加計の学部新設、文科省未認可のまま今治市が133億円助成…市民が住民監査請求へ

加計の学部新設、文科省未認可のまま今治市が133億円助成…市民が住民監査請求へ

今治市の監査委員会に住民監査請求書を提出する住民

 6月12日、四国愛媛県今治市(菅良二市長)の住民、黒川敦彦氏ら4名は、加計学園が同市で予定している獣医学部新設をめぐる問題で、同学部建設用地(総額37億円相当)を市が無償で譲渡し、建設補助金最大96億円の支給を決めたことが違法として、同市の監査委員会に住民監査請求を行った。

 森友学園と加計学園をめぐる問題では、政治家や官僚の縁故主義が法治国家のなかで大手を振って跋扈している実態が浮き彫りとなった。たとえば森友問題では、安倍首相夫人の昭恵氏への“忖度”の結果、「安倍晋三記念小学校」(のちに変更)に国有地がただ同然で払い下げられ、関与した財務省職員らが刑事告発されている。

 加計問題では、安倍首相が自ら「腹心の友」と呼ぶ加計孝太郎氏が理事長を務める加計学園が、2007年から計15回にわたり認められなかった獣医学部の新設(岡山理科大学今治キャンパス)申請が、国家戦略特区諮問会議で今年1月20日に認可された。

 今治市はその認可を受け、加計学園と「岡山理科大学今治キャンパスに関する基本協定書」を交わし、建設補助金の支給を明記した。その一方で、両者の間で「解除条件付土地無償譲渡契約書」が締結され、16.8ヘクタールの市有地を無償で譲渡することが決められた。3月の同市市議会は、これら基本協定書と譲渡契約書を承認し、基本協定書に基づく最大96億円の補助金支出を確認するとともに、加計学園は譲渡を受けた土地において獣医学部建設に入って行った。

●住民、違法と訴える

 黒川氏ら住民の監査請求の主張は、次のような内容である。

・加計学園による獣医学部新設は国家戦略特区諮問会議で認可されたものの、大学学部新設の認可権を持つ文科省に対しては現在認可申請中の段階である。

・そのような現状で、市が加計学園に土地を無償譲渡したり補助金の決定を行うことは、法令に基づきその事務を行わなければならない地方自治法に違反している。無償譲渡や補助金支給を取り止めるべきである。

 住民監査請求は、自治体の財務会計上の不当・違法な事務に対して、その自治体の居住者や、法人で働く住民が異議を申し立てすることが認められた地方自治法上の権利である。自治体は予算や決算などを議会でチェックする仕組みを持っているが、住民監査請求は、自治体の財務会計に不当・違法なことがあるときには、住民が行政や議会とは別個の組織である監査委員会に訴え、その是非を問うことのできる住民参加の重要な仕組みである。

 監査請求は監査委員会で審査され、訴えに理由があると認められれば自治体の方針を質し、もし理由がないと棄却されたり、訴え自体を却下された場合、住民は、裁判所に行政訴訟で訴えることもできる。

 黒川氏はこう指摘する。

「今治市のような小さな自治体で、37億円もの土地の無償譲渡を行い、さらに96億円の補助金を獣医学部建設に投入する。ほとんど議論がないままに決まるには、あまりにも大きな出費だ。建設費等の192億円の半額を県(32億円)と分担するということだが、県はまだ決めていない。」
「しかも建設費の内訳は加計学園任せであり、あまりにも杜撰だ。同学園は獣医学部を運営した経験はなく、一気に学生数1200人(注1)もの日本最大級の獣医学部設置を行う。閣議決定で条件付けされたアジアトップクラスの学部運営をできるという根拠がなく、誘致による経済効果などには疑問がある。」
「以上のように、今治市の決定は国家戦略特区が認可した18年4月までの開校ありきで進められている」

 さらに黒川氏は、今治市の動きは地方自治法に違反すると指摘する。

「加計学園が学部認可権限を持っている文科省に獣医学部認可申請を出したのが今年3月31日であり、現在、8月に結論を出すメドで審査中であり、まだ認可されていない。全国的にも今注目され論議となっており、審議の行方はわからない。認可が正式に決まっていない加計学園への無償譲渡や補助金支給を決定するのは、地方自治法の第2条15項に違反する」

「私が共同代表を務める『今治加計学園獣医学部問題を考える会』で住民に電話アンケートを行ったところ、住民の62.6%は100億円を超えるような助成をしてまで大学を誘致することには反対という結果だった」

●縁故主義の下での巨額の公金が支出

 朝日新聞がスクープした文科省内の「総理の意向」文書を、菅義偉官房長官は「怪文書」扱いを行いし、文科省も「見つからない」と発表するなかで、5月17日には前川喜平前文科事務次官が記者会見で文書の存在を証言した。その後も新聞や週刊誌などの報道で文科省現職員から存在を確認する発言が相次ぎ、6月9日、文科省は再調査することを発表した。

 同文書には、18年4月開校に向けて「最短のスケジュールの作成」「獣医学部新設を1項に限定するのは政治的判断」「四国には獣医学部がないので、その点の説明がつく」「文科省だけでこの案件を処理することは、難しいことはよくわかる。(略)農水省などの協力が必要」など、内閣府からの働きかけがあったことが記載されている。そして、これまで加計学園が15回も申請を行い、断られてきた獣医学部新設が、今年1月20日には、経済特区諮問会議で認可された。

 今回の住民監査請求や提出資料を見ると、今治市では同認可を受けて補助金支給のための前出・基本協定書と市有地の譲渡契約(仮)を2月13日に交わし、3月3日には3月議会がこれを正式に承認し、補助金支給を決め、すでに獣医学部建設は始まっている。

 このように今治市も、内閣府と同様に18年4月の開校ありきでこの件を進め、巨額の出費に対する市民への説明や議会での議論も十分に行わないまま、加計学園はフライングスタートするように工事を始めている。なお、今治市は内閣府とこの件で12回協議していたことがわかっている。

 しかし、もともと「国家戦略特区構想は、地域を限定した大胆な規制緩和や税制面での優遇によって、民間投資を引き出し『世界で一番ビジネスがやりやすい環境』を作るとしてアベノミクスの成長戦略として位置づけられてきたが、(略)『特区』とは名ばかり」(5月19日付日刊ゲンダイ)である。今回の獣医学部の事例でみると、今治市の特区で実績をつくったからといって、特区での実績を全国に普及させることはできず、従来にない先進的な獣医学部といっても、その実態すらはっきりしていない。

 結局、一連の経緯から浮かび上がってきたのは、安倍首相が「腹心の友」に「総理の意向」のもとで「加計学園に獣医学部をつくらせたい」ということであり、便宜供与以外の何物でもなかったといえる。

 今後、獣医学部の認定については、文科省の「大学設置・学校法人審議会」で審議される。この設置審議会は、学生数の確保や研究施設の整備など文科省が定めた複数の設置基準に沿って書類審査し、必要に応じて建設予定地の実地審査をする。「判定保留」ということもある。国家戦略特区の獣医師学部新設の閣議決定4条件(注2)として示された「獣医師はもっと必要だというデータ」がどう示されるかなど、国民に納得されるかたちで審議され、結論が下されるかに注視する必要がある。

 多額の公金支出にからむ大学学部新設の認可が、縁故主義の象徴である「総理の意向」の下に忖度され、安易に決定されることがあってはならない。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)

【注1】獣医学部医学科:入学定員160名、6学年で960名
獣医学部看護科:入学定員60人、4学年で240名 

【注2】
(1)既存の獣医師要請ではない構想の具体化
(2)ライフサイエンスなど獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになる
(3)既存の大学・学部では対応が困難
(4)近年の獣医師の需要の動向

関連記事(外部サイト)