学力は中学レベル…大学教育、崩壊の実態 想像を絶する学生&教員の質劣化

学力は中学レベル…大学教育、崩壊の実態 想像を絶する学生&教員の質劣化

「Thinkstock」より

 4月、一橋大学講師の川口康平氏が香港科技大学に移籍することを自身のツイッター上で発表し、一橋大の2倍以上の年収になる「1500-1600万円」を提示されたと明かし話題を呼んだ。さらに、「大学内にファカルティハウスがあって、年収の10%を支払えば、100平米ぐらいの3LDKに召使い部屋と駐車場が付いた部屋を借りられるそうです」「キャンパス内に保育所が完備されており」などと日本の大学との違いを指摘し、次のように警鐘を鳴らした。

「これまでにも『PhDがみんな海外に行く』『海外就職して帰ってこない』などの形で問題は生じていたのですが、このように近年では『国内の人材が海外に出ていく』例もでてきています」

 日本の大学といえば、少子高齢化に伴う入学者減少や大学数の増加による過当競争により、年々経営が厳しくなりつつあるとも指摘されており、有名大学での講師雇い止め問題などもたびたび報じられている。

 では、やはり日本の大学教員の待遇は、世界と比較して低いといえるのであろうか。『高学歴女子の貧困』(光文社新書)の共著者で実践女子大学非常勤講師の大理奈穂子氏に話を聞いた。 

――給料に対する不満の背景には、比較対象が海外の大学の賃金水準にあることも挙げられますね。

大理 高度経済成長期から続いていることですが、日本では、欧米先進国に比べてアカデミズムの価値が低く扱われています。OECD加盟国のなかで、高等教育に費やす国費の比率は日本がワーストワンです。この違いが大学教員の給料にも反映されています。高等教育の水準を維持することは国家として相当な負担になると思いますが、欧米先進国では、高等教育にはそれだけの価値があると認識されているのです。

 欧米先進国に対して、日本でアカデミズムの地位が低いのは、産業界にアカデミズムへのニーズがないこともあるでしょう。さらに小泉政権で大学の設置基準が緩和され、自治体による街おこしの手段、あるいは短大や専門学校、また小中高校の経営戦略の一環として、全国各地に大学が新設されました。安直な取り組みでしたね。その結果、アカデミズムの質が低下して、大学が専門学校のようになりつつあります。 

 ある私立大学では、研究実績の乏しい東南アジア人の英語教員を相当数雇って、日常会話の教育にシフトしています。その大学の日本人専任教員は、大学側から「学問は求めていない」という趣旨の方針を言い渡されたと聞きました。

――今は選ばなければ、どこかの大学に入れる時代になり、4年制大学卒は高学歴ではなくなりました。

大理 ヨーロッパ各国の大学進学率は18歳人口に対して30〜40%です。大学進学に値する学力がないと入学できませんが、日本では学力がなくても入学できます。それに欧米先進国の国家首脳は修士号や博士号を持っていますが、日本の首脳は学士です。欧米先進国と違って、日本では学部卒が社会を支配しているといえるでしょう。高等教育を軽視し続けた結果、それだけの差ができてしまったのです。

――大学生の学力が低下していることは昔から指摘されていますが、大学が増えたことでいっそうひどくなっていますね。

大理 私は私立大学の福祉学科で教えた経験があります。安倍政権の成長戦略で介護は成長産業に位置づけられていますが、その担い手になる人材を育成する福祉学科の学生の学力には驚きました。地を這うような低レベルで、高校生のレベルにも達していなくて、中学1〜2年のレベルでした。しかも、勉学に対するモチベーションも極めて低い。他の学科に比べて、あまりにも学生の質が低かったのですが、福祉学科の学生も卒業すれば「4大卒」には違いありません。

――高齢化が進むにつれて、介護職の役割はますます重要になっていきます。悩ましい現実ですね。

大理 多くの大学で福祉学部や福祉学科が新設されましたが、学力の不十分な学生が大学に入るための受け皿になってしまった傾向も見られます。恐るべき学力の低さといわざるを得ない実態があります。

●大学教員のレベル低下も

――教員の質についてはいかがですか。

大理 看護学部の教員が問題かもしれません。看護師不足を背景に、看護大学や看護学部がどんどん新設されていて、教員も不足しているため、看護学部の教員は売り手市場に置かれています。しかし、論文作成の基本を知らなかったり、英語の論文作成ができなかったりと、学問の基礎が欠けている人が少なくないようです。翻訳会社に英訳を丸投げするという研究者として恥ずかしい行為も、頻繁に行われていると聞きます。

――学生募集の広告塔として有名人を教授に招聘する傾向も、一向に見直されませんね。むしろ強まっているのではないでしょうか。

大理 芸能人、スポーツ選手、ジャーナリストなどが教員になると、その分、ポストが減ってしまうのです。非常勤講師を始めとする非正規雇用の研究者は皆、同じ立場の人に研究実績で負けないように努力を重ねて、専任のポストを目指しているので、なんの研究実績もない有名人にポストを奪われてしまうと、ものすごくモチベーションが下がってしまいます。ライバルに研究実績で負けるのなら納得できても、知名度でポストを奪われるのは不条理です。

 ある女子大学では、客員教授に就任した芸能人に一般の専任教員の2倍も広い研究室を与えていますが、その芸能人がどのぐらいの頻度で講義するかを尋ねたら、年に6回だそうです。

 広告塔として有名人を招聘することなど、海外の大学では考えられません。さらに、有名人に惹かれて入学するような学生が多いのも、高等教育を受ける水準に達していなくても容易に入学できてしまう日本固有の風潮だと思います。

――このままでは大学はどんどんアカデミズムから離れて、専門学校のようになってしまうではないでしょうか。

大理 安倍政権が進めている専門職大学構想が良い例です。学校教育法改正案が成立すれば平成31年度から創設されるスケジュールですが、専門職大学はテクニシャンに特化した高等教育機関という位置づけです。大学教育を「机上の空論」と見なすような産業界の要請を受けた施策なのかもしれません。

 専門職大学の教員構成は、実務家教員を約4割起用するという方針が示されていて、教養教育は重視されていません。日本では大学という区分でも、たぶん国際的には大学として見なされないのではないでしょうか。

――今日は多岐にわたるお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。
(構成=小野貴史/経済ジャーナリスト)

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