小栗旬『CRISIS』、革命的傑作ゆえの致命的欠点

小栗旬『CRISIS』、革命的傑作ゆえの致命的欠点

「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班 | 関西テレビ放送 カンテレ」より

 火曜21時から放送されている『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(フジテレビ系)は、小栗旬が主演を務めるアクションドラマだ。

 警察庁警備局長の鍛治大輝(長塚京三)が設立した特捜班は、格闘技に長けた稲見朗(小栗旬)、かつて潜入スパイをしていた田丸三郎(西島秀俊)、天才ハッカーの大山玲(新木優子)、爆発物処理のエキスパートの樫井勇輔(野間口徹)、そして班長で取り調べの名手の吉永三成(田中哲司)の5人によるスペシャリストチーム。

 毎回、カルト教団やテロリストといった反社会的組織が起こすさまざまな事件に特捜班が立ち向かう姿が描かれるのだが、見どころはなんといっても、テレビドラマとしては破格のアクションシーンだろう。

 第1話冒頭の新幹線内部でのアクションや、第6話のホームセンターでの対決場面など、見応えのあるシーンが多数展開されている。なかでも話題となったのが、第8話の仲間の刑事を救うために特捜班が敵のカルト教団の施設に殴り込みをかけるアクションシーンで、この場面は8分強ノーカットで撮影された。

 小栗旬と西島秀俊はクランクインの1年以上前から、フィリピンにルーツのある武術、カリ・シラットの稽古に参加していたという。

 脚本は金城一紀。映画化もされた『GO』(講談社)で直木賞を受賞した人気小説家だ。テレビドラマは『SP 警視庁警備部警護課第四係』(フジテレビ系)、『BORDER』(テレビ朝日系)に続いて3本目。

 カリ・シラットを用いた見応えのあるアクションは『SP』から、刑事として任務に取り組むなかで正義と悪の境界が混濁していき、心がダークサイドに蝕まれていく人々の姿を描いた文学性は、小栗旬が主演を務めた『BORDER』から、それぞれ引き継いだテーマとなっている。

 アクションを主体にしたエンタメ性と内省的な文学性の融合が本作の魅力だが、『銭の戦争』(フジテレビ系)などのドラマを手がけ、苦戦続きのフジテレビドラマのなかで孤軍奮闘しているカンテレ(関西テレビ)の制作だからこそ、可能だったといえよう。

 先日発売された『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班 ドラマオフィシャルガイドブック』(KADOKAWA)には番組関係者の証言が多数掲載されているが、ほとんどの人が、この企画がいかにテレビドラマとしては破格で革命的な作品なのか、そして数々のシーンを実現するにあたってどれだけ苦労したかを語っている。

 確かに、日本のドラマで難しいアクションを主体とした物語に正面から挑み、それが地上波の21時から放送されているというのは奇跡的なことだろう。必要以上に声を張らない抑制された芝居も緊張感があっていい。

●組織犯罪ばかり、テロの描き方に違和感も

 だが、これだけ高いハードルを越えてきたからこそ、気になることもある。それは、本作最大のテーマといえる「テロ」の描かれ方だ。

 本作で描かれるのは、地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教を思わせる神の光教団や、世直しを目論む高校生が主力メンバーの平成維新軍、稲見が潜入捜査を行った暴力団・仁愛工業などによる組織犯罪だ。

 ユニークなところでは、ミサイル開発のために航空宇宙工学の教授を狙う某国の暗殺者も登場。このエピソードなどは、北朝鮮のミサイル発射が続いているなかでの放送ということもあって独自の緊張感があった。

 ただ、公安が舞台のためか、組織犯罪の話ばかりなのがもったいない。

 第7話が放送された5月23日。イギリスのマンチェスターで爆弾テロ事件が起きた。狙われたのは、人気歌手のアリアナ・グランデのコンサート会場。59人が負傷し、22人の命が失われた。

 6月4日にはロンドンの中心部でテロが起きており、7人が死亡、48人が負傷している。犯人はイスラム原理主義の影響を受けた青年だといわれている。

 その意味で、神の光教団や平成維新軍と通じるところはあるのかもしれないが、組織的なつながりは希薄で単独犯も多い。そして、犠牲になった人々の多くは政治家やセレブではなく、カフェにいるような一般市民である。

 すでに、世界中で民間人が無差別に殺される自爆テロが連鎖している。背景にあるのは移民の問題と富の格差で、2020年の東京オリンピックに向かうなかで外国人観光客が急増している日本でも、いつテロが起きてもおかしくない。

『CRISIS』がテロを描こうとしているのは、そんな時代に対する誠実な対応だが、登場するテロリストはどこか行儀よく見えてしまい、現実の凄惨さに追いつけていない。第6話の冒頭、田丸と稲見は過去にあった地下鉄爆破事件を回想して、こう語る。

稲見「テロの予兆を感じるだけで誰もかれもが怪しく見えて平穏だった日常にひびが入る」

田丸「そこに本物のテロが起きれば日常は完全に破壊される。壊れたら最後、二度と同じ形には修復できない」

 このセリフには大きな説得力があるが、肝心の物語は大衆不在の話に見えてしまうのだ。アクションや芝居が素晴らしいからこそ出てくるぜいたくな不満かもしれないが、テロという難題を扱っている野心作だからこそ、現実と拮抗したドラマを描き切ってほしい。
(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)

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