火葬場不足で死後1週間遺体放置…遺体ホテル急増が波紋、「直葬」で親族間に確執も

火葬場不足で死後1週間遺体放置…遺体ホテル急増が波紋、「直葬」で親族間に確執も

「Thinkstock」より

 家族のみで故人を送る「家族葬」、故人の写真を3Dプリントで立体化する「遺人形」など、近年の葬儀業界はサービスの多様化が進んでいる。

 こうしたなかで、数年前から利用者が増えているのが、民間による「遺体安置所ビジネス」だ。通称「遺体ホテル」と呼ばれ、住宅街などでひっそりと営業しているという。

 いったい、遺体ホテルとはどのようなサービスなのだろうか。

●遺体ホテル、どんな人が利用している?

 誤解のないように最初に説明しておくと、遺体ホテルといっても宿泊施設を営んでいるわけではない。

「これまでも、病院や葬儀社の会館、お寺など、遺体を預かる“安置所”はありました。遺体ホテルの場合、遺体を預かることに特化した施設という点に特徴があります。葬儀社の会館やお寺と違い、遺体ホテルでは一般的なセレモニーを行いません」

 こう語るのは、葬儀コンサルタントの吉川美津子さんだ。吉川さんによると、遺体ホテルの利用者は、それぞれの家庭事情によって多岐にわたるという。

「マンション住まいのために遺体の安置スペースがない家庭、セレモニーは行わず火葬のみで済ませたいと考えている人、先に火葬だけ済ませてあらためて葬儀を行いたい人。また、安置だけとはいえゆっくりと面会・お別れできるスペースを希望している人などがいます」(吉川さん)

 遺体ホテルでは、遺体を預けている間は24時間面会できる施設が多く、親類や友人が訪れても職員が対応してくれるため、葬儀前の遺族の負担が軽減される。こうした点も、遺体ホテルのメリットだそうだ。

 遺体ホテルのニーズが高まっている背景には、親子が同居していない家庭の増加が関係しているという。

「親子が別々に暮らしていると、ご遺体の行き場が自宅である必要がなくなってきます。たとえば、老夫婦のみで住んでいる家庭の場合、夫が亡くなると、高齢の妻が遺体を受け取るために部屋を掃除するのは大変です。そうした家庭の事情も、遺体ホテルのニーズとマッチしているのです」(同)

 そのほか、地域によっては火葬場が足りず、死後1週間ほどたっても火葬が行えないケースもあり、その期間だけ遺体ホテルに預けるという家庭もある。遺体ホテルは、多方面からの需要に合ったサービスなのだ。

●遺体ホテル、需要の裏に葬儀スタイルの変化

 遺体ホテルのニーズが高まった背景にあるのが、「死」に対する意識の変化である。遺体ホテルの利用者には、住宅事情に関係なく、「自宅で遺体を預かる」選択をしない家庭も少なくないという。

「1980〜90年代までは、病院で亡くなったあと、自宅に帰って数日間過ごし、それから葬儀場で通夜式・告別式をして火葬場へ……という流れが一般的でした。しかし、最近では遺体を引き取れる状況でも遺体ホテルなどの施設に預け、葬儀は行わずに火葬場へ……という家庭も増えています」(同)

 利用者のなかには、葬儀を行わずに火葬する「直葬」のスタイルを選んだり、安置所で家族のみが集まって簡単にセレモニーを行ったりする家庭も多い。遺体ホテルは、近年増えている「簡略葬儀」と密接に関係しているのだ。

 そして、こうした家庭に見られるのが、「“死”を十分に受け止めることができない」という特徴だ。

「病院から安置所に預け、一度も面会に行かず火葬し、有給休暇を3日くらい消化して仕事に復帰するなど、そういうケースが増えてきたという印象があります。そういう方は、葬儀後、『本当にこれでよかったのか?』と心の整理がつけられない場合もあります」(同)

 直葬のようなシンプルな送り方をする場合は、親類や故人の友人にも知らせない家庭が多く、後々になって「なぜ知らせてくれなかったのか?」と周囲との間に溝が生まれることもあるそうだ。

 葬儀はお金をかければいいというものではないが、吉川さんは「あまりに事務的なお別れをしてしまうのは考えもの」と話す。

「確かに、遺体ホテルのような場所はとても便利です。このような施設を活用しつつ、火葬まで何度か遺体に面会に行き、周囲にも知らせるなど、遺族側もそれぞれ故人との別れ方を工夫していただきたいですね」(同)

●説明不足で近隣住民から大反対に遭うケースも

 遺体ホテルのもうひとつの問題が、近隣住民とのトラブルだ。たとえば、神奈川県川崎市の「ご遺体ホテル そうそう」は、一見すると遺体が安置されているとは思えないスタイリッシュな外観の民間遺体安置所で、多くの人たちに利用されている。

 その一方、営業中の現在も近隣住民から苦情や反対の声が上がり、テレビの情報番組でも、その問題が取り上げられている。このケースは、近隣住民の理解が得られていない状態で強引にオープンしたことがトラブルにつながった可能性が高いという。

「自治体の条例にもよりますが、葬儀会館をつくる場合は、集会所の目的を住民に明確に伝え、葬儀関係の手続きが必要な地域もあります。ただし、そうした手続きさえすれば、近隣住民への説明もなしに遺体を扱う施設をオープンしていいというわけでもありません」(同)

 葬儀会館は商圏範囲2kmから10km程度なので、地域の協力なしに営業を続けるのは難しい。近隣住民から大反対を受けてしまうと、営業そのものが立ち行かなくなることもあるという。

「過去にも、強引にオープンしてしまった葬儀会館がありました。必要な手続きを済ませて営業を始めたのですが、住民への説明が不十分だったために大反対に遭ってしまったのです。そのまま営業を続けると住民との軋轢が深まってしまうので、現在は葬儀会館ではなく貸し会議室になってしまったケースもあります」(同)

 しかし、それでも「葬儀場や遺体ホテルは、なくてはならないもの」と吉川さんは言う。

「メディアは遺体ホテルに反対の声を大きく取り上げますが、なかには歓迎している住民の方もいるはずです。オープンにあたっては、そういった方々に間に入ってもらい、事前にしっかりとケアする必要があると思います」(同)

 今後も増えることが予想される遺体ホテル。住民の理解をいかに得るかが、カギになりそうだ。
(文=真島加代/清談社)

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