に申し立て、強制起訴にはならない「不起訴不当」となった際には、自身が「不適切な行為」で退職した元検察幹部が、審査補助員に委嘱された。

 今回の事件も、政治的な立場によって見方が分かれ、さまざまな臆測や疑念を招く要素がある。それだけに、推薦の依頼があった場合には、弁護士会は人選にはよくよく注意をしてもらいたい。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

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