アップル、米国内製造への動き急速化…確立した製造モデルを大転換の可能性

アップル、米製造への動き急速化 トランプ氏に「米で巨大工場を3つつくる」と約束

記事まとめ

  • トランプ大統領は、アップルのCEOが米国内に巨大な工場を3つつくると約束したと話した
  • アップルは自社で直接工場を持っておらず、工場を建設しないと考えるのが妥当だという
  • ホワイトハウスでの会見で台湾の鴻海精密工業が米国内にディスプレイ工場の建設を発表

アップル、米国内製造への動き急速化…確立した製造モデルを大転換の可能性

アップル、米国内製造への動き急速化…確立した製造モデルを大転換の可能性

カリフォルニア州にあるアップル本社(「Wikipedia」より)

 米国のドナルド・トランプ大統領は、「アメリカファースト」を掲げ、製造業の米国回帰と米国国内における雇用の創出を強調してきた。そのやり玉に挙がっていたのがアップルをはじめとする、米国外での製造によって莫大な利益を抱え、その利益を米国外に蓄積しているグローバル企業だ。「アップルに、米国内に工場をつくらせる」ことは、トランプ大統領にとって就任前からのひとつのわかりやすいゴールとなっていた。

 7月25日に米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが報じたトランプ大統領へのインタビューで、同氏はアップルのティム・クックCEOが「米国内に巨大な工場を3つつくる」と約束したと話した。前述のような、トランプ大統領にとってわかりやすいゴールの実現を示す話であるが、果たしてこれは実現するだろうか。

●アップルは工場をつくらない?

「アップルに工場をつくらせる」というトランプ大統領の目標は、若干言葉足らずな部分がある。同社製スマートフォン「iPhone」発売以降、アップルは自社で直接工場を持つモデルを取っていないからだ。

 アップルはサプライヤーから部品を調達し、「製造委託先」となるパートナー企業によって製品の組み立てを行うモデルを成立させてきた。このモデルを確立し、実行してきたのは、クック氏の手腕によるものだったと振り返ることができる。

 いくらトランプ大統領の意向だからといっても、クック氏が既存のモデルを崩してまで、これに応じるとは考えにくい。つまり、トランプ大統領が言うようには、アップルは工場を建設しないと考えるのが妥当だ。

 ただし、アップルはMac Proなど一部の製品について、米国内での製造を行っている。また、カバーガラスを製造しているアップルのサプライヤー、コーニングに対しては、アップルが創設した10億ドルの米国向け先端製造業向けファンドによる投資を実施した。

 アップルが工場をつくるわけではないが、アップル製品に使われるパーツや、製造委託先企業の工場が米国内に新たに建設される可能性はあると考えられる。

●鴻海による10億ドル投資とディスプレイ工場建設

 米国時間7月26日、ホワイトハウスで行われた記者会見で、ひとつの答えらしきものが明らかになった。記者会見場には台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業のテリー・ゴウCEOが登壇し、ウィスコンシン州にディスプレイ工場を建設することを発表したのだ。最新のディスプレイ技術についてはシャープとの協業を行い、主に医療やエンターテインメント向けの「米国製の」ディスプレイパネルの製造を行うとしている。

 投資額は100億ドルで、1万3000人の米国人を年収5万3000ドル(約600万円)で雇用するとした。また同州では間接的な雇用創出として2万2000人が新たな職に就くことを見込んでいる。

 鴻海はiPhoneなどのアップル製品を中国などで製造する製造委託先企業として知られている。前述の通り、アップルが直接工場をつくるわけではないが、アップルと非常に関係の深い鴻海による工場の建設になるという大方の予想が当たったかたちだ。ただし、記者会見の中でテリー・ゴウCEOは「アップル」や「iPhone」という具体的な名前には触れなかった。

●シャープとアップルが注目する次世代ディスプレイとは?

 アップルがiPhone10周年を記念して発表するとみられているiPhone 8、もしくはiPhone Editionは、これまでの液晶ディスプレイに替わって有機ELディスプレイを採用するとみられている。そのサプライヤーとして選ばれたのは、スマートフォンで競合する韓国サムスン電子だ。

 ライバルであるということを差し引いても、サムスン以外に供給できる企業が存在していない現状は、アップルにとってリスクととらえるべきだ。2018年には韓国LGもサプライヤーとして加わるとみられているが、有機ELディスプレイの需要が逼迫し、製造のボトルネックになりかねない。

 そのため、スマートフォンやタブレットの鍵となるパーツである次世代ディスプレイ開発に、アップルが取り組む動機は充分にある。アップルはシリコンバレーの次世代ディスプレイ企業、LuxVue Technologyを買収しており、有機ELディスプレイよりも優れた省電力性を実現できる「マイクロLED」ディスプレイの研究開発に取り組んでいる。

 他方、シャープと同社を傘下に収める鴻海の動きも、「マイクロLED」に照準を合わせている。シャープは米国のマイクロLED技術を有する企業eLuxと業務提携を結んだ。eLuxは鴻海からも出資を受けており、シャープが持つLEDディスプレイの技術を生かせる布陣をつくり上げた。

 ウィスコンシン州に建設されるディスプレイ工場では、このマイクロLEDディスプレイが製造されることが予測でき、次世代のアップル製品にも採用されていくことが見込まれる。結果として、アップル製品の主要な構成要素であるディスプレイが米国で製造されるという布陣がつくられることになる。アップルにとっては、より優れたディスプレイ技術の製品を次世代製品に生かすことができるようになり、ライバルへのディスプレイパーツの依存度を下げつつ、競争優位性を高めることができる。

●他の2つの工場とは?

 トランプ大統領は、アップルが3つの巨大な工場を米国内に設置すると語った。そのひとつがウィスコンシン州のディスプレイ工場であるなら、他の2つは何になるのか、という話になる。

 アップルは自社で設計し製造を委託している製品向けのパーツとして、iPhoneなどに用いられる専用のプロセッサ「Aシリーズ」(最新モデルはiPad Proに採用されたA10X Fusion)がある。これらはサムスンと台湾TSMCによって製造されている。また、データ等の保存に使われるメモリーについてもサムスン製が採用されている。

 主要パーツのサプライヤーとして、サムスンの影響力は非常に強い状況が続いている。部品調達として合理的かつ実現可能なほぼ唯一の選択肢として選ばれているが、ディスプレイと同様、その体制のリスクを将来的に軽減することを目指したいと考えても不思議ではない。

 また米クアルコムとの間では、通信ベースバンドチップに関する裁判が、17年に入って激化している。すでに米インテル製のチップを4割のiPhoneで採用しているが、脱クアルコムを目指すには、なんらかの投資を行う必要があるだろう。

 こうした製品を構成するパーツだけでなく、完成製品を米国内での製造に乗り出す可能性もある。アップルの次世代製品として目されているのは、拡張現実アプリに用いるスマートグラスや、自動運転自動車を実現するシステムだ。これらは高付加価値製品となることが予想され、米国で製造するコストを吸収できる可能性がある。
(文=松村太郎/ITジャーナリスト)

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