超一流米大リーガーから人気殺到!たった数人の野球用品メーカー、超低コスト宣伝戦略

超一流米大リーガーから人気殺到!たった数人の野球用品メーカー、超低コスト宣伝戦略

今季57本塁打(9月28日現在)のジャンカルロ・スタントン選手

 プロ野球やMLB(米大リーグ)も優勝チームが次々に決まり、ファンの関心は日本シリーズやワールドシリーズに向けた戦いや、選手の個人タイトル争いに移りつつある。

 ところで、そうした選手を陰で支える小さな野球用品メーカーがある。従業員数1ケタのベルガードファクトリーだ。捕手が着けるマスク、プロテクター、レガース、打者が手足につけるアームガードやフットガードといった防具が得意だ。

「特にMLBの選手に愛用していただき、メジャー30球団のうち9球団の4番打者が使ってくれています。そのなかには、シアトルマリナーズのロビンソン・カノ選手や、マイアミ・マーリンズのジャンカルロ・スタントン選手もいます」(永井和人社長)

 手前味噌で恐縮だが、同社を最初に注目したのは当連載だ。2016年1月29日付記事『国内外の一流プロ野球選手から注文殺到! 小さな用品メーカー、なぜ倒産から復活&急成長?』で紹介したところ、以後、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、ネットメディアが取り上げる例が相次いでいる。そんな同社の、縁を生かした「マーケティング戦略」が興味深いので、今回はそれを紹介したい。

●国内は「フェイスブック」、海外は「インスタグラム」で人気が拡大

 もともと、野球用防具はすべて日本国内の熟練職人が手づくりし、「特注品」は選手個人の使い勝手に合わせて微調整するベルガードは、モノづくりに定評がある。

 だが、大手メーカーとは資金力や体力で大差があり、マーケティングに多額の宣伝費をかけられない。そこで同社が行うのは、低コストで発信できるフェイスブック(国内向け)とインスタグラム(海外向け)での情報発信だ。かつて国内では、永井氏が仕事の合間に「ベルガード製作日記」と呼ぶブログを作成したが、今ではフェイスブックに特化した。

「フェイスブックに書く内容も、以前は新商品の告知が主でしたが、現在は防具を使うMLB選手の紹介が中心です。今季のスタントン選手のようにホームランを連発すると関心が高まり、動画では選手のプレーとともに、防具を装着した姿も注目されます」(同)

 防具のデザインも、ここ数年で進化している。有名選手には打撃フォームのシルエットも特注で施すようになり、海外での動画を意識して防具に「ベルガード」とカタカナで表示した商品も投入した。

 海外のインスタでは思わぬ波及効果も出た。当初、新商品や注目商品の写真と簡単な説明文を添えて発信したところ、海外の愛用者や同社のファンがコメントを付けて英語で拡散してくれたのだ。それにより認知度も高まり、国内のフェイスブックと合わせて、ネット経由で注文が多数入るようになった。

 同社は、有名選手には用具のみを無償提供し、マイナー選手やアマチュア選手には有償で買ってもらうのがビジネスモデルだ。価格は商品によって異なるが、打者用防具は上下(アームガードとフットガード)セットで約200ドル(約2万2000円)。だが、評判を聞きつけた有名選手がネット通販で買うこともあるという。

「MLBの有名選手のなかには、気に入ってくれると契約更改時に『あのメーカーの商品を使いたい』と代理人を通じて交渉してくれる例もあるようです。そうなると翌年以降は球団から注文が来ることもあります」(同)

 これも、従来のスポーツ用品メーカーとは異なる販売促進といえよう。

●「契約の壁」で使用できない選手も

 日本のプロ野球界でも同社商品を愛用する例は多い。たとえばダヤン・ビシエド選手(中日ドラゴンズ)、サビエル・バティスタ選手、アレハンドロ・メヒア選手(ともに広島東洋カープ)、エルネスト・メヒア選手(埼玉西武ライオンズ)、ステフェン・ロメロ選手(オリックスバファローズ)、ロエル・サントス選手(千葉ロッテマリーンズ)らだ。

 こう紹介すると、外国人選手ばかりなのに気づくだろう。実は、日本のプロ野球では、大手メーカーと専属契約する日本人の有名選手が、それ以外のメーカー商品を使うのは難しい。以前、首位打者も獲得した日本人選手が同社の防具に興味を持ち、依頼を受けて防具を提供したが、専属契約がカベとなり同選手はその防具を試合で使えなかった。

 長年、プロ野球の周辺取材をしていると、関係者から「日本人の有名選手は無料用具提供に慣れすぎて、ビジネス常識からかけ離れた選手も目立つ」という苦々しい声も聞く。

「たとえば、グローブを年に十数個、用具メーカーに無償提供を求める選手もいます。かつてセ・リーグ人気球団で有名だった選手(現在は引退)は、新しいスパイクを数日に1足、無償提供を求めていました。いくらなんでも、練習でそんなにツブすケースはありません。多くは新品をタニマチ(支援者)にサインして配っているのです」(業界関係者)

 もちろん、支援してくれる人あってのプロ選手なので、新品にサインして配るのは問題ない。関係者が声を潜めて言うのは「一流選手は高額な報酬を得ているのだから、たまには用具を自分で買ってはどうか」という思いだ。どんな分野でもそうだが、無料で手に入れた商品よりも、身銭を切って手に入れた商品のほうが、大切に向き合う。

 各企業には個別の事情があるので軽々しく論じにくいが、一方で地道に活動してきた中小の野球用具メーカーが苦境に陥っている例も耳にする。ベルガードも一度倒産し、現在の会社は永井氏が立ち上げた継続会社だ。野球業界全体の健全な発展のために「意識を改める部分は改め、団結できるところは団結していかないと」と思う。

●話題の「コラボ商品」も開発

 ベルガードの活動に話を戻そう。メディアを通じて認知度が高まった同社には、コラボレーションの依頼も入るようになった。ただし、もともと職人気質ゆえ、話題性中心のオファーには乗らずに対応しているという。

 現在、同社がもっとも注力するのは、“パワーを生むウエア”とのコラボ商品「AXF×Belgard」(アクセフ・ベルガード)だ。こう記すとウサンくさいが、装着すると「リカバリー」「バランス」「推進力」が向上する機能性衣料の一種だ。IFMC.(イフミック=集積機能性ミネラル結晶体)として特許出願中だという。リカバリー面でいえば、筆者は“リカバリーウエア”の取材経験もあるが、最近はマッサージなどによる疲労回復ではなく「着て疲労を回復する」市場が拡大している。

 今回のコラボは、永井氏の出演番組を観た岐阜市の衣料メーカー、サンフォードから話があり、社長同士が旧知の仲で機能性でも連携していた、大阪市のテイコク製薬社(高齢者の転倒防止ベルトなども製作)との共同開発だという。

 実際の機能性は新商品を試着した人に判断してもらうしかないが、永井氏が番組出演時に会った出演者仲間(元プロ野球選手もいた)や番組スタッフ(元六大学アメリカンフットボール部出身)が試着し、好評を得ているようだ。ただし、まだ「お墨付き」とまではいかない。

「新商品の評判は上々ですが、今後は良識ある研究者や第三者機関の評価など、エビデンス(根拠)を充実させるのが課題です」(同)

 ビジネス環境が一気に変わる時代。技術が優れた会社でも苦境に陥り、倒産に追い込まれる例は目立つ。一方で環境変化の波に乗り、注目を集める同社のような事例もある。その違いは何か。本連載でも時々記しているが、「あきらめずに動き続け、情報を入手する」姿勢も大切だ。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

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