金融庁が露骨介入の銀行再編一大計画、公取委の反対で破綻

金融庁が露骨介入の銀行再編一大計画、公取委の反対で破綻

金融庁が入居する中央合同庁舎第7号館(「Wikipedia」より)

 長崎県の親和銀行を傘下に持つふくおかフィナンシャルグループ(FG)と、同県最大の十八銀行の経営統合は、無期延期となる。県内の融資シェアが70%と高くなりすぎることを理由に統合を認めない公正取引委員会との溝が埋まらなかった。

 両者は2016年2月に統合に基本合意し、17年4月に経営統合する予定だった。しかし、公取委の審査を通るメドが立たず、統合時期を10月まで半年先送りしていた。それでも、公取委が抱く「長崎県で銀行間の競争がなくなる」との懸念を拭えず、10月の統合予定を取り消し、結局、統合時期を無期延期することになった。

 公取委の審査が長期化している背景には、十八銀行と親和銀行の合併によって長崎県内の貸出金シェアが7割になり、市場の寡占化が進むことにある。長崎県は、壱岐、対馬、平戸、五島など離島が多いが、離島ではシェアが100%の独占地域も出てくる。公取委は、独占力を備えた1強の誕生で競争が阻害され、選択肢を失った利用者の負担が増すと判断した。

 ふくおかFGの谷正明会長は金融再編について、「県境にとらわれない経済の道州制」を主張し、県内シェアにこだわる公取委に対する不満を口にしている。ふくおかFGは福岡銀行を核に熊本銀行(旧・熊本ファミリー銀行)、親和銀行が統合した。十八銀行を傘下に収めることで、福岡、熊本、長崎にまたがる地域金融グループを目指していた。

 過疎が進む長崎県にほかの銀行が進出してくる可能性はなく、統合後の寡占化・独占化を解消する方策はない。統合時期の無期延期は事実上の白紙撤回だ。金融庁が音頭を取って推進してきた金融再編が、公取委の壁に阻まれて完敗したことを覆い隠すために無期延期と表現しただけだ。

●金融庁主導の金融再編が挫折

 そんななか、金融庁の森信親長官の続投が決まった。3年目に入るが、当初は2年での退任が有力視されていた。なぜなら森氏は、11年から14年まで長官を務めた畑中龍太郎氏が3年目に入った際、「居座り」と公然と批判していた。そのことを金融関係者なら誰でも知っているだけに、3年目は受けないとみられていたが、官邸の強い要請というかたちで留任した。麻生太郎副総理・財務相・金融担当相、菅義偉官房長官の意向とされる。

 森氏は2015年7月、金融庁長官に就任した。バリバリの金融再編推進者である。「経営統合は重要な選択肢」――。金融庁は地方銀行のトップにことあるごとにこう迫り、大型再編の種を蒔いてきた。

 地銀は、人口減少や地域の産業の停滞といった根本的な問題を抱えている。今後10年でみると、経営環境はより深刻になるとして、金融庁幹部は「ゆでがえるのような状況になる前に、将来像を考えてほしい」と地銀を説き伏せてきた。金融庁が目指すのは、県境を越えた地銀の広域再編だ。

 14年以降だけで地銀の経営統合は6件あり、18年春にかけて三重銀行と第三銀行、関西アーバン銀行、みなと銀行、近畿大阪銀行の関西3行などの統合計画が進んでいる。

 森氏が地銀の広域再編のモデルケースとして後押ししてきたのが、ふくおかFGと十八銀行の経営統合だった。だが、長崎県首位の十八銀行とふくおかFG傘下の親和銀行が合併すれば県内の貸出シェアが7割に上ることから、公取委が統合に待ったをかけた。

 この事態に金融庁は前面に出てきた。金融庁は3月8日、長崎で地元関係者の理解を得ることを目的とした説明会を開いた。金融庁が地銀の経営統合の意義・目的について公式に説明するのは初めてで、極めて異例なことだ。

 金融庁で地域金融を統括する西田直樹審議官(監督局審議官)が、地元の経済界や記者向けに約2時間にわたって説明した。金融庁は「統合は地銀判断で、当局が促すものではない」というのが基本的立場だが、安倍晋三政権は「地方創生」を掲げており、地銀再編を通じた金融仲介機能の強化は不可欠だ。ふくおかFGと十八銀行の経営統合を何がなんでも実現させたいという意気込みで乗り込んだ。

●新潟での再編に注目が高まる

 公取委が問題視しているのは、1強が圧倒的なシェアを握ることだ。長崎市にはメガバンクが進出しているため市内では圧倒的なシェアにならないが、長崎市以外の地域は離島と同じように100%の独占状態になる。

 そこで打開策として十八銀行は貸出債権を他行に譲渡することでシェアを引き下げようとした。だが、取引先に「一時的に譲渡するだけで、統合後に買い戻す」と話していたことが公取委の知るところとなり、6月に入り統合申請は差し戻された。この時点で、ふくおかFGと十八銀行の統合は白紙の状態になったといっていいだろう。

 ふくおかFGの統合を、地銀の広域再編のモデルケースにすることを企図した森氏の構想は挫折した。公取委にノックアウトされたのだ。

 公取委は7月19日、新潟県の第四銀行と北越銀行の経営統合について、2次審査を始めたと発表した。両行は、経営統合に向けた最終契約を10月にも結び、18年4月に共同持株会社第四北越フィナンシャルグループを設立。2年後の20年、両行の合併を目指しているが、予定通りにいかない可能性がある。

 有力地銀の頭取は、「北越銀行に対して統合を“指導”したのは金融庁。新潟を突破口にして九州でも公取委に風穴をあけるという高等戦術なのだが、うまくいくのか不明」と話す。

 だが、第四銀行と北越銀行が合併すれば、県内の貸出シェアは5割に達する。公取委はどういう判断を示すのか。長崎の7割の貸出シェアはダメだが、新潟の5割はセーフなのか。公取委は貸出シェアの引き下げを条件に、新潟では統合を認めるのか。長崎に続いて新潟でも統合が頓挫すれば、金融庁が描く金融再編のシナリオは根本から崩れることになる。

 別の有力地銀の元頭取は「第四・北越が2次審査入りしたと公取委が発表した時点で、ふくおかFGの案件はアウトだと直感した」と明かしている。

 地銀首脳の発言は、ひとつの方向を指し示しているようだ。金融庁がシナリオを書き、主役の座まで奪う“官製合併(推進)”に、地銀はあきあきしている――。そんな証左なのかもしれない。
(文=編集部)

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