AKB総選挙と深夜ドラマ『豆腐プロレス』がシンクロ…「マイクアピール」で乃木坂46に宣戦布告か

AKB総選挙と深夜ドラマ『豆腐プロレス』がシンクロ…「マイクアピール」で乃木坂46に宣戦布告か

「豆腐プロレス|テレビ朝日」より

 6月17日に開催され、指原莉乃の3連覇で幕を閉じた今年の「第9回AKB48選抜総選挙」(以下、総選挙)。

 開催前に「乃木坂46の勢いに押されて下がり目の今、テレビ中継する意味はあるのか?」といわれ、直前にも「荒天によるイベント中止と無観客開催」というトラブルに見舞われるなど、ネガティブな話題が続出。しかし、終わってみればテレビ中継は平均視聴率13.2%、瞬間最高視聴率16.2%(いずれもビデオリサーチ調べ、関東地区)と、まずまずの結果を残した。

 一昨年の平均視聴率18.8%、昨年の同17.6%からは下がったが、人気メンバーの卒業や立候補辞退など世代交代の真っただ中だけに、グループ運営サイドも放送局のフジテレビもホッとしたのではないか。

 この意外な好結果は、AKB48とフジテレビのブレない姿勢が生んだものだった。

●AKB総選挙とシンクロする『豆腐プロレス』

 今回も、運営サイドは総選挙を盛り上げようとしていた。ファン向けの『AKB48公式ガイドブック2017』(講談社)だけでなく、テレビ誌、エンタメ誌、漫画誌などの一般誌に特集やグラビアを掲載。人気メンバーだけでなく、知名度の低いメンバーにもスポットを当てようとしていた。

 さらに象徴的だったのが、1月から異例の2クール放送されている深夜ドラマ『豆腐プロレス』(テレビ朝日系)。同作は、指原莉乃、渡辺麻友、山本彩らの人気メンバーを外し、多くの若手メンバーをフィーチャーし、予想を上回る本格的なプロレスを披露している。その『豆腐プロレス』が、総選挙の内容とシンクロしていたのだ。

 今も話題の中心となっているのは、各メンバーのスピーチ。20位・須藤凛々花が「まさかの結婚宣言」をすると、すぐさま11位・高橋朱里が苦言を呈す。さらに、9位・岡田奈々は指原莉乃・峯岸みなみを暗に批判し、風紀委員長宣言。52位・込山榛香は「『AKB48は大丈夫か?』って言われるんですけど、大丈夫です。私は今のAKB48が大好きです!」と姉妹グループや坂道グループへのライバル心を見せるなど、さまざまな戦いの図式が見られた。まるで、プロレスラーのマイクアピールを見ているようだ。

 彼女たちのマイクアピールは、いわば「いかにもプロレス的かつテレビ的で、女性グループらしい口ゲンカ」。どんなグループでも女性同士の口ゲンカは批判を受けやすい半面、話題性十分。実際、須藤のマイクアピールは、卒業した大島優子や高橋みなみも巻き込んだ口ゲンカに発展している。

 これをプロレスに置き換えると、ヒール(悪役)の須藤、指原、峯岸に対するベビーフェース(善玉)の岡田、高橋朱。『豆腐プロレス』でも毎週メンバー同士の戦いを描いているが、今後のAKB48はプロレスのような対立構図を激化することで盛り上がるのかもしれない。

『豆腐プロレス』に撮影協力している業界最大手・新日本プロレスのチャンピオンであるオカダ・カズチカも、人気No.1の内藤哲也もヒール。「実績・人気抜群だが敵も多い」指原が頂点に君臨するAKB48と状況は似ている。ちなみに、3位・松井珠理奈はマイクアピールの締めくくりで、新日本プロレスのベビーフェース・棚橋弘至の決めゼリフ「愛してま〜す!」と叫んでいた。「私は正攻法で戦っていきます」という宣言なのかもしれない。

●イベント中止のアクシデントが追い風に

 今回の総選挙だけでなく、これまでもAKB48は戦いの図式を前面に押し出してきたし、ドラマ『マジすか学園』(テレビ東京系、日本テレビ系)シリーズは、そのシンボルだった。メンバーはアイドルらしい笑顔だけでなく、落ち込み、泣きわめく顔などの人間くさい姿を見せて、私のような非ファン層の注目をも集めてきたが、時代は確実に変わっている。

 今や世間の注目は、AKB48から乃木坂46に移行。乃木坂46は、CMへの出演ラッシュ、写真集売り上げの上位独占、握手会の人気爆発など、年齢性別を問わず、ファンを獲得し続けている。ファン層の面では、男性に偏りがちなAKB48現メンバーとの違いは明白であり、そもそも乃木坂46から戦いの図式や人間くささは伝わってこない。

 戦いの図式より仲のよさ、人間くささより自然体。人々の好みが乃木坂46のイメージに移行するなか、今回の総選挙中継は、AKB48からの「やっぱり私たちはこれで勝負するぞ!」というリスタート宣言に見えた。それは、今や前を行く乃木坂46への宣戦布告のようでもある。

 その意味で、イベント中止や無観客などのアクシデントは、AKB48にとってピンチどころか追い風だったのではないか。無名の荻野由佳が速報1位になったこと以外、これといったトピックスを見つけられずにいたフジテレビにしても渡りに船。テレビ中継では、終始このアクシデントを異例の事態としてテロップ表示していたほか、MCが繰り返し強調することで、ファン以外の一般層を盛り上げていた。

 フジテレビは6年連続で総選挙を中継しているが、「今年はやめたほうがいい」という声にもブレずに放送を決行。ほとんど演出をせず“生中継”に徹したスタンスも含め、『めちゃ×2イケてるッ!』の大不振で1ケタ視聴率が定着した土曜夜に結果を出せたことは意義深かったはずだ。

 損害額や現地の混乱ぶりを考えると、運営サイドが最初からアクシデントを予期していたとは考えにくい。しかし、近年なかったほどAKB48の文字がメディアを彩る様子を見ると、間違いなくポジティブに作用している。

●プロレス好きをうならせる『豆腐プロレス』

 ただ、誤解なきよう書いておくと、『豆腐プロレス』はアイドルドラマの枠を超え、見応え十分。AKB48のファンだけでなく、私のようなプロレス好きをうならせるドラマに仕上がっている。あらためて振り返ると、「約5カ月かけて行われた、総選挙への壮大な前振りだった」ともいえるだろう。

 必死にトレーニングを積み、感情を爆発させるような演技を見せたメンバーたちは、総選挙を終えた今、何を思っているのか。賛否はあれど、久々にAKB48の話題が盛り上がっていることで、彼女たちの努力がある程度は報われたのかもしれない。

 総選挙2トップの指原と渡辺が抜ける来年の総選挙は、誰が見ても苦戦必至。誰が勝っても初センターとなるが、「これから1年間で、どんなバトルを見せてグループ全体を盛り上げていくのか」のほうが重要だろう。

『豆腐プロレス』の放送は残り2回で、王者決定トーナメントの決勝戦に残ったのは松井珠理奈と宮脇咲良。ドラマの話ではあるが、この勝者が来年の総選挙1位にもっとも近いのかもしれない。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)

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