韓国、米国の犠牲になることを決断で中国から報復も…韓国人が見抜いた「ニセ保守」の正体

韓国、米国の犠牲になることを決断で中国から報復も…韓国人が見抜いた「ニセ保守」の正体

韓国の星州に配備されたTHAAD(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

 6月8日付記事『韓国「反日」新政権、日本と強固な友好関係構築へ…北朝鮮による核攻撃はあり得ない』では、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権をめぐる従軍慰安婦問題の「日韓合意」や高高度防衛ミサイルシステム(THAAD)配備の是非について、韓国・世宗大学教養学部教授の保坂祐二氏の話をお伝えした。

 保坂氏は2003年に日本から韓国に帰化した日系韓国人であり、文陣営の一翼を担うとともに「文大統領のブレーン」「対日政策のキーマン」ともいわれる人物だ。

 後編では、THAADをめぐる韓米関係や支持率82%を誇る文大統領の気さくな素顔について、さらに保坂氏の話をお伝えする。

●THAAD配備で韓国はアメリカの犠牲になる?

 まず、アメリカによる韓国へのTHAAD配備については「朴槿恵(パク・クネ)前大統領の負の遺産であり、韓国がアメリカの犠牲になるという危惧がある」と保坂氏は語る。

「THAADは、韓国南部の星州(ソンジュ)にあるロッテのゴルフ場に国有地と交換するかたちで配備されました。そこからソウルまでは、約300kmあります。THAADの迎撃範囲能力は200kmなので、ソウルを守ることができません。一方、平沢(ピョンテク)にある米軍の烏山(オサン)空軍基地が約200km。そのため、『THAAD配備は米軍を守るためではないか』とも言われています。また、THAADの目的は迎撃よりもレーダーによる監視という見方も強いです。

 そうした懸念は、韓国国防省からも出ていました。朴槿恵さんは深く考えない人なので、はじめは中国一辺倒だった外交姿勢が急にアメリカ一辺倒になりました。それに対して、『中国からの報復があるかもしれない』とわかっていながら、一切の対策を立てなかった。外交能力がゼロだったとしか言えません。

 韓国の利益を守りながらアメリカの利益にも寄与するというのが、外交です。しかし、朴政権は韓国がアメリカのために犠牲になるということを承諾してしまったも同然です。そのため、多くの韓国国民は納得しない。そういう事情もあって、朴政権はメチャクチャになってしまったのです。

 大統領選挙で、そうした朴政権に対する批判を口にしていたのは、『国民の党』の安哲秀(アン・チョルス)さんでした。しかし、『THAAD配備に反対』というのが同党の方針だったのですが、保守派の票を得たいがために、討論のなかで『THAADは配備しなければならない』と主張を変えてしまったのです。

 一時期、安さんは文大統領と同程度の約40%の支持率があったのですが、この一件で『一貫した哲学がない』ということで支持率を落としていきました。一方、文大統領は『政権発足後の国会で、きちんと討議し直す』ということで、はじめから終わりまで一貫していたのです」(保坂氏)

 ちなみに、アメリカのドナルド・トランプ大統領は「THAAD配備のための10億ドルは、韓国が負担すべきだ」と発言している。

「これは、無知ゆえの発言ではないでしょうか。韓国とアメリカの間で結ばれている『在韓米軍地位協定』のなかで、『韓国は敷地を提供し、アメリカは武器を提供する』と明記されています。つまり、THAADに関しても『費用はアメリカが持ち、韓国は敷地を提供する』というのは、最初から決まっていたことなのです。

 THAAD配備を強行した場合、中国の反発を免れることはできません。そうなると、トランプが習近平国家主席に対して言っている『あなたたちが責任を持って北朝鮮問題を解決してほしい』という主張と矛盾します。中国が裏でアメリカに『THAAD配備を止めてくれ』と言っている可能性もありますが、それを無視して強行するというのは、外交的にはあり得ない選択です。そういう意味でも、韓国はTHAAD配備について検討し直す必要があるのではないでしょうか」(同)

●韓国人は朴槿恵を見て「ニセ保守」に気づいた

 今回の政権交代は、保守から革新へという流れも生んだ。李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵と2代続いた保守政権から革新系の文政権に移行したことについて、韓国国民はどう受け止めているのだろうか?

「安さんの『国民の党』も中道左派なので、有権者の70%以上は革新系に投票したことになります。韓国国民は、朴政権を見ていて『不正を行ってでも既存の権力と財力を守るだけの人たちが保守であって、それは韓国を亡国に導くニセ保守なんだ』ということを見抜いてしまったのです。

 たとえば、2014年に発生したセウォル号の転覆事故。沈んでから3年もたって、やっと引き上げられました。3年前に引き上げることができたのに、なぜやらなかったのか。当時の朴政権にとって、大きな打撃になるからです。そして、残された9体の遺体のうち、引き上げてみたら遺体として形が残っていたのは2体くらいで、あとの方々は骨までバラバラになってしまっていました。3年間も海の中に放っておいたわけですから、形が残っているはずはありませんでした。

 国民は怒り心頭です。『そういう非人道的なことをやるのがニセ保守である』と目の前に突きつけられたわけですから。酒の席では、そういう話をしたら止まりませんよ。前の選挙で朴さんに投票した人の中には、『今回は文在寅に投票した』という人も多くいます。だから、『保守から革新に変わった』というより、旧来の保守が没落したのです。

 日本では『アカ』という言葉は使われなくなりましたが、韓国では最近まで左翼のことを『アカ』と呼んでいました。アメリカのバラク・オバマ前大統領なども、もし韓国で政治をやれば『アカ』と呼ばれることでしょう。文大統領も心ないニセ保守から『アカ』と悪口を言われていたのですが、演説や他候補との討論を聞いて『この人は保守的な価値観を持っているじゃないか』と感じる人が増えたのです」(同)

 保坂氏は、文大統領のある発言がポイントになったと指摘する。

「アメリカがシリアを攻撃したり、レックス・ティラーソン国務長官が韓国を訪れて『北朝鮮への先制攻撃のオプションは排除しない』と言ったりしたので、韓国では4月の半ばごろにものすごく危機感が高まりました。選挙中の討論会でその話題になったとき、『もし戦争になったら、自分がまず銃を取って戦う』と真っ先に言ったのが文大統領です。

 彼は、軍隊経験があります。慶煕大学在学中に民主化運動に加わって逮捕されて、軍隊に送り込まれたのですが、特殊工作を行う『特別戦士』という所属で、特に過酷な訓練をするところでした。そこで、とても優秀な成績を収めて、当時の全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領から表彰されています。全といえば、光州(クァンジュ)で民主化要求デモが起きたときに陸軍の特殊部隊を送り込んで市民を大量虐殺した『光州事件』の張本人ですよ。

 表彰されたのは光州事件が起きる前ですが、文大統領の発言は革新系から『なんでそんなことを言うんだ』と批判されました。しかし、そういう発言を通じて、国民には『この人は完全な左派ではなく、保守的なところもある』ということが伝わっていったのです」(同)

●支持率82%、文大統領の気さくな素顔とは

 では、就任後の文大統領の韓国国内での評判は、どうなのだろうか?

「支持率は82%です。ほかの候補に投票した人たちも、今は文大統領の支持に回っているということです。文大統領は権威主義的なところが一切なく、目線が低いのです。先日は、月に1日くらい使える休暇を利用して、90歳になる母親に会いに行きました。

 韓国では、労働者が権利として持っている有給休暇も『上司の機嫌を損ねるから』という理由で、実際にはなかなか使えないことが多いのですが、大統領が進んで休暇を取ることで、国民に『有給休暇を使って休みなさい』と促しているのです。

 故郷では、近所の人たちや子どもたちと気さくに話をしたり、一緒に写真を撮ったりしていました。警備員たちは、ガードするのに大変だったのではないでしょうか。

 文大統領の奥様も、ほかの党の代表たちが訪れたときには手料理でもてなしています。今までは『大統領令夫人』という呼び方だったのですが、『令夫人と呼ばないでほしい』と言って、今はマスコミなども『大統領女史』と呼んでいます。これらは決してポーズで行っているのではなく、本当に人と人との関係を大事にする人格だからなのです」(同)

 国民との意思疎通がなかった朴政権とは大違いのようだ。文大統領の姿勢にならうかたちで、日韓間の壁が低くなることを願いたい。
(文=深笛義也/ライター)

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