策に溺れたハリルホジッチ、意表を突いた選手起用が裏目に…連携ずれ、無駄にスタミナ消費

策に溺れたハリルホジッチ、意表を突いた選手起用が裏目に…連携ずれ、無駄にスタミナ消費

ヴァヒド・ハリルホジッチ日本代表監督(「Wikipedia」より)

 6月13日、2018 FIFAワールドカップ(W杯)・アジア地区最終予選が行われ、グループB首位の日本はイラクと対戦した。

 イラクの政情不安から、中立地のイランで開催された一戦は、夜になっても気温が下がらず、37度を超す猛暑の中での死闘となった。

 香川真司をはじめ、キャプテンの長谷部誠、山口蛍など、中盤の選手にけが人が続出し、どのような布陣で臨むのか、ヴァヒド・ハリルホジッチ監督の采配が注目された。

 所属クラブで目覚しい活躍を見せ、代表チームでも存在感を放って本田圭佑から右サイドのレギュラーを奪った久保裕也が初めて左サイドで先発。7日のシリアとの練習試合で右インサイドハーフをこなして高い評価を得ていた本田が右サイドに入った。またダブルボランチに遠藤航と井手口陽介という初めての組み合わせで、多くの解説者も意表を突かれた先発メンバーとなった。

 システム自体は、代表チームがよく慣れている4-2-3-1ではあったが、意思疎通が取れていない感じは否めなかった。特に、相手のゴールに迫ろうというシーンで、何度もパスミスが生じた。受ける側が足元にボールを求めていたのに、供給する側ははるか前方にパスを出すといった具合に、まったくかみ合っていなかった。

 このような連携ミスは、攻撃のリズムをつくれないばかりか、無駄な走りを繰り返すことになり、じわじわと選手たちのエネルギーを消費させた。それは、後半のスタミナ切れを生む要因となったように思われる。

 試合前、ある程度相手に攻めさせて、カウンター攻撃を仕掛ける戦術を提案したハリルホジッチ監督に対し、本田を中心とした選手たちは自分たちでボールを保持して試合の主導権を握る戦術を求めたといわれている。だが、実際の試合では、日本が得意だったはずのパスサッカーは影を潜めた。

●策に溺れたハリルホジッチ

 かつて日本は、「パスは回るが点が取れない」と揶揄された。また、身体能力の高いアフリカや南米のチーム、フィジカルが強い欧州のチームと当たると防戦一方の試合展開となることが多かった。そのため、接触を避けたパスサッカーをしてきたのだが、2014年のW杯ブラジル大会での惨敗を受けて、個人のレベルアップなしにパスサッカーをしていても世界とは戦えないことを痛感し、パスサッカーからの脱却を図った。

 その経緯を踏まえ、パスサッカーに戻ることを推奨するわけではないと前置きする。それでも、今回のような猛暑の中で試合をする場合には、スタミナの消耗を最小限に抑えるためにボール保持率を高める、いわゆるポゼッションサッカーを採用することも柔軟に検討するべきではなかっただろうか。

 ハリルホジッチ監督は試合前、選手たちに「イラクは後半30分を過ぎると足が止まる傾向がある」と告げていたという。おそらく、それを計算して後半30分ごろから、脚の速い浅野拓磨やドリブルで仕掛けられる乾貴士を投入するプランだったのだろう。

 だが、そのプランはもろくも崩れた。井手口が脳震盪のような状態で立ち上がれなくなり、今野泰幸を投入。今野は、この最終予選で攻守に活躍し、ベテランの存在感を見せ付けていたが、なぜかベンチスタートだった点は、多くの関係者から疑問の声が上がっている。井手口の出来も悪くはなかったが、結果的に今野を最初から出しておけば、と批判される原因となった。

 さらに、疑問視されているのは、後半25分にトップ下の原口元気を下げて倉田秋を入れたことだ。この頃から、酒井宏樹が足を引きずる仕草を見せており、交代させるなら酒井が先だった。結局、この判断が裏目に出る。後半27分、完全に動けなくなった酒井(宏)の目の前でイラクの同点ゴールを決められ、勝利を逃す原因となった。

 失点については、キーパーの川島永嗣とディフェンスの吉田麻也の意思が噛み合わず、その隙を突かれたものであるが、酒井(宏)のサイドを攻められた挙句の結果だった。結局、酒井(宏)を下げて酒井高徳を投入せざるを得なくなったが、そこで交代枠を使い切り、攻撃選手を入れられずに終わった。

 ハリルホジッチ監督の読みどおり、イラクは後半30分過ぎに足が止まり始めた。だが、それ以上に日本の選手たちが動けなくなった。慣れない左サイドでほとんどボールに絡めず、無駄な走りを繰り返した久保は足が痙攣してほとんど動けなくなり、激しくマークされた本田も足を痛めて動きが鈍くなった。それでも、最後までピッチに立ち続けなければならなかった姿は、痛々しすぎた。

 奇襲ともいえる采配は、成功すれば称賛されたのかもしれないが、今回に限っては「策士策に溺れる」との表現があてはまるだろう。

 引き分けによって勝ち点1を得たため、かろうじてグループ首位の座は守ったが、後は2位のオーストラリア、3位のサウジアラビアとの対戦が残る。いずれのチームも、日本に勝てばW杯本大会に出場できる可能性が高いだけに、激しい戦いになるのは避けられないだろう。

 日本は8月、日本で開催されるオーストラリア戦に勝てばW杯本大会への出場が確定する。過去にW杯予選で日本はオーストラリアに勝利したことはないが、ここで批判を封じ込めるような戦いぶりを見せてほしいものだ。
(文=江田和夫/スポーツジャーナリスト)

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