プログラミング、誰もが「知らないでは済まされない」時代突入…未習得だと職失う恐れ

プログラミング、誰もが「知らないでは済まされない」時代突入…未習得だと職失う恐れ

プログラミング作業のイメージ

 どんな業界や職種であっても、ビジネスがIT抜きでは成り立たない時代だ。今年の春、文部科学省は「小学校でのプログラミング教育必修化」を盛り込んだ学習指導要領改定案を発表した。現時点では3年後の「2020年以降の実施」で、教科化ではなく既存科目での活用の位置づけだが、より若年期からのプログラミング教育をめざしている。

 そもそもプログラミングとは、コンピュータプログラムを作成することにより、コンピュータを企画意図のように動かす作業だ。「Java」(ジャバ)や「Ruby」(ルビー)といったプログラミング言語があり、社会インフラとなった「インターネットの検索サイト」も、インターネット上の「ショッピングモール」も、こうした言語で成立している。

 プログラミングはこれまで、IT企業のプログラマー(プログラム制作者)やシステムエンジニア(システム開発業務の管理者)向けの話と思われていたが、一般ビジネスパーソンにとっても「知らないでは済まされない」時代になってきた。今回は、その視点でプログラミングの重要性を解説したい。

 なお、とりわけ変化の激しい業界なので(しばらくたって記事を読まれる人は特に)、記事の執筆時点での内容とご理解いただきたい。

●IT社会の深化で、起こりうる「波」

 一般向けのプログラミング教育や、企業のプログラミング研修を手がけるdiv社長の真子就有氏は、次のように実情を語る。

「世界的にIT人材不足が懸念されています。表現や時期は微妙に異なりますが、米国では『2020年までに約100万人のITエンジニアが不足する』、日本では『2030年までに約78万1000人のIT人材が不足する』と、それぞれ発表されています」

 日本の場合は、16年6月10日に経済産業省が発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」に載っている。それによると「現在のIT人材不足数は約17万人」(推計)で、筆者も当時執筆したビジネス記事では、この数字を紹介してきた。それが「19年から、より一層不足数が拡大」し、前述の約78万人にもなる見通しなのだ。

 この背景には「IT需要の拡大」と少子高齢化による「若年人口の減少」がある。IT需要は、「大企業が国別に進出してきた海外拠点業務の共通IT化」のような大型のIT投資もあれば、悪質なハッカー対策としてのセキュリティー強化、個別企業のホームページ作成、事業活動のブランドサイトの構築、大小のアプリ開発など、多種多様な案件がある。

 IT業界で関連職種を担う以外の人も、たとえば販売・マーケティング業務を担当していれば、販促ツールとしてのアプリ、さらにはプログラミング作業の進行と向き合っているかもしれない。

 有料のプログラミング教育「TECH::CAMP(テックキャンプ)」などの事業を運営する真子氏は、「日本ではプログラミングの重要性が理解されていない」と危機感を持つ。今後、一般ビジネスパーソンは、どうプログラミングと向き合えばよいのだろうか。

●「記者体験会」に参加して感じたこと

 筆者が6月下旬に参加したdivの記者会見は、通常とは違いユニークな内容だった。最初に「記者体験会」として、1時間のプログラミング実体験を実施したのだ。参加したのは出版社の編集者や記者などメディア関係者で、旧知の編集者の姿もあった。

 体験会では、あらかじめインストールされた構成内容の画面表示に従って操作し、Rubyのプログラミングを作成すればサービスが完成するものだった。「座学ではなく徹底的に手を動かして覚える」という同社の方針に基づき、参加者はひたすら画面と向き合う。わからなければ、そのつど親切な若手インストラクターが教えてくれる――という内容の1時間だった。

 残念ながら、筆者は「牛の歩み」で完成まで至らなかった。普段、ウィンドウズで作業しているので、使用したマックとの操作の違いに戸惑い、操作を進めるうちに何度もインストラクターの方にお世話になった。冷や汗をかきつつの体験会だったが、面白かった。次回行う時は、もう少し進歩するのではと感じた。

 記者体験会の後は、説明会が行われた。そこで登壇した1人は、IT企業でカスタマーサポート(CS=顧客対応)業務を担う20代の若者だ。テックキャンプの卒業生だそうだが、「もともと文系で昔からプログラミングは好きではなく、今でも好きではない。それでも受講した」という話が興味深かった。現在の仕事では「CSツール改善業務」に携わっており、実作業を担うプログラマーやエンジニアの気持ちが理解できるようになったという。

 プログラミングは知っておいて損はない。ビジネス誌の取材でも「副業で稼ぐ」というテーマで、プログラム技術を習得した人に話を聞いてきたが、「将来性を感じた」「このままではマズイと危機感を持った」との理由で習得し、稼げるようになった人もいた。

 ところで、人工知能(AI)やロボティクスなどテクノロジーの進歩で、プログラミングも自動で行える時代は来るのだろうか。

「決められたプログラムを書くだけの単純作業はすでに自動化されつつありますが、新たに人間のアイデアを完全に理解してプログラムにする作業が自動化されるのは、数十年先だと思います」(真子氏)

 米国の調査機関が「現在の仕事が20年後に機械に奪われる可能性」を調べたところ、たとえば「経理は97.6%」に対して「経理部長は6.9%」。「調理師は96.3%」に対して「シェフは10.1%」という結果が出た。指示された内容をこなす作業は機械に置き換えやすいが、相手の意図を理解して部下に指示を出すマネジメントや、来店客が喜びそうなメニュー考案といった、広い意味での「クリエイティブ系の仕事」は機械に置き換えにくいようだ。

●「IT対応」できなかった人の末路

「プログラミングへの一定の知識や技術が、近い将来のビジネスでは欠かせない」という前提で、習得を怠るとどんな職業人人生になるのだろうか――。必要以上に煽る気はなく、冷静に考えたい。40代以上がかつて体験した「IT化」の歴史と、実例を踏まえて検討する。

 1990年代半ばの「Windows95」によるIT化の波により、各職場の執務風景がそれまでとは一変した。従業員には会社が購入したパソコンが貸与され、社外への連絡はメールで行うようになり、社内・部内の連絡もイントラネットなどで行われるようになった。基本はOJT(実務教育)で、IT化への対応を迫られたのだ。

 筆者は当時、大手メーカーで企画や編集の仕事をしており、紙媒体でもIT化の波を受けてデジタル入稿を行うようになった。面倒見のよい社風だったので、取引先のベテランデザイナー(紙媒体の制作者)にも、パソコンを使ったデジタル入稿の講習会を実施した。

 だが、なかにはデジタル入稿の技術を習得できなかった年配デザイナーもいた。本人は「これ以上、迷惑をかけるわけにはいきません」と職を辞し、取引も途絶えてしまった。

 少子高齢化が進む現在では、年齢別構成の未来予測に基づくと「2024年に全国民の3人に1人が65歳以上になる」というデータもある。一方で「生涯現役で働きたい」という人の数は増えている。

 ただし、定年世代の「就労意欲」と現状の求人はミスマッチがある。「現役時代に培った業務の延長線上の仕事がしたい」求職者と、「特別な技術がない限りは、単純作業などの補助的な業務が多い」求人内容というギャップだ。

 この視点や、冒頭で紹介した「小学生から〜」の話で考えると、プログラミング技術というのは有望だ。ただし、自らは独学で技術を会得した真子氏は、こうも釘を刺す。

「プログラミング技術習得の時間は、プロトタイプをつくれるレベルになるまで100時間、エンジニアとして働けるレベルになるまでは1000時間が目安です。かつての私のように独学で、周囲に質問できる人がいない場合は、この5倍かかるでしょう」

 たとえば「そこまで根気が続く自信はないが、プログラミング自体は気になる」という人には、1日講習会に参加する手もある。少なくとも生涯現役をめざすには、「なんとか逃げ切ろう」ではなく「IT社会の進展についていくしかない」のだ。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)
1962年生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。
足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。
最新刊に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(プレジデント社)がある。これ以外に『カフェと日本人』(講談社現代新書)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。
E-Mail:takai.n.k2@gmail.com

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