夏休みに必見!「ギガ恐竜展」が大迫力!ティラノサウルスの3つの謎&戦いの痕跡を堪能

夏休みに必見!「ギガ恐竜展」が大迫力!ティラノサウルスの3つの謎&戦いの痕跡を堪能

ワイレックス(撮影=オフィス ジオパレオント)

「恐竜の夏」がやってきた。

 今年も、各地で大小の恐竜展が開催されている。そのなかでも、特に大規模なものを2つ挙げるとすれば、千葉・幕張メッセの「ギガ恐竜展」と大阪・ATCホールの「メガ恐竜展」だろう。

 名前こそ「ギガ」「メガ」と似ているが、両者の展示は本質的に異なるものだ。そもそも、メガ恐竜展は2015年に幕張メッセで開催されたものの“関西版”であり、恐竜はもちろんのこと、絶滅哺乳類などの“恐竜以外の古生物”の展示も充実した企画展でもある。

 筆者は15年に幕張メッセで堪能し、そのいくつかの標本は撮影許可をいただいて拙著にも収録している。未見の方は、今度こそ見逃さないようにしたい。

 一方、ギガ恐竜展は今年が初開催となるものである。メガ恐竜展と比較すると恐竜に特化した内容で、各種のマニアックな標本も多い。ギガ恐竜展には、入り口に「撮影歓迎」(ただし、フラッシュと三脚は使用不可)との表示もあり、ぜひカメラ持参で行きたいところだ。

 せっかくの“夏の恐竜展”である。今回は、筆者なりの見どころをいくつか紹介しておこう。

●全長38mのルヤンゴサウルスで味わう“ギガ感”

 幕張メッセの恐竜展といえば、巨大な竜脚類の復元骨格が“名物”だ。

 竜脚類とは、小さな頭と長い首、長い尾と大きなからだ、太い四肢をもつ四足歩行の植物食の恐竜だ。広いホールに「でーんっ」と存在する竜脚類の復元骨格は、否が応でも目に留まる。

 本展では、全長38mに復元された「ルヤンゴサウルス(Ruyangosaurus)」がやってきている。まずは、その大きさを堪能してほしい。「恐竜って、でっかいね」という評判を地でいく標本である。

●ティラノサウルスの標本を楽しむ、3つの謎

 じっくりと観察してほしい標本は、やはり「ティラノサウルス(Tyrannosaurus)」だ。誰もが知る、肉食恐竜の帝王である。

 ティラノサウルスの標本は、これまでに約50個体が(公式に)報告されている。本展で展示されているのは02年に発見された「HMNS2006.1743.01」という個体のもので、発見場所の牧場主であるドン・ワイリック氏にちなんで「ワイレックス(Wyrex)」という愛称がつけられた。オリジナルの保存率は全身の38%ほど。本展では、その欠損部分が補われ、全身復元骨格として展示されている。

 この標本は、少なくとも3つの視点で楽しむことができる。ひとつ目は、その尾だ。 特に大型の標本において「欠損部分が補われ、全身復元骨格として展示される」のは一般的だ。ワイレックスも全身の保存率は38%なので、その過半は、ほかの標本を参考に補われている。ここまでは「よくあること」である。しかし、だ。

 展示されているワイレックス標本に関しては、実は「欠損部分が補われ」という表現は正確ではない。「全身復元骨格」であるにもかかわらず、尾が途中でぷっつりと切れているのだ(展示では、まるで落ちたかのようにその先の骨格は床に置かれている)。

 通常であれば、尾が切れていること自体はさほど不思議なことではない。なにしろ、保存率は38%である。死後、化石になるまでの間に、あるいは化石となってから発見されるまでの間に、尾が欠損する事態があったのであろうと考えられる。

 しかし、ワイレックスに関しては、実は「生きているうちの傷ではないか」と指摘されている。骨に、壊疽に似た感染症の兆候が見つかったのだ。その一方で、治癒の痕跡は確認されなかった。

 感染症の兆候があるということは、化石化後の欠損ではないことを示唆している(化石は感染症にはならない)。そして、治癒していないということは、この傷を負ったのちに長く生きていたというわけでもない(傷が軽いものであれば、生き続ける間に治癒が進み、その痕が骨に残る)。

 そう考えられることから、ワイレックスはまさにその死に際して、この傷を負ったものとみられている。そして、ティラノサウルスであるワイレックスの尾を噛みちぎるほどの肉食動物といえば、その最有力“容疑者”は、やはりティラノサウルスとなる。つまり、これは“ティラノサウルス対ティラノサウルスの戦いの痕跡”ではないか、と指摘されているのだ。

 もっとも、この戦いがなんのために行われていたのかは不明である。ワイレックスが「獲物」として狙われたのなら38%も残存しなかったかもしれない。なにしろ、ティラノサウルスは「獲物を骨ごと噛み砕く」のだ。こうした推理を楽しむのも、古生物学の醍醐味のひとつである。ぜひ、自分なりの“回答”を探したり、家族や友人、恋人と議論したりしてほしい。

●ティラノサウルスの体は羽毛?鱗?

 2つ目は、指に注目しよう。ティラノサウルスといえば、その巨体に似合わない小さな手が有名であり、特徴のひとつでもある。指は2本。一方で、原始的な近縁種は3本あったとされるため、進化の過程で指を1本失ったものと考えられている。

 ところが、である。ワイレックスの手をよく見ると、2本の指のほかに小さく細い指の骨があるように見えるのだ。「うわ、これは大発見! ティラノサウルスの復元が変わるのか?」と思われる方もいるかもしれない。……しかし、実はそうではない。

 これは、「中手骨」と呼ばれる、いわば「手のひら(甲)の骨」である。指の骨(指骨)は相変わらず2本のみ。それでも、「1本の指に1本の中手骨」は手の骨格の基本である。

 つまり、「指は2本だったけれど、手の中には3本目の指の“根っこ”があった」ということになる。祖先の名残とみられる、この特徴が確認できるのは、とても貴重なことだ。ちなみに、会場にはディロング(Dilong)やユウティラヌス(Yutyrannus)など、原始的な近縁種の標本も展示されているので、その指を確認したい。

 3つ目は、ごく最近の話題である。ここ数年、ティラノサウルスをめぐって「羽毛で覆われていたのか否か」が議論の的となってきた。ティラノサウルスそのものには羽毛化石や羽毛があった痕跡は確認されていないものの、近縁種に羽毛が確認されていたため、「おそらくティラノサウルスにも羽毛があっただろう」という見方が主流になりつつあった。

 しかし、今年6月、オーストラリアのニューイングランド大学のフィル・R・ベルたちがティラノサウルスの「鱗の痕跡」を報告したのだ。この論文では、ティラノサウルスの全身の各所から鱗の痕跡を確認した。ベルたちは、ティラノサウルスは羽毛で覆われておらず、羽毛があったとしても極めて限定的であると指摘した。

 この「鱗の痕跡」が確認されたティラノサウルス標本こそが、ワイレックスである。会場内には、その「鱗の痕跡」の展示もされているため、必見だ。また、イラストレーターの月本佳代美氏による“背中にちょっとだけ毛を生やしたワイレックス”の復元画もあわせて確認したい。

●肉食恐竜の頭骨を比べてわかる

 ティラノサウルスを堪能した後は、その周囲に展示されている肉食恐竜の全身骨格に注目してみたい。

 ティラノサウルスは、「獲物を骨ごと噛み砕く」と言われるほどに強力な顎の持ち主だ。その頭骨は横幅があり、とても力強い。しかし、周囲に配置されている肉食恐竜たちの頭骨はどうだろうか。

 たとえば、アクロカントサウルス(Acrocanthosaurus)は獲物の肉を切り裂いて食べるタイプ。そのあごにはティラノサウルスほどの力はなく、頭骨には横幅がない。スコミムス(Suchomimus)は、魚食性とみられている。水中で魚を捕らえるには、幅がより狭いほうが水の抵抗が少なくて済む。

 こうした展示は、顔の正面から見ることのできるような配置になっている。ぜひ、その生態に思いを馳せながら、頭骨(特に横幅)を確認してほしい。

 ティラノサウルスとその近縁種に注目しても、やはり頭骨の大きさや幅は見どころである。ディロングの頭骨はどうか。ユウティラヌスの頭骨はどうか。ぜひ、親子やカップルで会話を弾ませながらの“頭骨観察”をオススメしたい。

 もちろん、展示されている標本は肉食恐竜ばかりではない。植物食恐竜たちの皮膚の痕跡や“ミイラ”、脳函(脳が入っていたケース)の断面などもある。それぞれの展示を見逃すことなく、味わって見ていただきたい。
(文=土屋健/オフィス ジオパレオント代表、サイエンスライター)

関連記事(外部サイト)