田中将大、大乱調の原因は精神面か…決め球が狙い打ちされる理由、上原浩治と何が違う?

田中将大、大乱調の原因は精神面か…決め球が狙い打ちされる理由、上原浩治と何が違う?

ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

 ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手がおかしい。長いシーズンの序盤で、ちょっと調子をつかみきれていない……そんな程度の変調とは違う。明らかに、「何かが」おかしい。抜群の安定感を誇っていた田中投手だが、今シーズンは早い回での大量失点が目立つのだ。

 田中投手は、2015年に右肘の骨棘除去のための関節鏡視下手術を受けており、「その影響では?」と考えてしまうが、すでに1年以上が経過している上、昨年は手術後とは思えない素晴らしい成績を収めていた。

 しかし、今年は違う。これまで12試合に先発して5勝6敗、防御率はアメリカンリーグ最低の6.55だ(6月11日現在、以下同)。4月から5月にかけて5連勝を飾ったものの、その後は自己ワーストの5連敗。特に今シーズンは本塁打を打たれることが多く、被本塁打17(投球回66)はメジャーリーグにデビューした14年の15(投球回136回 1/3)をすでに上回っている。

 クオリティ・スタート(QS:先発投手が6イニング以上を投げ、かつ3自責点以内に抑えること)が計算できるとされている田中投手に、何が起こっているのか。

 そこで、大洋ホエールズ(現・横浜DeNAベイスターズ)の遊撃手として活躍した元プロ野球選手の山下大輔氏に話を聞いた。山下氏は、現役引退後、横浜の監督や東北楽天ゴールデンイーグルスのコーチを務めたほか、ロサンゼルス・ドジャース傘下のルーキーリーグチームの守備コーチも経験している。現在はNHKでメジャー中継の解説を務めるなど、国内外の野球に精通している人物だ。

●なぜ決め球のスプリットがホームランに?

「もう1カ月以上勝ち星に恵まれていませんが、今シーズンはナイスピッチングといえる試合は5月27日(日本時間、以下同)のオークランド・アスレチックス戦(7回 1/3を5安打1失点13奪三振)ぐらい。5勝しているといっても、かなり打たれている試合が多く、内容的によかったわけではありません。勝ち星は、ヤンキース打線のおかげといえるでしょう」(山下氏)

 確かに、5勝のうち自責点1以内に抑えたのは2度。あとの3試合は3点以上を失っている。コントロールよく丁寧にコースをついて三振の山を築く……そんな本来のピッチングとは、ほど遠い状況なのだ。

「肘の具合が本当はどうなのか、直接聞いていないので断言はできません。しかし、ピッチングを見る限りは、肘を気にしたりかばったりしている様子は見られません」(同)

 メジャーでは、先発投手に目安となる球数制限が設けられており、だいたい100球前後で次の投手に交代となる。そのため、前述のQSのように6回3失点が先発投手の最低限の仕事といわれるわけだ。

「肘の手術後も、田中投手は3点程度で抑えることが多かった。しかも、フォアボールを出さないことでも有名でした。一球一球、きちんとコントロールされていたのです。

 しかし、今シーズンは早い回で打ち込まれることが多く、特にホームランを打たれることが格段に増えています。しかも、決め球のはずのスプリット・フィンガード・ファストボールをスタンドに運ばれているのです。

 その原因は、インコースのストレートの使い方にあると見ています。今シーズンは、特に右打者のインハイに真っ直ぐを投げ込むことができていないのです。そのため、配球がアウトコース一辺倒。当然、バッターは狙いを定めやすくなります」(同)

 田中投手の持ち味といえば、キレのいいスプリットを低めにコントロールすること。これまでは、ボール球のスプリットにメジャーの打者が空振りするシーンが目立った。

「先に述べた5月のアスレチックス戦では、負け投手になったものの7回1/3を投げて13奪三振でした。このときのピッチングは、ほかの負け試合とどう違うのか。実は、違うのはピッチングの内容ではなく相手のバッターです。

 この試合も、相変わらず変化球が主体でアウトコースに球を集めていました。インコースには、ほとんど投げていません。それでも、アスレチックスのバッターは変化球を次々と空振りしてくれたので、三振が取れた。田中投手の投球が特別によかったわけではなく、アスレチックス打線が弱かったのです」(同)

●遅い直球でも抑える上原浩治とは何が違う?

 田中投手は“火の出るような豪速球”の持ち主ではない。そのため、変化球で打者のタイミングをずらしながら、アウトローで空振りや見逃しを誘うというのも真骨頂のひとつのはずだが……。

「メジャーのバッターは背筋が強く、リーチがあるため、かなり外の球でも振ってきます。また、アウトコースは体から遠いためにボールを長く見ていられます。逆に、インコースは長い腕をたたまなければならないので打ちにくいわけです。

 今シーズン、田中投手は変化球について『ちょっと抜ける感じ』と言っていますが、抜けて甘いコースに入ってきたボールをいいバッターは確実にとらえます。しかも、インコースは攻めてこないから外に狙いを絞りやすい。つまり、外角狙いで甘い変化球に対応できるような強打者は、田中投手の投げるボールはすべて狙えるわけで、特に今シーズンは浮いたスプリットが狙われています。

 勝った試合も、投げているボール自体は基本的に変わりません。ただ、勝つことで何かが変わればいいのですが、そういう流れも生まれていないのが苦しいところでしょう」(同)

 内角、あるいはど真ん中に思い切って直球を投げるような組み立てができれば、変化球が多少抜けても、打者に与える印象や影響は違うという。

「たとえば、シカゴ・カブスの上原浩治投手。ストレートは130km台後半で、お世辞にも速いとは言えません。しかし、それでもメジャーの強打者相手にど真ん中に投げたりします。ある意味、開き直ったピッチングです。バッターからすると、そういうストレートがあるからこそ変化球が生きるのです。

 アウトローだって、近めに来るストレートがあるからこそ、より遠くに感じる。ところが、今の田中投手はインコースに投げない。そのため、変化球もアウトコースもバッターにとっては脅威でないわけです。しかも、変化球は甘く、ストレートも威力を感じない。これでは、メジャーの強打者には狙い打ちされて当然です」(同)

 なぜ、今シーズンは内角の直球をうまく使うようなピッチングが鳴りを潜めてしまったのか。

「肉体的にも精神的にも疲労があるのだと思います。たとえば、メジャーでは9人並ぶバッター全員が強打者で、気が抜ける場面などない。そんな試合を何年も続けているわけですから。

 日本のプロ野球に来るアメリカの選手たちは、すでに第一線を退いているかこれからメジャーを狙うような選手か……。つまり、バリバリのトップ選手ではないわけですが、それでもパワーは日本人選手の比ではないですよね。メジャーのクリーンナップといえば、それ以上のバッターがゴロゴロしており、下位打線のバッターでもすごいパワーを持っています。

 たとえ無理な体勢で打ったとしても、スタンドインさせるのがメジャーの選手です。そんな対戦が続くメジャーでの日々は、日本時代とは比べものにならない疲労度でしょう」(同)

●田中将大、今シーズンの復活の可能性は?

 田中投手は、ピッチングで大事にしていることや自分の強みについて、常々「気持ち」と言ってきた。グローブに「氣持ち」という文字を書き込んでいることは有名だ。山下氏は、「今こそ、自分が一番大事にしてきた“気持ち”という原点に立ち返ることが重要」と語る。

「今シーズンは、負けたときのコメントが技術的なものばかりです。強い気持ちと高い技術に裏打ちされた総合的な実力があるからこそメジャーで勝ってきたのに、技術の話しかしない。

 気持ちの部分で違う流れが生まれれば、アウトコース一辺倒だった配球が変わり、ピッチングの組み立ても変わるでしょう。もともと力のある選手ですから、復活の目は十分にあると思います」(同)

 次の登板は12日のボルチモア・オリオールズ戦の予定だったが、首脳陣の判断で13日のロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム戦となった。ジョー・ジラルディ監督は、その理由について、今シーズンすでにオリオールズとの対戦が二度あること、中5日にすることで調整時間が増えることなどを挙げており、チームとしての“配慮”が見て取れる。

 田中投手のピッチングにいい意味で“変化”が生じるかどうか、注目すべき試合となりそうだ。
(文=石丸かずみ/ノンフィクションライター)

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