北朝鮮のミサイル開発に中国軍部が関与か…米国の制裁強化で中国経済が崩壊危機

北朝鮮のミサイル開発に中国軍部が関与か…米国の制裁強化で中国経済が崩壊危機

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)とアメリカのドナルド・トランプ大統領(右)(写真:AP/アフロ)

「中国にはおおいに失望した」――。

 7月28日に北朝鮮が2度目の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を決行したことに対して、アメリカのドナルド・トランプ大統領はツイッターでこう発言した。

 20日に発足から半年を迎えたトランプ政権は、中国への制裁を強めている。6月には、北朝鮮との違法取引を理由に丹東銀行に金融制裁を科したほか、台湾に対して総額14億2000万ドルにおよぶ武器売却を決定。7月に入り、トランプ政権下で2度目となる南シナ海での「航行の自由」作戦を実施した。

 背景には、北朝鮮のミサイルおよび核兵器の開発を止めたいという狙いがある。7月4日(アメリカの独立記念日)に初めてICBMを発射した北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に対して、トランプ大統領はツイッターで「この男はほかにやることがないのか」と発言。21日には、国務省がアメリカから北朝鮮への渡航を原則禁止する方針を発表した。

 米中朝の緊張が高まるなか、日本では「テロ等準備罪」が新設された改正組織犯罪処罰法が11日に施行された。これを踏まえて、政府は国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を締結、テロや組織犯罪に対する国際的な連携の輪に加わることになる。

 今後、世界はどう動くのか。7月29日に『決裂する世界で始まる金融制裁戦争』(徳間書店)を上梓した経済評論家の渡邉哲也氏に聞いた。

●米国、北朝鮮を再び「テロ支援国家」に指定か

――北朝鮮をめぐる情勢が、再び緊迫化しています。

渡邉哲也氏(以下、渡邉) 今、アメリカでは北朝鮮を再び「テロ支援国家」に指定する動きが高まっています。現在、指定されているのはイラン、スーダン、シリアの3カ国。北朝鮮は、かつては指定国でしたが、ジョージ・W・ブッシュ政権下の2008年10月に解除されました。そして、バラク・オバマ政権下では「戦略的忍耐」の名の下に静観が続いていたわけですが、トランプ政権は4月に再指定する法案を下院で可決しました。

 また、北朝鮮に対する経済制裁を強化する法案も成立させようとしています。5月に下院で可決されており、上院での可決後に大統領の署名を経て成立する見通しです。同法案の目的は、北朝鮮の労働者を雇用する海外企業や北朝鮮と取引をしている金融機関への制裁を強化するというもの。また、北朝鮮のミサイルおよび核開発の資金源となっている外貨獲得の手段を絶つという狙いもあるでしょう。

 本書に詳述していますが、7月に発射されたICBMを含めて、北朝鮮のミサイル技術や開発体制は格段に進歩しています。そして、その裏では中国の軍部が関与している可能性が高いといわれています。あとは核の小型化が完了すれば、アメリカにとっては脅威となり得るでしょう。そのため、アメリカは中国に圧力をかけるかたちで北朝鮮のミサイル・核開発を完全に放棄させたいのですが、進展がないため強硬手段に出ているわけです。

――4月の米中首脳会談で策定された「100日計画」の期限は7月中旬でした。

渡邉 7月には初の米中包括経済対話が行われましたが、共同声明の発表が見送られたばかりか、予定されていた個別の記者会見も中止になるなど、合意とはほど遠い結果に終わりました。

 かねてからトランプ大統領が問題視している鉄鋼の過剰生産に関する問題もくすぶっており、3月には中国産鉄鋼製品に関するダンピングが認定されました。輸出補助金に対する相殺関税251%などの制裁を科すことが決定されています。

 米中は、経済的にも再び対立が深まりつつあります。いずれにせよ、アメリカは段階的に中国に対する制裁を強化していくものと思われます。

――中国がアメリカの要求に従わず、北朝鮮の増長が止まらないとすれば、どういう事態になるのでしょうか。

渡邉 北朝鮮情勢が切迫しても、アメリカは地上戦を展開するつもりはないでしょう。泥沼化して、ベトナム戦争の二の舞いになるからです。ジェームズ・マティス国防長官は元軍人で「狂犬」との異名を取ることから、好戦的な人物だと思っている人も多いかもしれません。しかし、実務家であり、「軍人ほど、実は戦争をやりたがらない」という側面があるのも事実です。

 中東でも同様ですが、アメリカは消耗戦になればなるほど形勢が悪化します。なぜなら、アメリカでは軍人が1人死亡すれば、遺族への補償などで約9000万円のコストがかかるといわれているからです。つまり、大量の死者を出すような戦況はコストパフォーマンスが悪すぎる。

 そのため、金融をはじめとする経済制裁によって、カネやモノの流れを止めるという手段がメインとなっているわけです。いわば“兵糧攻め”であり、それが「金融制裁戦争」の本質です。そして、そのためには、反社会的勢力に対して国際的に団結する姿勢が求められています。

●「テロ等準備罪」で始まる反社会的勢力の排除

――翻って、日本では「テロ等準備罪」法がスタートしました。

渡邉 それに伴うTOC条約の締結によって、日本のテロ対策は飛躍的に強化されることになります。そもそも、TOC条約はすでに187の国・地域が締結しており、国際連合加盟国の94%にあたります。未締結は小国ばかりであり、これまで日本は世界の趨勢に大幅に乗り遅れていたといえます。

 TOC条約の締結によって、世界各国と犯罪者やテロリストに関する捜査情報を共有することが可能となります。「テロ等準備罪」の成立をめぐっては「審議期間が短すぎる」「現状のままでもTOC条約を締結できるので、必要ない」という主張もありましたが、これはミスリードと言わざるを得ません。

 詳しくは本書で述べていますが、そもそも日本はTOC条約の取り締まり機関である「FATF(マネーロンダリングに関する金融活動作業部会)」から、数回にわたって法整備に関する勧告を受けていたのです。

――「日本もテロの脅威にさらされている」ということでしょうか。

渡邉 言うまでもなく、北朝鮮の増長は日本にとって大きなリスクです。そして、その北朝鮮をアメリカは「テロ支援国家」に再指定しようとしています。加えていえば、朝鮮半島における朝鮮戦争はいまだ「休戦中」であり、終わっていない戦争がすぐ近くに存在しているのです。

 また、6月には、サウジアラビアなど6カ国が「テロ組織を支援している」という理由でカタールとの国交断絶を発表しました。フィリピンのミンダナオ島では、「IS(イスラム国)」関連の武装組織が島を占拠するという事態が起きています。中東の混乱やヨーロッパでテロが頻発している現状については、言わずもがなでしょう。

 7月に行われたG20(主要20カ国・地域)首脳会議でも「テロ対策に関するG20首脳声明」が発表されましたが、テロ対策および反社会的勢力の排除は世界的な潮流です。

――具体的には、どのような動きが始まるのでしょうか。

渡邉 日本に限らず、テロ勢力に関連する国家、組織、個人に対して経済的な制裁を科すことで弱体化させるという動きが強まることは確実です。たとえば、理由は明らかにされず、すぐに解除されましたが、沖縄県の米軍基地に反対する活動家の銀行口座が凍結されたことが明らかとなりました。これも、金融規制強化の流れの一環といえます。

 現在、日本で国際テロリスト指定されているのは日本赤軍とオウム真理教ですが、今後は中核派や革マル派などにも対象が広がっていくものと思われます。また、国連の薬物犯罪事務所などが定める条件に従って、日本のテロ関連組織を改めて精査する動きが始まり、必要に応じて国家公安委員会委員長が指定します。そこで指定された団体などに資金提供などを行えば、処罰の対象となります。

 今回の「テロ等準備罪」と14年に成立した「テロ関連3法」、さらに今後、金融機関の口座や年金などの情報との紐付けも始まる「マイナンバー」の本格運用によって、カネの流れの明確化とヒトの特定が進むことになります。

●米国、北朝鮮への制裁強化で中国経済が崩壊か

――あらためて、「金融制裁戦争」によって世界はどう動くのでしょうか。

渡邉 アメリカの北朝鮮制裁強化で中国が崩壊する可能性が高いです。たとえば、先に述べた対北制裁強化の法案に一番反対しているのが中国であり、何度もアメリカに抗議しています。

 なぜかといえば、それによって実際に苦しくなるのは中国だからです。現在、北朝鮮の取引先の約90%は中国企業であるといわれており、資金をやり取りしているのも中国の銀行です。それらの企業や金融機関がすべて制裁の対象となる可能性があるわけで、両者とも貿易決済が一切できなくなり、銀行口座は凍結しなくてはいけなくなるなど、そのダメージは計り知れません。

 仮に中国政府が反発すれば、銀行口座の住所にあたる「SWIFTコード」が削除されることになります。そうなると、強制的にカネのやり取りが停止されることになるわけですが、すでに北朝鮮では3月に3行の「SWIFTコード」が消されており、国際的な金融ネットワークから外されています。

 また、中国では、かねてより問題視されているゾンビ企業が鉄鋼や船舶などの過剰生産の温床ともなっています。国内で余ったモノがダンピングされるかたちで先進国の市場に流入し、マーケットの値崩れを引き起こしているわけです。しかし、前述したように、アメリカは制裁を科すことを決定しており、同様にEU(ヨーロッパ連合)も反ダンピング関税の適用を確定させています。今後は、世界的な中国製品の排除が進められるでしょう。
(構成=編集部)

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