韓国「反日」新政権、日本と強固な友好関係構築へ…北朝鮮による核攻撃はあり得ない

韓国「反日」新政権、日本と強固な友好関係構築へ…北朝鮮による核攻撃はあり得ない

韓国の文在寅大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(右)(写真:AP/アフロ)

 反日・反米で親北朝鮮・親中国といわれる文在寅(ムン・ジェイン)氏が韓国大統領に就任して約1カ月がすぎた。選挙中には、日本メディアによる「文候補が大統領になれば、朝鮮半島には赤化統一された反日国家が生まれ、日本はますます核の脅威にさらされる」などといった報道も散見された。

 実際、文大統領の誕生によって、日韓関係はこれまで以上に冷たい時代に入るのだろうか? そのカギを握る人物の1人とされるのが、韓国・世宗大学教養学部教授の保坂祐二氏だ。保坂氏は2003年に日本から韓国に帰化した日系韓国人であり、文陣営の一翼を担うとともに「文大統領のブレーン」「対日政策のキーマン」ともいわれる。

 その保坂氏は、「文大統領が反日というのは誤解」と主張する。文大統領は、16年7月に日韓両国が領有権を主張している竹島(韓国名:独島=トクト)を訪れ、その目的を「8月15日の光復節(日本による植民地支配からの解放記念日)を前に、領土主権の重要性を考える」と語っている。また、文大統領は、従軍慰安婦問題をめぐる「日韓合意」の再協議を主張している。保坂氏は、それらの真意について以下のように語る。

●「竹島上陸=反日」は違う?韓国では愛国的行為

「韓国の政治家であれば誰でも、独島には時々行っています。日本からすれば反日に見えるかもしれませんが、韓国では愛国的行為であって、日本に見せるというよりは国内で評価を受けるためという意味合いのほうが強いです。

 慰安婦問題ですが、日韓合意を結んだ朴槿恵(パク・クネ)前大統領の政党『自由韓国党』の大統領候補だった洪準杓(ホン・ジュンピョ)さんも、見直しを主張していました。大統領候補だった5人全員が『日韓合意の再交渉』を掲げていて、逆にいえば選挙の争点にはならなかったのです。世論調査などでは、『日韓合意は再交渉しなければいけない』という声が70%以上を占めています。

 15年12月に日韓合意が結ばれる直前まで大統領府で外交首席を務めていた朱鉄基(チュ・チョルギ)さんが、政権交代後に記者会見で『もっと細かく詰めなくてはいけない部分を詰めないで合意した。アメリカの要請が強かったので、非常に早くやってしまった。これは間違っていたのではないか』という旨の発言をしています。

 こういう問題は被害者の感情が一番大事ですが、元慰安婦の方々の声を聞かずに話を進めてしまったのです。朴槿恵さんという人は意思疎通を図らない人で、長官(日本での大臣に該当)と1対1で話したことがほとんどない、という考えられない状況もありました。

 日本の内閣制度とは違うため、韓国では大統領の“鶴の一声”で物事を決めることも可能ですが、重要な政策に関して説明をしないことが多かったために国民はすごくフラストレーションが溜まったのです。

 日本でよく言われる『説明責任』を、あらゆる問題で果たさなかった。つまり、一方通行だったんです。韓国では、日韓合意の見直しは、日本への不満というより朴政権の失策、つまり国内の問題として取り上げられています。

 韓国では、政権が代わると前政権の政策を検証するということが、よく行われます。朴政権が誕生したときも、その前の李明博(イ・ミョンバク)大統領が行った四大江への河川工事で逆に水質が悪くなったということで、監査が行われました。それと同じように、朴政権が行ってきたことの検証の一環として、日韓合意が問題になっているのです」(保坂氏)

●文政権、実際には日本との友好関係を強化か

 また、保坂氏は「文政権は、実際には日本との友好関係を強化する」という見方を示す。

「日韓合意に関しては、尹炳世(ユン・ビョンセ)外交部長官の交渉の中身などが問題になるでしょう。日韓合意は、一般的な国際合意と違ってサインをしたり判子を押したりということがなく、文書も公表されていません。ただ、全世界に放送されるテレビの前で合意の内容を発表した。そこには、合意の内容が書かれた紙があったと思うのです。

 韓国の弁護士団体『民主社会のための弁護士会』の宋基昊(ソン・ギホ)弁護士が外交部を相手取った訴訟で、ソウル行政裁判所は文書を公開するように言いわたしています。それらの一連の動きは、韓国国内の問題を検証するという意味合いであり、決して反日ではありません。

 文大統領は『日本とはシャトル外交をしたい』と、私にもはっきりとおっしゃっていました。今回、日本を訪れた特使の文喜相(ムン・ヒサン)国会議員も、その話をまず出しました。これは『日本といい関係を結びたい』という気持ちの表れであり、『日本との友好関係をしっかりと築きたい』という思いからです」(同)

 文大統領は、アメリカが韓国に配備を進める高高度防衛ミサイルシステム(THAAD)についても、明確に反対の意思を示していた。すでに、一部でTHAADの導入が行われているが、今後はどのように対応するのだろうか。

「THAAD配備という非常に重要な問題が、朴さんが力を失ってレイムダック化しているときに、秘密裏に進められてしまった。そのため、国民からの反発が非常に強いのです。

 THAAD配備に関する世論調査では、『賛成50%、反対50%』と出る場合もありますが、より細かい調査では『賛成30%、反対30%、わからない30%』で、いずれも拮抗しています。

 THAADに反対する人たちは、『これは防御兵器ではない』と言います。湾岸戦争のときに、迎撃ミサイルということでパトリオットがサウジアラビアに配備されましたが、結局はアメリカがイラクに先制攻撃した後でイラクのスカッドミサイルを落とすためにパトリオットは使われました。『先制攻撃ありきで、それに対する反撃を防ぐのだから 、THAAD も単なる防御兵器ではない』という考えです。文大統領も、そういう視点でTHAADに反対してきました。

 韓国の保守系の人たちは、『北朝鮮が先に攻めてくるからTHAADは必要なんだ』と言っていますが、反対派はその話をまったく信じていません。『北朝鮮は先に攻めてなんかこない』というわけです。仮に北朝鮮が韓国を先制攻撃すれば、その瞬間にアメリカが北朝鮮を潰してしまいますから。

 また、北朝鮮が朝鮮半島の統一を望んでいるとしても、“廃墟”になった韓国をほしいわけではないですよね。“無傷”の韓国がほしいわけですから、先に核攻撃してくるということは、まずあり得ないと思います。

 確かに、これまで北朝鮮との軍事境界線近くにある延坪(ヨンピョン)島が砲撃されたり、哨戒艦が魚雷で沈没させられたりしたことはありましたが、北朝鮮が全面戦争を仕掛けてくることはないでしょう。

 北朝鮮が弾道ミサイルを撃ったり核実験を行ったりするのは、アメリカとの交渉を有利に進めたいからであって、戦争を起こすためではない。これは、韓国国内では多くの人が理解しています」(同)

●米朝開戦なら300万以上の韓国人が死の危険に…

 そして、保坂氏はTHAAD配備の意味と韓国国内の切迫した雰囲気について、以下のように語る。

「アメリカは、朝鮮半島付近にロナルド・レーガンとカール・ビンソンという2隻の原子力空母を派遣していました。護衛艦などをすべて合わせると、米軍はトマホークを1700発撃ち込める態勢を整えていたようです。

 しかし、米軍の先制攻撃によって、仮に北朝鮮で核爆発が起きれば朝鮮半島全体が核で汚染されてしまい、中国や日本にも多大な影響を与えることになるため、それはアメリカとしてもできない。だからこそ、平和的に交渉しなければならないのです。

 そうした事情から、文大統領は選挙中から『まず北朝鮮に行って対話する』と言っているわけです。戦争を起こさずに、いかに平和的に北朝鮮に核兵器を放棄させるか。文大統領はそれを目的としているわけで、親北朝鮮というわけではありません。『アメリカと十分に相談した上での訪朝』とも言っていましたが、韓国の保守派は自分たちに都合のいいところだけを抜き出して非難していたわけです。

 THAADのレーダーは、北朝鮮だけではなく中国国内を監視するためにも使われます。今は韓国から800kmくらいしか見られませんが、2〜3年後には進歩して3000kmまで見られるようになるでしょう。しかも、アメリカ本土から韓国に配備したTHAADのレーダーを制御できるようになるといわれています。これは結局、中国とアメリカの軍事的競争に韓国が巻き込まれるということです。

 THAADが一部配備されて中国の非常に強力な経済報復が始まりましたが、文政権になってから、報復は少し和らいできています。韓国としては、中国と戦うなんて、考えるだけでも大変なことです。仮にそうなれば、戦場になるのは朝鮮半島ですから。

 韓国と日本では、同じ『保守』『革新』という言葉でも、意味はまるで違います。国民の命がかかっているからです。たとえば、ソウルは休戦ラインから約40kmで平壌は約140km。いわば、ソウルは人質に取られてしまっているわけです。仮にアメリカが先制攻撃を仕掛ければ、そのときは北朝鮮は韓国に撃ち込んできます。そうなれば、韓国では300万人以上の死者が出る可能性があります。そのあたりの切迫した感覚は、日本とはまるで違います。逆にいえば、慣れてしまっている部分もありますが、多くの韓国人は切実な問題であることを理解しています。

 また、言い換えると、一歩間違えれば韓国が先頭に立って戦争の尖兵になるという危惧があるわけです。もちろん、日韓米が一体化して動くことが考えられますが、有事は朝鮮半島で起こります。日本にもミサイルが飛んでいく可能性はありますが、本格的に戦場になるのは朝鮮半島です。

 それに、THAADは中長距離ミサイルに対する防御であり、北朝鮮が韓国にミサイルを撃ってきても、距離が近すぎて THAAD は実際にはまったく役に立たないのです。THAADは高度40km以上150km以下で入ってくるミサイルを迎撃するものですが、北朝鮮と韓国は近いので、高度40km以下でも撃ち込まれる可能性が十分にあるわけです」(同)

 後編では、THAADをめぐる韓米関係や高い支持率を誇る文大統領の素顔について、さらに保坂氏の話をお伝えする。
(文=深笛義也/ライター)

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