大根仁の傑作『ハロー張りネズミ』を見よ!圧倒的な完成度のエンタメ作品が誕生

大根仁の傑作『ハロー張りネズミ』を見よ!圧倒的な完成度のエンタメ作品が誕生

「金曜ドラマ『ハロー張りネズミ』|TBSテレビ」より

「金曜ドラマ」(TBS系金曜22時枠)といえば、数々の名作を生み出してきた放送枠だ。

 1980年代には山田太一脚本の『ふぞろいの林檎たち』、90年代には野島伸司脚本の『高校教師』や堤幸彦演出の『ケイゾク』、2000年代には宮藤官九郎脚本の『木更津キャッツアイ』『タイガー&ドラゴン』といった、その時代を代表する脚本家や演出家が作家性を爆発させてきた。

 だが、近年は湊かなえの小説をドラマ化した『リバース』のような原作モノが中心となり、強烈な作家性を感じさせる作品は次第に少なくなっていった。視聴率的にも、同時間帯に日本テレビの「金曜ロードSHOW!」があり、宮崎駿や細田守の人気アニメ映画をぶつけられるために苦戦している。

 TBSのドラマとしても、時代を代表する意欲作を生み出すチャレンジ枠としては『逃げるは恥だが役に立つ』や『カルテット』を生み出した「火10」(火曜22時)にお株を奪われており、金曜ドラマは存在感を失いつつあった。

●大根仁が手がける、久々に金曜ドラマらしい傑作

 しかし、現在放送されている『ハロー張りネズミ』は、久々に金曜ドラマらしい作家性の強いドラマとなっていて、細部まで丁寧につくり込まれている。

 全話の脚本と演出を担当するのは大根仁。前述した『ケイゾク』の堤幸彦の弟子筋にあたる演出家だ。大根はテレビ東京系の深夜ドラマ枠で『モテキ』などのヒット作を生み出し、“深夜ドラマ番長”の異名を持つ監督だ。近年は『バクマン。』や『SCOOP!』などの映画制作に活動拠点を移していたが、そんな大根が久々に連続ドラマを手がける。

 それも、ついに民放地上波のプライムタイム(19〜23時)を手がけるということもあり、放送前から注目していたのだが、予想を上回るクオリティとなっていて大変満足している。

 原作は『島耕作』(講談社)シリーズで知られる弘兼憲史の同名漫画だが、舞台は1980年代から現代に変わっているため、原作の設定を生かしたリブート作品といえる。

「あかつか探偵事務所」で働く七瀬五郎(瑛太)たちを主人公とした1話完結の探偵ドラマだが、物語の内容は多岐にわたっている。

 第1話は、交通事故で娘を亡くして本人も余命わずかという母親の前に偽の娘を連れてきて、生きていると信じさせてから天寿をまっとうさせてあげようとする人情話だったため、「いい話だけど若干地味だなぁ」と思っていたのだが、第2話、第3話の前後編で展開されたFILE No.2「蘭子という女」を見てからは、一気に引き込まれた。

 話は、四俵蘭子(深田恭子)の父親であるサンダー貿易の社長がビルから飛び降り自殺した事件の背景を調査するうちに意外な真相にたどり着く……という企業犯罪をテーマとしたミステリー。アクションあり、お色気あり、社会派メッセージあり、と三拍子そろった上できちんとエンターテインメントとして成立しており、実に見事で何度でも見返したくなるおもしろい話だった。

●『ハロー張りネズミ』に見る、大根仁のこだわり

 同時に、このFILE No.2から、主人公の五郎、相棒の“グレさん”こと小暮久作(森田剛)、酔っ払いの所長(山口智子)、情報屋の南(リリー・フランキー)、そして、後に探偵事務所の一員となる蘭子といった各キャラクターの個性が明確になっていき、チームモノとしての全貌が明らかになっていく。

 そうなると、スペシャリストのチームが次々と企業犯罪に立ち向かう事件モノになるのかと思うが、そうならないのが本作の人を食ったところだ。次のFILE No.3(第4話)では、なんと家に憑りついた悪霊を退治するというオカルトモノの話が展開された。

 蒼井優が演じる霊能者がおもしろくて見ていて引き込まれるのだが、ここまで話のトーンがバラバラだと「なんじゃこりゃ?」と思ってしまう。だが、このなんでもありの雑多性もまた、本作の懐の深さだろう。

 そして、各キャラクターのおもしろさもさることながら、本作の魅力は、やはり美術やアクションに対する大根の強いこだわりだろう。

 美術面では、探偵事務所や情報屋の部屋の雑多で汚れた生活感が秀逸だ。第3話で探偵事務所に忍び込んで証拠を持ち去ろうとする刺客とグレさんのシーンでは、思わず「痛っ!」と口にしてしまうようなカッターナイフを使ったアクションが展開された。

 話はなんでもありなのだが、要所要所のディテールはリアルにつくり込まれていて説得力があり、一言で言うと、エンタメとして実によくできている。この圧倒的な完成度を維持できるのは、大根が演出と脚本を1人で手がけているからだろう。

 大根と同じように深夜ドラマを主戦場としてきた福田雄一も、1月に『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ系)を民放地上波のプライムタイムで手がけ、全話の脚本・演出を担当した。

 今までは、プライムタイムのドラマと深夜ドラマは別のジャンルという感じだったが、今後は才能のある1人の作家が全話の脚本・演出を手がけるスタイルが民放地上波にも広がっていくのかもしれない。

 深夜ドラマの手法を持ち込んだ『ハロー張りネズミ』がどこまでおもしろくなるのか、楽しみである。
(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)

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