芸能界、世間が知らない「枕営業」「タレントと事務所の契約」の驚愕の実態

芸能界、世間が知らない「枕営業」「タレントと事務所の契約」の驚愕の実態

「芸能人の権利を守る 日本エンターテイナーライツ協会」より

 芸能人の移籍制限は独占禁止法違反なのか――。

 公正取引委員会は、芸能人やスポーツ選手などと企業や事務所との契約について、移籍などの制限が独禁法の規制対象になるか否かを検討するため、8月から有識者会議を開催する。

 昨今、芸能界では契約や処遇をめぐるトラブルが相次いでいる。背景には、圧倒的に芸能事務所が優位な契約や慣習があるとされている。

 そこで、「芸能人の権利を守る」を旗印に発足したのが「日本エンターテイナーライツ協会(ERA)」だ。若手弁護士たちによるERAは5月に設立され、6月には元SKE48の桑原みずきさんらと共に記者会見を行った。

 トラブルが尽きない芸能界の中で、ERAはどんな役割を果たそうとしているのか。共同代表理事を務めるレイ法律事務所の河西邦剛弁護士に話を聞いた。

●圧倒的に事務所の力が強く、立場の弱い芸能人

――ERA設立の経緯から、お願いします。

河西邦剛氏(以下、河西) 私が所属するレイ法律事務所では、移籍や違約金をめぐるトラブルなど、芸能界の事案を数多く扱っています。「地下アイドル」という言葉に代表されるように、今はいわば誰でもアイドルになれる時代であり、「お金を払ってでもアイドルになりたい」というニーズも多い。なかには、詐欺まがいの悪徳事務所によって食い物にされるケースもあります。

 たとえば、街中でスカウトし、「レッスン料金」と称して多額を要求、かたちだけのCDを制作しただけで終わり……という目に遭い、泣き寝入りする人も多くいます。

 一方、有名芸能人と事務所の間では、そもそも契約書が交わされていないことも珍しくありません。そして、契約書が交わされていても、事務所が芸能人に対して「移籍の禁止」「髪型の変更禁止」など細かい義務を課している上、ギャラに関しては不明瞭なケースも多い。圧倒的に事務所優位というわけです。

 特にギャラについては芸能人側の立場が弱く、事務所側のさじ加減ひとつで「来月からは半分」と言われれば、従うほかないのが実情です。

 そのような状況を受けて、立場が弱い芸能人の「権利保護」「セカンドキャリア形成の支援」「地位向上」を目指し、レイ法律事務所の代表である佐藤大和弁護士が発起人となって、ERAが発足しました。

「芸能人の権利保護をうたう」といっても、決して事務所側と対立するわけではありませせん。あくまで、芸能人と事務所の架け橋になるのが目的です。レイ法律事務所は芸能関係の案件を数多く解決してきました。そうした経験を生かしながら、公益団体として機能していきます。

――まず「権利保護」については、具体的にどのような活動をする予定ですか。

河西 「権利保護」と唱えるだけでは、単なる抽象論に終わります。芸能人の方々は契約関係などに詳しくないケースも多い。そこで、まずは啓発活動を進めます。

 たとえば、たとえ契約書に明記されている条項でも、それがすべて有効となるわけではありません。法律や裁判例に反する部分は無効となります。そうした事実ですら、知らない芸能人は多いです。

 たとえば、途中で辞めた場合の違約金条項が記載されている場合、当人も親御さんも、「支払わなければならない」と思い込んでいるケースが多いのですが、そもそも、きちんと報酬が支払われていない場合などは契約の途中解除が認められるという判例もあります。

 一般の方々にもいえますが、芸能人は法律や判例を熟知している人のほうが少ない。そのため、今後は権利保護に関する勉強会などを行っていきます。

●不安定すぎる芸能人の「第二の人生」

――「セカンドキャリア形成の支援」については、いかがでしょうか。

河西 たとえば、10代からアイドルとして活動してきて、25歳でアイドルを卒業――当然、その後の人生のほうが圧倒的に長いです。引退後の人生のほうが長いプロ野球選手なども同様ですが、芸能人のセカンドキャリアは死活問題です。

 プロ野球選手の場合、引退後に企業側が知名度を生かすべく営業職などで採用するケースがありますが、実はアイドルも同様に「卒業後に採用したい」という企業側のニーズはあります。レイ法律事務所は企業の顧問弁護士も多く手がけているのですが、そういった相談を受けることもあります。

 大企業であれば広告代理店を通じて派手なCM展開を行うこともできますが、中小企業では難しい。しかし、「元アイドルの○○さんが働いている」となれば、企業側にとっては大きな宣伝効果が見込めます。

 企業に採用されるか否かにかかわらず、若いときからタレントやアイドルとして生きてきて、30歳や40歳になって一般社会に放り出されるという状況は、とても不安定です。

 なかには、精神的に不安定になったり、薬物に手を出したり犯罪行為に手を染めてしまったりするケースもあります。「芸能人でなくなったときに、どう生きていくか」というのは大きな課題であり、セカンドキャリアの形成は犯罪抑止にもつながる活動です。

 弁護士が介在して元芸能人と企業のマッチングをすることで、芸能人の第二の人生をサポートしたいと考えています。

●芸能事務所がタレントの移籍を禁じる理由

――「地位向上」については、やはり事務所優位の体制を改めるということでしょうか。

河西 芸能人の方々の雇用形態は、歩合制度や業務委託が多いのが実態です。珍しいケースは、モーニング娘。'17など「ハロー!プロジェクト」のメンバーが所属するアップフロントプロモーションで、固定給であるといわれています。

 これは、ツアー日程やCDのリリース時期などの業務サイクルがある程度確定しており、グループの年間売り上げ見込みが立ちやすいことから、固定の給与制にすることができていると考えられます。他方で、売り上げの見込みが不明確となる地下アイドル業界では、ほぼすべてのケースが歩合制になっています。

 ただ、先ほども述べたように、契約書によって芸能人に多くの義務が課せられており、不利な条項が結ばれています。肖像権をはじめ、音楽や映像などの権利も事務所が独占し、販売時期なども事務所が決めることができます。今後は、ERA作成の統一契約書を普及させることで、そうした慣習を変えていき、芸能人と事務所が対等かつ公平な契約を締結できるようにしたいと考えています。

 ただ、一方では事務所が芸能人を契約書で縛ることには、一定の合理性があります。事務所は無名のタレントを育てるために、3〜5年かけて先行投資を行っています。売れたからといって、すぐに移籍されてしまっては、事務所の存続にかかわる事情もわかります。

 実際、判例のなかにも「芸能プロダクションは初期投資を行ってアイドルを媒体に露出させ、それにより人気を上昇させてチケットやグッズの売り上げを伸ばし、そこから投資を回収するビジネスモデルを有している』と明言したものもあります。

 しかしながら、あまりに不公平な現状を是正するためには、ERA作成の契約書を普及させることが必要と考えています。

 もうひとつは、立法提言です。日本には、芸能人と事務所を規律する法律がありません。芸能界に関係する民法や商法、あるいは過去の判例に基づき、芸能人に関わる法律の制定を提言します。

●西山茉希の“奴隷契約”、小出恵介の淫行……

――ERAのような組織は、日本初なのでしょうか。

河西 私が知る限りは初めてです。そもそも、芸能界における労働組合のような組織の発足は、事務所側が望んでいなかったのでしょう。ただ、芸能人の権利保護は大切ですが、事務所ともめてしまえば芸能生命を絶たれることにもなりかねず、本来の目的を達成することもできません。そのため、ERAは事務所と対立する意図はなく、芸能人と事務所の架け橋になりたいと考えているのです。

――6月、西山茉希さんが第2子の妊娠後に一方的に給料を半額にされた上、2月からは給料が未払いであることを告白して波紋を呼びました。

河西 先に述べたように、契約書に記載されていても法律や判例に反する部分は無効です。西山さんのケースでは、ギャラが支払われないなどマネジメントが放棄された状態なので、そもそも事務所が機能しているとはいえないのではないでしょうか。仮にそうであれば、契約書にサインしていたとしても、西山さんの意思で移籍することも可能です。また、報酬請求権が発生すると思われます。

――また、小出恵介さんが17歳の女性との飲酒および淫行によって無期限活動休止となった問題も、大きく報じられました。

河西 芸能人は有名になればなるほど、落とし穴が待っています。たとえば、コンサート後の打ち上げでは毎回のように女性が用意されているという話も聞いたことがあります。そのように扱われる本人も、社会的な影響力が大きいにもかかわらず、感覚が麻痺してしまいます。

 しかし、ときには刑事事件に発展するという認識をしっかり持たなければなりません。どんな事情があったにせよ、後から言い訳をしても遅い。そのため、芸能人の方々は自身の行動を律する必要があるのです。

●制作会社が“暴走”する枕営業の実態

――芸能トラブルといえば、いわゆる枕営業も多いのでしょうか。

河西 相談は多いです。キャスティング力を持つ人物が圧力をかけるケースが多く、犠牲になるのは無名のタレントが中心です。テレビ局よりも制作会社の人間が“暴走”してしまうケースがあります。また、劇団などでは出資者が若い劇団員に対して下心を抱き、いい役と引き替えに関係を迫るというケースもあります。

――芸能トラブルは、今後も増えていくのでしょうか。また、どのような種類の事案が増えるのでしょうか。

河西 地下アイドルなど裾野が広がったことで、トラブル自体の件数は増えています。また、レイ法律事務所の知名度が高くなるにつれて、顕在化する事案も増加しています。

 冒頭で述べたインディーズアイドル商法は悪徳事務所の例ですが、なかには比較的有名な「○○さんがプロデュースしている」と宣伝することで、被害者側が高額なレッスン料を支払うことにためらわないというケースもあり、信販会社でローンを組ませる例もあります。

 芸能界は人の流動性が活発になっているため、今後も移籍や違約金をめぐるトラブルは増えていくでしょう。また、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などによるストーカー被害を訴える事案も増えており、最近はより悪質化しています。

――最後に一言、お願いします。

河西 芸能界は、夢と現実、そして欲望が入り混じる世界です。芸能人の方々が道を踏み外さないように、権利保護を訴えていきたいと思います。

――ありがとうございました。
(構成=長井雄一朗/ライター)

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