テスラ、トヨタ等の標準的セダンとの競合車投入…未知の快適運転体験を実現

テスラ、トヨタ等の標準的セダンとの競合車投入…未知の快適運転体験を実現

テスラ Model 3(「Wikipedia」より)

 当サイトでは初めての連載となります、松村太郎です。2005年からテクノロジーとライフスタイルに関する執筆活動を開始し、11年に米国カリフォルニア州のサンフランシスコ郊外の都市、バークレーへ引っ越し、仕事を続けています。今回から毎週、テクノロジーやビジネス、最新のカルチャーなど、米国生活で興味を持ったことを、コラムとしてお届けしていきたいと思います。ご愛読のほど、よろしくお願いいたします。

 さて、今回はシリコンバレーに本拠地を置く電気自動車メーカー、Tesla(テスラ)に関する話題だ。テスラは今年、大きな転機を迎えている。7月28日に、これまでとはまったく異なる価格帯の戦略車、「Model 3」をリリースし、自動車メーカーとしてより多くの顧客を迎え入れるフェイズへと突入するからだ。

 同社のCEO(最高経営責任者)、イーロン・マスク氏はTwitterで、予定よりも早く規制当局の審査が通過したことを報告し、最初の顧客30人への納車が7月28日になることを告知した。加えて、生産計画について、8月に100台、9月に1500台、そして12月までに毎月2万台のModel 3を生産していく計画を明らかにした。

●Model 3の魅力とは

 テスラ Model 3は、これまでのラインアップだった大型高級スポーツセダンModel S、7シーターの大型SUV Model Xよりも、小型で手ごろな価格を実現する戦略車だ。Model Sが6万9500ドル(およそ790万円)であったのに対し、Model 3は3万5000ドル(およそ400万円)。予約はオンラインで1000ドルを支払うだけで済む。
Model SとModel Xは、シャシーの98%をアルミニウム製としていたが、Model 3ではスチール部材をより多く用いるなど、コスト削減に対する工夫を行っている。また、電気自動車の要となる電池は、これまで使われてきた18650というセルから変更される。

 より大量の車両が納車されることになるModel 3向けには、パナソニックと協業でネバダ州リノに建設した「ギガファクトリー」で製造される2170という新しいセルが用いられるという。

 テスラ Model 3には大きな人気が集まっており、その受注は50万台ともいわれる。今日現在オーダーすると、納車されるのは1年以上先になってしまうほどの人気だ。

 Model 3は航続距離215マイル(345キロ)、5名乗車のセダンタイプで、加速性能は100km/hまで6秒以下という数字を誇る。車名はBMW 3シリーズを意識したとみられ、独アウディ「A4」、独メルセデス・ベンツ「Cクラス」、トヨタ自動車「カムリ」など、最もスタンダードなセダンとの競合を表明しているようなものだ。
Model 3の武器となるのは、電気自動車という新しい方式の自動車である点、そして優れたオートパイロット機能の2つだ。

 前者は、これまでのガソリン車とは異なり、充電して走らせる方式だ。一般的に電気自動車はガソリン車よりも安いコストで同じ距離が走れるとされている。ガソリンが日本よりも安い米国であっても、約55%程度のコストで走行できる計算になる。

 加えて、米国では週によっても異なるが、電気自動車に対する減税やクレジットの付与、駐車場や高速道路の優先レーンの利用など、さまざまなメリットを享受することができる。

 ただしこれらの優遇措置は、気候変動を前提として、温室効果ガスの削減に役立つ電気自動車の普及を目指したものだ。現在のトランプ政権では、その気候変動について否定的な見方を強めており、化石燃料回帰による石油会社や米国内のシェールガス掘削ビジネスの活性化を政策として実行しようとしている。

 トランプ大統領の諮問委員を務めていたマスク氏は、トランプ大統領が気候変動に関する目標を定めたパリ協定からの離脱に言及した際、委員を辞任している。

●オートパイロットがつくる新しいクルマとの関係

 テスラのドライビングシートに座ると、ディスプレイに囲まれる。ドライバーの目の前にあるメーター類はディスプレイで構成され、クルマに搭載されたカメラやセンサーが、周囲のクルマの存在やその形まで認識し、ディスプレイに表示する。

 また、エアコンやオーディオ、ナビなどの画面は、巨大なタッチパネルディスプレイとされ、直感的な操作と画面分割を含めたカスタマイズ性が提供される。
通常のガソリン車のオートマティックトランスミッションは、ブレーキとアクセルを使ってクルマを動かす。ブレーキを離せばクリープで車が少し前に進み、アクセルを踏むとギアチェンジをしながらスピードが上がっていき、ブレーキを踏んで減速する。

 しかし電気自動車であるテスラは、これまでのガソリン車の運転感覚を踏襲しつつも、異なる体験を提供してくれる。簡単に言えば、ほとんどの場面で、ブレーキを使わず運転できるようになるのだ。

 アクセルを踏み込むと、ギアチェンジなしでリニアに加速していく。そしてアクセルを弱めたり、ペダルから足を離すと、発電する抵抗でしっかり減速する。この減速を利用することで、ブレーキペダルを使わず、アクセルペダルの調節だけで運転ができる。慣れてくると、これがなかなか快適なのだ。

 そして、前述の2つ目の強みに挙げたオートパイロットは、高速道路においては、車線維持、車速維持もしくは先行車追従、方向指示器を出すだけでの車線変更を行うことができ、ハンドルに触れていればアクセルから足を離してもよくなる。

 流れているとき以上に、朝夕激しいシリコンバレー周辺の幹線道路の渋滞時にメリットを強く感じる。通常なら1時間程度の距離の通勤に、片道2時間もかける人が少なくないような劣悪な交通事情において、オートパイロット機能は日々の生活をガラリと変える光とも評価できる。

 Model 3にはこの機能を実現するハードウェアが採用されており、3万5000ドルでフル機能のオートパイロットが手に入るならば、競合車と比較しても非常に高い競争力を誇ることになる。

●期待とリスクが入り乱れる

 マスク氏がModel 3の納車の計画についてツイートして以降、テスラ株は急落している。7月3日370.13ドルを付けていた株価は、307.94ドルを付け、16%を超える下落となった。

 これまで、Model 3によってテスラが飛躍的に顧客の数を増やすことで、自動車メーカーとしての脱皮に期待して買われていた株が、Model 3の納車日程が決まった事実で利益確定売りが出たことも考えられるが、懸念材料としては、マスク氏が掲げた生産計画への疑問だ。

 筆者は今年1月に、シリコンバレーの対岸の都市フリーモントにあるテスラの組み立て工場を取材したことがあるが、建屋の3分の1以上のスペースが、Model 3のライン向けに確保してあった。ペイントショップと呼ばれる塗装工程は、1週間に1万台の塗装が行える能力を有しているという。組み立てのペースを早めていくことに問題はなさそうだ。

 一方で、電池の確保についての懸念が強まっている。前述のように、Model S、Model Xとは異なる新しいセル、2170を使用するModel 3は、当初、バッテリーの確保が生産のネックになると考えられているのだ。ただ、こちらについても、供給が安定してくれば、問題としては小さくなっていくことが期待できる。

 またテスラのラインアップのなかで、テスラの収益構造が変化する事へのリスクもある。Model SやModel Xの顧客が、最新のModel 3へ乗り換えていくことになると、平均販売価格は2分の1から3分の1程度に下がってしまうことになる。マスク氏も、「Model 3はModel SやModel Xの代わりにはならない」と別の車であることを強調するが、顧客はどう反応することになるだろうか。

 一方で、テスラという企業に対する期待の声も大きくなっている。米アップルに強いテクノロジーアナリストとして著名なジーン・マンスター氏は、iPhoneを引き合いに出し、「2007年に500万台しか売り上げなかったiPhoneは、2015年に2億3200万台を販売した」とし、ソフトウェアほどではないが、ハードウェアもスケールするとの見方を示した。

 テスラは生産拠点の中国への拡大によるハードウェアのスケールや、Solar City買収と家庭用バッテリーといった電気自動車を前提とした住環境へのビジネスの拡大、そしてテスラのソフトウェア更新やその機能の販売、音楽サービス参入の噂など、電気自動車を核としたアクセサリーやアプリビジネスへの拡大を行っている。

 テスラは、次のアップルになるのかどうか。そのアップルもまた、自動運転技術に対する投資を行っていることをティム・クックCEOが明らかにしており、ハードウェア主体のシリコンバレー企業に、引き続き注目していくべきだ。
(文=松村太郎/ITジャーナリスト)

関連記事(外部サイト)